SS 「おいてけぼり女の戯れ言」

昔ァ、良かった。暇で暇で仕方なかったが、魚たちがいれば心安らいだンだ。

ある時、釣り堀をもった野郎に魚をとられちまった時に、
ヤロウ!させるか!って思って、ドスの効いた低い声で「置いていけ〜」って脅してやったンだ。
そうしたらさ、アタシの声を聴くなり仰天して、慌てて釣った魚をひっくり返しやがったのさ。あんときゃ、腹抱えて笑ったね。
どうしても強情なヤツにゃあ、のっぺらぼうで脅かして魚を奪取してやったよ。
そんときのアイツの驚きようといったら今でも忘れらんねェ!
だがなァ、最近じゃ。アタシの存在なんか忘れられちまってな
アタシが何回声を張っても、のっぺらぼうになって目の前に現れても、誰も気付いちゃくれねェんだ。
仰天してくれるヤツはいねェんだ。
これがホントの“置いてけぼり”ってヤツか。アッハッハッ!


あーあ、今の世ン中アタシたちみたいな存在は
つまんねェ嘘だとかいらねェ情報だとかいって排他されンだ。
これだから嫌いなんだ。
見たモンしか信じられねェヤツらはよ。
ねっと社会って言われてるけど、そん中にもアタシたちは潜んでいるんだ。
サダコやカヤコあたりがよく動いてくれているな。
お、北のほうには上半身だけで車以上のスピードを出すテケテケって言うのもいるみてェだな。
調べてみっか どれどれ。お、検索予測が出てるぞ。

〈テケテケ もつ鍋〉

オイオイ
テケテケを喰うって、人間の方が怖ろしいじゃねェか。


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