陽炎
水色のノートとペンを買って、日記をつけるようになった。
部屋には、そうやって、2ヶ月ほどの天寿を全うした日記たちが何冊も眠っている。
カゲロウは、羽化してから24時間で死んでしまうそうだ。食事をする必要もないから、口や消化器が退化して、ただ繁殖だけを果たして土に帰っていく。
およそ数十年の時間を与えられた僕たちが、ふとした夜に想う死や絶望など、暇つぶしで、世界のほんの一部でしかない。罪や罰は、息をしているだけで生傷を負う脆い生き物が、やっと拵えた有刺鉄線。
自分を責めれば、帳尻が合うかい。対価を払えば自分を許せるのかい。過激でいれば真剣な風に見えるかい。
カゲロウのように死んでいった日記を覗くと、何を食べたとか、何時間寝たとか、平々凡々な出来事が、錆び付いた有刺鉄線を覆い隠している。
死ぬほど残酷で穏やかで、放って置いたら風の一つも吹きやしない。
良くしていきたいんだ。数十年しかないんだから。
「スキ」を押して頂いた方は僕が考えた適当おみくじを引けます。凶はでません。