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ある夏の日の思い出
「この夏、球場で中原監督を見ないと一生後悔する」と思ったのは今年の春でした。
3月下旬、日本ウェルネス長野の中原英孝監督が今夏の大会を最後に退任することを表明した。松商学園、長野日大、ウェルネス長野の3校を率いて監督歴40年、春夏通算11回の甲子園出場で県内最多の甲子園14勝。私の生まれ育った長野県で高校野球を見ていた人はもちろん、甲子園を熱心に見ているファンの方も知る人ぞ知る名監督。そんな地元が誇る名将が監督歴40年の節目、78歳でグラウンドから去ることを決めた。
私にとって中原監督は"地元の強豪・長野日大の監督"というイメージが強い。2005年に就任し、2008年に今まで甲子園の出場がなかった長野日大を春の甲子園(センバツ)に導いた。さらに2009年は夏の長野県予選を制して、再び甲子園へ。
なかなか私の地元の高校が甲子園で勝ち上がることがなかったので、2勝してベスト8に入ったセンバツも作新学院や天理といった全国屈指の名門に競り勝ちベスト16に進出した夏の甲子園も、当時小・中学生だった私はテレビに釘付けになっていたことを今でも覚えている。そんな名将が2015年から自身3校目となるウェルネス長野を率いて古稀、喜寿を迎えても元気にノックバットを握り、試合になれば球場に響き渡る声で選手を鼓舞する姿を見て「この人は生涯監督をやるんじゃないか…」と勝手に思い込んでいた。報道で退任を知った瞬間、「この夏は絶対に球場で、中原監督がノックを打つ姿を目に焼き付けたい」と思った。
季節はあっという間に夏を迎えた。なかなか都合が合わず、夏の甲子園をかけた長野県予選は大会期間中最後の週末を迎えた。7月23日、準々決勝の第2試合でウェルネス長野の試合がある。この日は仕事もなく「ここしかない」と思った。早起きして球場に向かった。超満員の球場、第2試合が始まる前のシートノック。記録にも記憶にも残そうとカメラを構えた瞬間、涙が止まらなくなった。78歳の老将が私が幼い頃に見てきた時の同じようにノックバットを持って、ゆっくりとグラウンドへ向かっていく姿を見て魂が震えた。
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3、4分ほどの内野ノックを終え、残りのノックをコーチに任せてベンチに下がろうとする中原監督にシートノックの途中にも関わらず客席から拍手が湧いた。気付いたら私も手を叩き、中原監督を見つめていた。毎年さまざまな球場で高校野球などを観戦しているが、シートノックの途中で拍手が湧く光景は初めて見た。周りを見ると私と同じようにカメラやスマホを構え、中原監督の勇姿を記録に残そうとする人がたくさんいることに気付き「本当にすごい人なんだ、この人は…」と改めて実感した。
試合は初回に2点を先行したウェルネス長野が序盤から主導権を握った。8ー1で小諸商業を下し、チームを率いる最終年に同校創部初の夏の県予選ベスト4進出を決めた。試合中に「ここぞ」という場面で見せる采配や選手を鼓舞する姿を最後に球場で体感することができてよかった、試合を見終えて心の底からそう思えた。長野県予選は準決勝、決勝ともに平日開催。私にとって今夏、最初で最後になった地元での高校野球観戦は一生忘れることのできない最高の夏の思い出になりそうです。