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“assertive”という言葉を知った日

自分の年齢を考えると、まぁまぁ長いことこの世界に身を置いていると感じる。しかし、まだまだ上手く出来ていないことは多い。

例えば、もっと”assertive”になるとか。


約10年前。

日本から飛行機で9時間程かけて、初めてシアトルに渡った。
テレビで度々映るダウンタウンから、車で40分くらいの所、のどかな町にあるお家にホームステイしていた。

短大を卒業するまでの3年間お世話になった。年に1回休みをとって帰国していたので、実際は2年ちょっとだと思う。

自分1人の力では、短大卒業はおろか、渡米も叶わなかった。
家族や留学先で出会った人達、兎に角沢山の方々に助けていただいたおかげで、色んなことを経験出来た。本当にありがたい。


ホストファミリーは高齢のご夫婦。

長いこと留学生を受け入れているお家で、自分以外にも2、3人の生徒が同じ屋根の下で暮らしていた。「学校に近いアパートへ引っ越す」という理由で、数回メンバーが入れ替わっている。

自分が通っていた学校は徒歩10分の所にあったし、何より温かい方々だったので、卒業までずっとお世話になった。
もちろんその間、家事や手伝いもちゃんとしてました。


自分で言うのも変な感じだが、勉強もちゃんとやってたし、トラブルも起こさなかったし、叱られたことはほとんど無い。
(部屋でずっと創作に没頭していたものだから、最初のうちはご心配をかけてしまったが……)

ただ、3年の間に1回だけ、ホストマザーからお叱りの言葉を受けたことがある。

その際に教えてもらった言葉が”assertive”だった。

直訳すると「独断的」みたいな、ちょっとワガママなイメージの言葉なのだが、ホストマザーから伝えられたこととはニュアンスが異なる。


留学中、暖炉のあるお部屋を使わせてもらった時期がある。
映画に出てくるようなものではなく、タイマーを操作することで、火が自動でついたり消えたりする仕組みだった。

シアトルの冬はめっちゃ寒い。暖炉があるのは本当に助かる。

ところが、ある時期から火がつかなくなってしまった。タイマーを操作しても、うんともすんとも言わない。

すぐに相談すれば良かったのだが、自分はそうしなかった。


自分には「トラブルが起きた時に人に頼らない」癖がついていた。
元から遠慮しがちな方だったが、小学生の頃に嫌な思いをして拍車がかかってしまった。

詳しい内容は書けない。めっちゃ長くなるし、当時の思い出もかなり薄まっているので、このまま溶かしてしまいたい。
簡単に書くと、自分が頼ったせいで、親にも辛い思いをさせてしまった、みたいな具合だ。
(余談だが、当時の自分の顔写真を見ると、「呪怨」に登場する子供の幽霊に似ている)


……そんなこんなで、「トラブルが起きたら極力自分で解決する」という妙なプライドが生まれてしまった。上手く言えないが、「周りに飛び火しないように」とでも思っていたのだろう。

暖炉の件も、自力で解決策を探りつつ、ガクガク震えながら眠っていた。
そこから2週間くらい経って、ようやく「相談しよう」という結論に至った。

原因は本当に単純で、主電源がオフのままだったのだ。
シアトルも夏は暑くなる。暖炉を使う必要がないためオフにしており、そのまますっかり忘れていた。


問題は解決したのだが、この直後、初めてホストマザーからお叱りの言葉を受けた。
特に強く覚えているフレーズが、

“To be more assertive.”

困ったことがあれば、すぐに頼りなさい、というニュアンス。
この時も自分の体調を心配してくださっていた。

続けて、トラブルがあった時、1人で抱え込んでいるうちに大きくなってしまう。そうなってからでは遅い。という事を教えてもらった。

まさにその通りである。

ミスなりトラブルなり、初めは小さいものでも、後々大きくなってしまうし、そうなれば1人でどうにも出来なくなって、結果的に「周りに飛び火」することになる。


教えていただいたことを意識していたのだが、深くついてしまった癖を矯正するのはかなり難しい。

短大を卒業後、4年制大学への編入が決まって準備をしていたのだが、知らぬ間にうつ病を発症。「気のせい、気のせい。シアトルに戻れば、ノリで治る」と自己診断してしまった。当然ノリでは何ともならず中退した。


手痛い経験をしたことで、ちょっと変化が生まれた。

事務の仕事をしていた時には、不明点があれば相談するように心がけた。ありがたいことに、職場の方々も丁寧に応えてくださった。

業務面の相談は出来ていたと思う。
ただ、体調の方は……またやらかしてしまった。あの妙な癖が出てしまった。その結果、現在静養中の身である。


“assertive”になれたかというと、まだまだ出来ていないなと感じるが、こうして書き出してみると、右へ左へぶつかりながらも、一応前進はしているように見える。
そして「飛び火してる」という、自分への忠告にもなった。

最近では、”assertive”とは違うかもしれないが、現在の状況なり気持ちなりを、取り敢えず言葉にすることが出来るようになった。溜め込まずに済むので、口に出すにせよ書き出すにせよ、形に出来るのは大きい。

自分で出来ることは自分でやりつつ、でも、助けが必要な時は、もうちょっと素直に、誰かに頼ってみようと思う。


「書いてみようかな」と思い立った、自分の中で強く印象に残っている1日のお話。

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