『再生』する価値のあるギターとは
少し前に仕事で触ったギターの中に
このグレコ(GRECO)のギターがあった。
画像をひと目見てすぐにモデル名が言い当てられる方は‐現/元オーナーを除いて‐ほとんどいらっしゃらないものと思う。
かく言う私も全く見当がつかず、PCとしばしにらめっこしているうちに偶然見つけた
過去のグレコのカタログのこのページのおかげでRL-120Cという型番にたどり着けたのである。
もう少し調べてみると、
このページも見つかった。さらに、レベル・ライセンスことRLシリーズは短命に終わった90年代前半のシリーズであることも判明した。
80年代後半以降のグレコ製品を楽器店でチェックしていたリアルタイム派の皆さまならご記憶かもしれないが、グレコは1990年頃までギブソン(GIBSON)やリッケンバッカー(RICKENBACKER)のコピーモデルを生産していた。
特にギブソン系モデルは80年代初期よりミントコレクション(Mint Collection)の名で精力的に展開しており、その高い完成度が近年になって評価されつつあるらしい。
国内ブランドの多くが80年代中盤頃には海外製品のコピーからオリジナルモデル路線に切り替えるなか、グレコは約10年ほど遅れてカタログモデルの全てをオリジナルに移行させたということになる。
もちろんグレコの製品開発の水準が低いというわけではなく、70年代からすでにGOやMR、ブギーことBG、ミラージュといった魅力的なモデルをリリースしてきたし、それらの多くは90年代にもカタログに顔を出している。
しかし、そのグレコをもってしても90年代の製品ラインアップを揃えるのはなかなかに困難だったらしく、試行錯誤の時期だったらしい。今後の調査や研究が待たれるところだが、おそらくRLのように短期間で姿を消したモデルも少なくないだろう。
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改めて先に挙げたRL-120Cだが、ラインアップ上はシリーズ最上位という扱いだったようだ。
型番のCから推察できるようにギブソンのレスポール(Les Paul、以下LP)・カスタム(Custom)の意匠に倣っており、画像のホワイトの他にソリッド(塗りつぶし)の黒、ギブソン風に言えばエボニーブラックもあったようだ。私が触ったのもブラックだった。
ボディ裏面にはフェンダー(FENDER)のストラトキャスター(Stratocaster)で知られるコンター(カット)加工が施されており身体へのフィット感が高められている。
それと、ユニークなのがボディの形状と構造だ。
画像では分かりにくいが、一般的なLPよりもひと回り大きめなのである。
さらに、外観からは判らないがボディ内部に中空部を設けているのだという。
先のカタログのページでは「ホローボディ加工」と表記しているが、これなどはギブソンが現行のLP系モデルに採用している重量調整の中空加工、そうウェイトリリーフそのものなのである。
私はギブソンが2008年頃から多くのLPファミリーのギターに導入したウェイトリリーフについて
ダメではないが安易
な手法だと思っている。
木材の比重や目の詰まり具合をしっかり把握したうえで、弦振動を必要以上にロスさせないように配慮しながら施す中空加工であれば問題は無い。
だが、工場における量産である以上はどうしても個体の「鳴り」への配慮などは後回しになり、図面どおりの正確な加工が優先されてしまう。
結果として、製品を弾いたときのヴァイタルな反応や、高音/低音の混ざり具合といった、トータルな「鳴り」感が乏しいギターが多数派となってしまった感がある。
その点でRL-120Cを弾いた際の、指や手、身体に伝わる振動の大きさは私のようなスレた古狸を驚かせるだけのインパクトがあった。
おそらくだがボディ内部の中空部を設けるうえでの、どのあたりからどれくらい「抜く」‐木部を切削するかをシビアに判断したのだと思う。
RL-120Cが短期間の生産に終わったのは、もしかしたらこの中空加工の手間が大きくなりすぎたからではないか、などと勝手に想像したりもする。
もうひとつ眼を惹いたのが
ブリッジおよびテイルピースである。
ともにゴトー製だが、ブリッジは現行の510FBと同系のモデルであり、サドルやスタッドまでイモネジでロックすることで弦振動のロスを最小限に抑え込むことができる。
テイルピースも同様にロック機能を備えており、アルミ製で軽量なこともあり木部の鳴りをストレートに引き出す効果が期待できる。
この両者を純正搭載しているところにグレコの、RLにかける期待がうかがえるように思う。
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オールドギターを長く弾き続けるための復旧および改造であるレストモッドについて以前に投稿したことがあるが、RL-120Cなどはハードウェア交換によるアップグレードの格好の素体‐カスタムベースではないかと思う。
世の中に星の数ほどあるLP系エレクトリックギターで、「ホローボディ」加工と、あえてひと回り大きくとったボディを採用したモデルを探しても、まず簡単にはお目にかかれないだろう。
RL-120Cは木部加工に由来する鳴りの豊かさと太さを備えているので、あとはエレクトロニクスのアップデイトと細かな修正さえ加えればあっという間に「大化け」するはずだ。
具体的に挙げるとすれば、まずはピックアップ(pickup、以下PU)の換装である。
私の耳には純正PUのDRYは派手でラウドなサウンドは得意だが、強いアタックで弾いたときの太さや重さが物足りない。
クランチでの艶やかなタッチを重視するのであればギブソンのバーストバッカー・タイプ1をネックに、同2をブリッジに据える。
また、思い切ってEMGへの換装もじゅうぶんにアリだと思う。
2010年代に登場した、内蔵プリアンプを改良しさらにナチュラルなトーンを獲得したXシリーズであればRL-120Cの鳴りを余すところなく音声信号に変換し、かつ耳当たりの良いサウンドに仕上げてくれそうだ。
なおEMGへの換装にはジャックの交換を伴うが、他のPUであっても換装作業の際にジャックの変形や消耗を確認し、必要に応じて交換するといい。
ヘヴィサウンドを志向するギタリストであれば、純正搭載のゴトー製テイルピースはアルミ製のため軽すぎて、低音が物足りなく感じるかもしれないので、鉄や真鍮のリプレイスメントパーツに交換するといいだろう。
90年代製のRL-120Cに搭載のマシンヘッドはそれほど消耗・劣化は見られないだろうが、予算に余裕があればゴトーやシャーラーの高精度なものに換装すると実用性がさらに向上する。
これらの改造や加工はレストモッドというより、その域を超えた再生といえるだろう。90年代初期のグレコ製品には与えられることのなかった高品位なハードウェアに換装され、2020年代の機材と組み合わせても説得力あるサウンドを鳴らすことのできるギターに仕立て直されたのだから。
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中古楽器の売買に身を置いてきた者として言わせてもらうと、やはり日本の市場は非常に贅沢である。
同時に、ひどく偏っているとも思う。
今回ご紹介したグレコRL-120Cのような、製造時にかなりのコストをかけたギターが‐短命だったのもあるだろうが‐あっさりと忘れ去られ、新品当時からみればかなりの安値で叩き売られている。
一方で、ギブソンやフェンダーの、とりわけカスタムショップ製品などは絶え間なく市場に供給されており、高価ながら‐それゆえに、かもれないが‐次々と売れていく。
楽器店も商売なので見栄えの良い製品を大量に並べ、あの手この手で売りにつなげようとする。
だが、見栄や道楽のためではなく、音を出す道具を求めるシリアスなギタリストであれば、良い音がする、はずの高額なギターを探し回り、いたずらに時間と体力を消耗することにほとほと嫌気がさす時が来るだろう。
そのままギター探しの旅を続けるのも選択肢のひとつではあるが、レストモッドのような修理改造を含む加工作業により、自分のギターを「造り上げる」という手も有効であることを知ってほしい。
もちろん、どれだけコストをかけたところでギターそのものにポテンシャルが備わっていなければ、期待したほどの良いサウンドは得られない。スタートである素体選びがとても重要なのである。
骨董品的な価値が評価されるヴィンテージギターであれば改造や加工が躊躇われるところだが、今回ご紹介したグレコRL-120Cは希少価値もほとんど評価されておらず、顧みられることがないため流通価格は低い。レストモッドの素体に選ぶのに抵抗を感じる人はほとんどいないだろう。
LP系ギターの入手を検討しているギタリストで、納得のいくサウンドのためには多少の改造も許容でき、かつ、ブランドやモデルに必要以上にとらわれることのないフラットな価値観をお持ちの方であればグレコRLシリーズ、とりわけ120Cを探してみていただきたい。
運良く楽器店やリサイクルショップで現物を手にするチャンスに恵まれたら、ある程度大きめの音量で、普段よりも強めのタッチで弾いてみていただきたい。
弾きごたえ、とか、グッとくる感じ、とか、表現は抽象的でもかまわないので、他のLP系とは違う何かを感じ取れたのであれば、あとは若干のパーツ代と加工の手間でさらに強力な、頼れる一台に変身することを予期したうえで購入を検討していただければと思う。
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最後に蛇足ながら文中に挙げた製品について、製造・輸入元、ならびにユーザーの皆様の名誉を棄損する意志が無いことをおことわりしておく。