見出し画像

Tools and acccesories for guitarist 一般工具編

 前回の投稿でミュージック・ノマド(MUSIC NOMAD)の製品をご紹介したが、今回は楽器専用ではなく一般の道具・工具類の中からギターのメインテナンスに活用できるものを採り上げたい。





 先の投稿でも軽く触れたが、私のギターエンジニアリングの師匠は楽器専用ツールの偏重に批判的であった。
 楽器の修理調整の経験が浅かったかつての私は、なんでこんなに便利そうなモノがあるのに使いたがらないのだろうか、と不思議に思うことも多かった。

 10年以上を経た現在では師匠の考えがよく判る。

 まず、楽器専用ツール全般に言えることだが、耐久性や精度がイマイチなものが多い。これは実際に仕事で使ってみて、あっさりとお役御免になるものが多かったこともあり私も痛いくらいに思い知らされた。
 外したり抜いたりするための道具が繰り返しの使用に耐えられす摩耗したり、刃物であれば切れ味がもとからイマイチだったりする。

 それに、今でこそミュージック・ノマドだけでなくプラネット・ウェイヴスやジム・ダンロップ等から多くの専用ツールやアクセサリが販売されているが、20年ほど前はそれほど多くの製品が流通していなかったし、有ったとしてもそれなりに高額だった。

 それと、これは仕事で修理調整を続けるうちに気づいたことのだが、特定の作業に特化した専用ツールは他の作業に向かない、つまりツブシが効かないのである。
 たしかに便利ではあるが、それが無いと作業にならない専用ツールへ依存してあれこれ買いそろえるよりは、ある程度ツブシが効く一般的な道具を持っておき、状況に応じてあれこれと工夫しながら作業をこなすほうが現実的であり、同時に安上がりなのである。

 そのようなこともあって、楽器業界を離れる頃、だいたい10年ほど前あたりからは楽器専用ツールではなくホームセンターや工具専門店で入手できる道具を手元に揃えておくようになった。


 その、脱・楽器専用ツールを強く意識するきっかけとなったのがヤマハの80年代製SGだった。

ロッドキャップ部

トラスロッドの調整口、正確にいえばロッド先端にあるナットを回そうとしても

楽器で一般的に用いられるこのパイプレンチだとロッド先端がレンチの奥にあたってしまってナットに届かず、ネック反りが調整できないという状況に陥ったのである。

 ヤマハのSGシリーズはロッド調整口付近のスペースが非常に狭いこともあって使える道具類が限られてしまう。あれこれ試すが上手くいかず、半ば諦めかけたときにホームセンターで

このようなレンチを見かけ、ダメもとで買って使ってみたところ、レンチのリング状のほう‐メガネレンチ側がトラスロッドのナットにスルっと届き、何の苦もなく回せてしまった。
 拍子抜けすると同時に胸をなでおろした私は、あぁもっと視野を広く持たないとダメだな、今後はもっと普通の工具を使うようにしないと…としみじみ思ったものである。
 この時のコンビネーションレンチは今も手元にある。このレンチのおかげで6台近くのヤマハSGが救われたはずだ。

 ただ、誤解の無いようここで書いておくが、前回の記事におけるミュージック・ノマド製品の、MN219 Premium Bridge Pin Pullerは楽器専用ツールの中でもかなり耐久性・精度ともに高く、現在も仕事で使っているのでご紹介したのである。他の専用ツールも同じぐらい使いでがあれば多少は値がはっても持っておきたいものなのだが…





 ここからは楽器専用ではない、便宜上一般工具と呼ばせていただくが、ホームセンターや工具専門店で入手できる道具をみっつご紹介する。

 まず、IPS ソフトタッチウォーター WH-250

藤原産業が展開する「ソフトタッチ」シリーズのプライヤーで、もともとは蛇口やシャワーの継ぎ手のような、表面にキズを入れたくない箇所のネジを締めこむために開発されたらしい。
 
 ギターのハードウェアのメッキは決して強固なものではないし、少しでもキズや変形があるとけっこう目立ってしまうものである。
 このソフトタッチはジュラコンという樹脂を咥え部に装着することで回される側のネジや部材に不要な噛み跡が残らないように配慮されている。このジュラコンは消耗してきたらドライバー一本で交換が可能だ。

 ギターやベースであればマシンヘッド上面の六角ナットやエレクトリックアコースティックギターの、

エンドピンジャックとよばれるジャックを留め付けるナットや、その上にかぶせられる飾りのキャップ等の締め込みに使える。
 
 私はこのソフトタッチを当時勤務していた楽器店から少し離れた先の工具専門店で購入したのだが、これを持ち帰って勤務先の同僚達に見せたときの「おぉー!」という歓声を今でも鮮明に思い出せる。それぐらいこの、キズを入れにくいプライヤーは歓迎されたのである。





 次はヴェッセル(Vessel)のメガドラ

  このシリーズの、NEWジョーズフィットと名付けられた先端部の加工が重要なのである。

 工具の先端が浮き上がり、ねじ頭の外へ逃げてしまうカムアウトという現象を防ぐべくヴェッセルが開発したのがこのNEWジョーズフィット加工だそうだ。
 
 カムアウト防止の先端加工は他社も採り入れているらしいが、私がこの効果を実感したのはボルトオンジョイントのギターのネックジョイントネジを外す時である。

 他のネジ同様、ネックジョイントネジもメッキの剥がれやネジ山の潰れが目立つと見栄えが悪いものだ。
 ましてトラスロッド調整の際にネックを外す方式のギターでは頻繁にネジを外し、締めることになるのでネジの頭を極力傷めないようにしなければならない。

 そのようなこともあり、少しでもカムアウトしにくくネジを傷めにくいドライバーを探していたところに、ごくふつうの工具店で見かけたのがメガドラだった。

 現在ではメガドラのフィリップス(プラス)とブレイド(マイナス)をひとつづつ揃えており、それぞれネックジョイントネジと

このタイプの、ネックエンド側トラスロッドキャップの専用に近いかたちで使っている。
 もちろん必要に応じて他のネジにも使うが、力を入れて回してもツルっと空回りしてカムアウトすることがほとんど無いのでとても頼りにしている。

 いちおう公平を期すために記しておくが、今回の記事を書くにあたってヴェッセルのメガドラについてネット検索したところ、カムアウトしやすくて全く使い物にならない、という辛口の判定を下す方もおられるようだった。
 ただし、調べるかぎりでは用途が自動車整備とのことで、ギターの修理調整とは土俵が違うようだ。もしもギターだけでなく自動車や他のDIYもまとめて使えるドライバーが欲しい、という場合はメガドラ以外にも眼を向けたほうがよさそうである、としておく。





 みっつめはマグネットトレイをご紹介しておこう。

 特許技術や特殊な構造を持つ先のふたつの道具とは対照的に、何の変哲もないごく普通の道具である。
 主に自動車整備で用いられており、外したネジやナット、さらにはレンチやドライバー等の道具をまとめて保持しておくためのトレイである。

 エレクトリックギターの修理調整で、ネジを外す作業が伴うものの筆頭がヴィブラートブリッジである。

 一部例外はあるが、ほとんどのギターではスプリングハンガーのネジを回してのフローティングの調整の他、ギターによっては弦交換でもトレモロパネルを外すひと手間がかかる。
 その際、外したネジが床に落ちてしまいそのまま紛失したという経験のある方も多いだろう。
 かといってこの留めネジのパッケージパーツを店頭に並べている楽器店が近くにないかもしれないし、あったとしてもだいたいが10~20本ひと袋入りでの販売ということもあり、結果としてかなり割高な買い物になってしまう。

 まして、フェンダー系ギターのブリッジサドルの

弦高調整のアレンスクリュー(イモネジ)をうっかり失くしてしまったするとなかなかに辛い。楽器店に頼んでの取り寄せか、ネット通販で購入するしかないし、これまた12本前後ひと袋入りである。通販の送料が発生した場合など、もう眼も当てられない。

 そのような、外したパーツやネジ、さらには使用する道具類の紛失を防ぐためにも、マグネットトレイは意外なほど役立つ。

 私は仕事でギターをほぼ全バラシに近いところまで分解するので、先に挙げた画像のような大きめのトレイを使い、ピックガード留めネジは右下隅に、マシンヘッドのネジは左上に、と場所を決めて置くことでネジが混ざらないようにしている。
 ただの容器だとネジやナットが中で動いて混ざってしまうが、マグネットトレイはその心配が無い。

 もちろんトレモロパネルの着脱ていどの作業であればマグネットトレイも小ぶりなもので十分だし、

入れたネジやナットが傷まないように、またカチャカチャと耳障りな音が出ないようにシリコンやプラスティックを用いたものもあるので、好みで選んでもいいだろう。

 余談だが、ジム・ダンロップからは

しっかりとブランドロゴが入ったマグネットトレイがDTM01 SYSTEM 65 MAGNETIC PARTS TRAYの商品名でラインアップされている。
 詳細は上の画像クリック/タップでモリダイラ楽器のHPをご覧いただきたいが、ついでに、お近くのホームセンターで販売されているマグネットトレイとこのJダンロップのパーツトレイの価格を比べていただければと思う。
 




 最後に、用途が若干異なるがガーバー(GERBER)のマルチツールプライヤーをご紹介しておく。

 といっても自宅の作業スペースに常備しておく道具としてではなくその逆の、出先で緊急事態に出くわしたときの用心としてである。

 私はこのガーバーの、スカウト(Scout)というモデルを18年ほど前に入手した。
 もともとは出先でギターやベースの弦交換が必要になった際の、ベース弦を切断できるニッパーが欲しいという気の抜けた理由で購入したのだが、旅行や出張にもお守りがわりに持っていき、缶詰を開けたり絡んだ糸を切り落としたりして同行者に感謝されたりもした。
 もちろんギターやベース、エフェクトペダルやギターケーブルのプラグ等のネジを外したりナットを締めこんだりと、急場をしのぐのにひと役かってくれたこともあった。

 現在のガーバーではMP600 Pro Scoutという後継モデルがあるようだが、ガーバー以外にもウォーターマン(WATERMAN)やヴィクトリノックス(VICTORINOX)等の製品が、近年のキャンプブームもあって多く流通していることだし、用途や予算に合わせて選べばいいだろう。




 ともすれば専用ツールが無いと難しそうに思われるギターのメインテナンスだが、ごく一般的な道具でこなせることも多い。
 ギターを最良のコンディションで長く弾き続けるためにも、必要最低限、かつ汎用性が高くギター以外にも出番がありそうな道具類を少しずつでも揃えていくことをお勧めする。