菅原真:「国籍唯一の原則」の再検討
菅原真氏(南山大学法学部教授)は、4月16日オンライントーク「海外日本人と国籍喪失の危険性」 https://note.com/sln_/n/n07e97030ebf1 において、次のテーマでお話されます。
「諸外国における国籍喪失の規定の状況ー世界レベルで見た場合、国籍自動喪失規定をもたないのはどの国で、どのような理由で重国籍容認へと法制度を変えていったのか」
文献は、論文「『国籍唯一の原則』の再検討」(『世界諸地域における社会的課題と制度改革: 南山大学地域研究センター共同研究シリーズ14 』三修社 2023/03/31 p.35-65 )です。
当日は一時間のお話と質疑を予定しています。
質問やコメントがある場合は申込フォームまたは当日zoomのチャットにお書きください。
国籍唯一の原則とは
一般の人たちにはあまりピンとこないかもしれませんが、国籍法を巡る裁判において常に語られるのが「国籍唯一の原則」です。「ひとりの人間につき国籍はひとつ」というこの考えは重国籍防止策を正当化するもので、国側が主張の根幹にしています。
国籍はく奪条項違憲訴訟@東京の東京地裁判決(2021/1/21)でも、「国籍唯一の原則」を引用した国の主張が通った形になっています。https://note.com/amf2020/n/n7a18770207ce?magazine_key=m0b07cef1ca2d
AMF2020 2021年6月4日 23:01
「国籍はく奪条項裁判の意味と今後について」 講師:秋葉丈志氏
3)国の主張1:憲法には違反しない
■ 国籍選択制度とは手段が違うだけ:「国籍唯一の原則」に基づき一貫している
菅原真:「国籍唯一の原則」の再検討
論文はⅠ、Ⅱ、Ⅲの3部から成り立っています。
重国籍容認国が世界の多数派であるとするマーストリヒト大学の調査結果(2020年)
Ⅰ 世界各国における重国籍容認国の拡大
《マーストリヒト大学(MACIMIDE)の2020年調査結果》
調査では、世界において1960年から2020年の間に重国籍容認国の割合は38.8%から76.9%に推移し、現在では重国籍容認国が多数派であるとの結果が出ています。調査対象の195か国・地域は、全てが現行国内法の根拠規定と共に3種類に分類されています。
(1)「重国籍に寛容でない国」(国籍自動喪失制度を有する国)ー 45か国
(2)「重国籍に寛容な国」(重国籍容認国)ー 150か国
a)重国籍者の国籍自動喪失制度はないが、当該国の国籍を放棄することは可能な国ー131か国
b)重国籍者の国籍自動喪失制度がないだけでなく、原則として当該国の国籍の放棄を認めない国ー19か国
Ⅱ 世界レベルにおける重国籍容認国増加の要因
この調査を実施した学者たちの考察が紹介されています。
1 現代世界における「重国籍」容認国の増大傾向
2 相互依存とディアスポラ・ガバナンス
重国籍を容認する立場にたたない日本政府の主張を考察
Ⅲ 重国籍容認国の拡大に関する若干の考察
1 「国籍」の意義
( 1 )「国籍」概念
( 2 )「重国籍」を容認しない理由
2 日本政府の主張
( 1 ) 日本の国籍法
( 2 )日本政府の主張
3 日本政府の主張の検討
( 1 )世界レベルでの重国籍容認国の拡大
( 2 )「人権としての国籍」論
( 3 )ヨーロッパ人権裁判所の判例:重国籍と市民的権利
『世界諸地域における社会的課題と制度改革: 南山大学地域研究センター共同研究シリーズ14 』三修社 (2023/3/16)
沢登文治 編著 / 手塚沙織 編著 / 山岸敬和 編著 / 葛西康徳 執筆 / 菅原真 執筆 / 榎本雅記 執筆 / 岡田悦典 執筆 / 武内謙治 執筆 / 呉 煜宗 執筆 / 小林 武 執筆 / 佐藤 創 執筆 / デヴィッド・M・ポッター 執筆 / 金 孝淑 執筆
およそ20世紀後半から現在までの時代を中心に、世界諸地域で社会が直面する問題を把握し、それを解決するための制度改革について、またそれらがどの程度進展しているかを理解する。さらに諸改革への評価を明らかにし、残された課題をも論じる1冊。
目次
第1部 グローバル(奴隷はヒトかモノか―法と実務;「国籍唯一の原則」の再検討―MACIMIDEの調査結果にみる重国籍容認国の国際的拡大;パンデミック下の入国制限と解除をめぐる世界)
第2部 リージョナル(北米;ヨーロッパ;アジア)
出版社 : 三修社 (2023/3/16)
発売日 : 2023/3/16
言語 : 日本語
単行本 : 296ページ
ISBN-10 : 4384060602
ISBN-13 : 978-4384060607