エフェクトペダルの伏兵④ MESA/BOOGIE Tone Burst
世の中に星の数ほどあるエレクトリックギター用エフェクトペダルの中にはその実力があまり知られないまま低い評価に甘んじているものも多い。それらにスポットライトを当てる『エフェクトペダルの伏兵』シリーズ、ミュージシャンの機材探しの一助になればと思う。
第4回はメサ/ブギーのトーン・バースト(以下TB)をご紹介したい。
(メーカーHP)※本国の英文HP
今回もまたまた先にお断りがくる。メサ/ブギーの輸入代理店が昨年の半ばにキョーリツコーポレーションからギブソンジャパンに変わったのである。
(告知のHPはこちらを)
ギターファクトリーとしてのギブソンには何も含むところは無いのだが、同じくギブソンの傘下となったクレイマー(KRAMER)やヴァレイアーツ(VALLEY ARTS)、スタインバーガー(STEINBERGER)等、いつのまにか日本市場に流通しなくなってしまったブランドが多く、これじゃまるでブラックホールだなぁ、などとぼやいていたところにこのメサの代理店変更、今後の製品の流通が気がかりだ。
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改めて、今回ご紹介するTBはクリーンブーストのカテゴリに入るペダルである。
ギターの信号を、歪みのニュアンスを加えることなく増幅するのがクリーンブースターに期待される役目なのだが、このカテゴリにおいて長く王座に君臨してきたのはMXRのマイクロアンプである。
私が楽器屋で働き始めた頃にちょうど、注目を集め始めたのがエキゾティック(XOTIC)のRCブースターだった。
エキゾティックのペダルの凄いところは最低で9ボルト、最大で18ボルトの電圧で駆動する設計を採っているところである。
歪み系であればあえて低電圧のラフでダーティなサウンドを選ぶのもありだが、歪みを加えず増幅するクリーンブーストでは高電圧駆動のほうに分がある。
まだ100ワット超級のチューブアンプが幅を利かせていた2000年代初期、ノイズが乗りにくく強力な増幅を実現したクリーンブーストはその実力を存分に発揮してくれた。
他に印象深かったのはプロヴィデンスのFBT-1 ファイナルブースターである。
スタジオミュージシャンの使用で知られる同ブランドらしくノイズに強い信号へ変換する能力が高かった。
2010年代前半頃だったか、キョーリツコーポレーションの営業担当氏が新製品のメサ/ブギーのペダルを、たしか3機種見せてくれた。その中に今回のTBもあったのである。
他の2種が歪み系ペダルなのに対し、このTBはクリーンブーストだという。それを聞いてすぐに私は、そりゃいい音がするはずに違いない、と、実機を試す前に勝手に一人で納得していた。
なんせメサ/ブギーである、アンプリファイアー(増幅器)、ギターアンプのオーソリティではないか。しかもポッと出のペダルビルダーではない、70年代からギター/ベースのアンプ製造のトップランナーたるブギーである。
歪みペダルはまぁ、ギタリストの好みや流行といった要因に左右されるのは避けられないが、クリーンブースターであれば信号の純粋な増幅の一点突破である。メサ/ブギーと他のエフェクトブランドとの製品の比較など、V8搭載のマスタングGTと軽トラックぐらいの実力差が生じてもおかしくあるまい。
数日後にキョーリツ社から届いたTBを実際に鳴らしてみて、予想はあっさりと実感に変わった。
まず、とにかく増幅に安定感がある。TBの前に歪み系ペダルをつなぎ、ヴォリュームを上げても簡単には音が潰れないし、その状態でTBのヴォリュームを絞ってもしっかりと高音域が聞こえる。
ベースとトレブルの2バンドのイコライザはギターや前に繋ぐペダルとの相性もあるので難しいところだが、シングルコイルのギターの低音を持ち上げたり、ハイゲインなハムバッカーの高音域をさらに尖らせるようなセッティングに向いている。
また、ノイズも少ないように思う。
私が今も不思議に思っているのは、これだけの性能、特に強力な増幅を9ボルト回路で難なく実現できていることである。もしかしたらブギー独自の、昇圧もしくはそれに近い設計を採っているのかもしれないが、9ボルト電池ひとつで駆動するペダルで実現できているクリーンブーストのなかでは再良質のひとつだと思う。
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このTBはクリーンブーストを求めているギタリストの大半が難なく使いこなせると思っているが、ただひとつ、自分のギターのイコライジングが苦手な方にはお勧めできない。
TBに2バンドのイコライザが搭載されていることもあるが、まずその前のレヴェルとゲインで自分のギターの音像と、求める増幅幅を決められないというギタリストも意外に多いのである。
確かに先述のマイクロアンプやFBT-1は増幅のツマミがひとつだけのシンプルなものであったが、様々なアンプや録音機材に繋いで使うには調整機能が多いほうがサウンドを柔軟に調整できるほうが有利である。
noteに限らず色々なギタリストのブログやレビューを読むと、一発で欲しい音になったのでこれに決めました、という声に出くわすことがあるが、そこからギターが、アンプが、録音のマイクが変わったとたんに、どうしても納得いく音まで「詰め」きれなくなることも十分にあり得るのだ。
その都度ブースターを買い替えるような余裕や、複数のブースターをとっかえひっかえ試す探求心を持ち合わせているギタリストなど、そうたくさんいるものではなかろう。
概してギタリストはベーシストに比べてイコライジングに慣れていないし、そもそも無頓着である。
確かに6本や7本や8本、もしくはそれ以上の弦を一度に弾くコードストロークという奏法がある以上、全てにおいて完璧なバランスというのは難しいものだが、自分のメインギターとペダルをを繋いで鳴らしたときの音像、さらにはそれがオケ(伴奏)に混ざった時の「ヌケ」に普段から注意を払っていれば、おのずとセッティングは精度、満足度ともに高いものになる。
TBのクリーンブースターとしての基本性能は十分すぎるぐらいに高いレヴェルにあるので、あとは自分のセッティングに上手く組み込み、オーディエンスや録音メディアの向こうのリスナーを圧倒するような厚みとハリのある音を鳴らしてほしい。