Fuzz概論② ~自分にあうペダルの選び方~
前回はファズというエフェクトの歴史的背景を中心に述べたが、今回は実際に自分の機材として選ぶ際に抑えておくべき点を述べておきたい。
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2000年代以降に長足の進歩を見せたデジタルモデリングを別にすれば、従来のアナログ方式によるファズの回路はパーツ点数も少なく簡素なものである。
そのシンプルな回路のなかでトーンへの影響が大きいとされるのがクリッピング回路に用いられるダイオードであり、特にゲルマニウムとシリコンのふたつがよく知られている。
60年代に広く普及したゲルマニウムダイオードだが、温度や湿度の影響を受けやすい特性もあり、70年代に入る頃には動作が安定しているとされるシリコンダイオードにとって代わられたのである。
一般的にはゲルマニウムダイオード使用の回路は音の滲み感が強く温かみを感じられるトーンを得やすいとされる。
一方でシリコンダイオードは音像の明瞭さを保てるためエッジーな質感にまとまるという。
その微細な差が大音量時の明確な違いに結びつくことを把握しているペダルビルダーのなかにフルトーンを率いていたマイク・フラーがおり、
ゲルマニウムダイオード仕様の69と
シリコンダイオード仕様の70ファズのふたつをラインアップしていた。
なおジム・ダンロップによる現行のファズフェイスにとってゲルマニウムダイオードは生命線であるらしく、メーカーHPにもしっかりと記載がある。
先ほどデジタルモデリングの名が出たが、ボスは2000年代に開発したCOSMによるモデリングを単機能ペダルにも積極的に採り入れており、現在はFZ-5がラインアップを支えている。
モデリングエフェクトについてはサウンドの質感に否定的な声もいまだに有るが、後述するように動作の安定に難があるとされるファズについてはデジタル回路の安定性はプラスになることもここで指摘しておきたい。
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前回の記事の終盤でズィー・ヴェックス(ZV)のファズ・ファクトリーの名を挙げたが、一般的にファズは動作が安定しにくい傾向があるとされる。
これはファズの基本的な回路構成が確立されたのが60年代であり、他のペダルと直列で繋ぐ手法やふたつのコイルを有する高出力なピックアップ、さらにはそのコイルが生み出した音声信号を電池駆動のプリアンプで増幅するアクティヴピックアップなどというものが存在しなかった時期であることが大きい。
ZVはそれを逆手にとって奇抜なノイズメイカーとしてのファズの側面を存分に引き出してみせたのだが、その破壊的な「サウンド」は鳴らすミュージシャンがコントロールできているからこそであって、制御不能な回路が耳障りな金切り音をまき散らすのに終始していては本物のノイズに成り下がってしまう。
そのようなこともあり、私がファズ選びについてアドヴァイスを求められたなら、
①トゥルーバイパス、もしくはバッファード/トゥルーのバイパス方式が選択可能
②デッドストックやヴィンテージ等の希少なパーツを使わず、安価で安定したパーツを使用
のふたつの条件を挙げる。
②についてはファズを本腰を入れて探したことがある方であればご理解いただけると思う。ファズがエフェクトペダルの魔境や泥沼と化している最大の要素がこのオールドパーツであり、流通台数や希少性そして価格に大きな影響を与えている。
散財浪費が痛くもかゆくもないのであれば話は別だが、あくまで演奏のためのデヴァイスとしてペダルを選ぶシリアスなミュージシャンであれば、希少性だけで価格が吊り上がるような製品には手を出さないのが賢明である。
①については、MXRの現行ラインアップにあるクラシック108ファズ(以下C108)を例に挙げたい。
ふたつのツマミのあいだにある”BUFFER”のスイッチはファズの効果をコントロールするのではなく、この前に繋ぐペダルの信号によって不随意な発振が起きないような設定に切り替えるためのものである。
スイッチングはトゥルーバイパスとなっており、以降のペダルやアンプへの影響を最小限に抑えられる。
モデル名の108はシリコンダイオードのBC108に由来しており、ゲルマニウムダイオード仕様のファズよりもきめ細かいトーンはニュアンスが出しやすい。不出来なオーヴァードライヴよりもヴィヴィッドな反応に、初めて鳴らすギタリストは驚くかもしれない。
あまり知られていないのでここに書いておくと、このC108の設計を手掛けたのはジョージ・トリップ、かつて自身のブランドであるウェイ・ヒュージ(WAY HUGE)を率いていたビルダーである。
トリップはのちにMXRの製品を手がけるようになったが、そのなかのひとつが
アナログディレイの傑作のひとつに数えられるまでになったカーボンコピー、そしてこのC108なのだという。
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ファズを選ぶにあたってもうひとつ重要なことがある。
それは歪みを
ファズだけで完結させるか
アンプや他のペダルの歪みと組み合わせるのか
である。
前者であれば個性の強い製品であっても、ようはミュージシャン本人に「刺さる」‐これがオレ/ワタシの音だ!という実感が得られるのであればそれが最善の選択なのだから、いわゆる崩壊系や変態系のペダルを選んでもいいだろう。ただし、最初にいきなり高額な製品に手を出すのはやめたほうがいいが…
後者の場合、特にメインとなるアンプが決まっておらず出先のアンプで鳴らしたり、アンプに繋がずそのままラインで卓に送るケースが多いのであれば慎重を期したほうがいい。
可能なかぎりトゥルーバイパスの製品を選ぶこと、万が一ファズのせいで音作りが破綻した場合に備えて他の歪みペダルをバックアップしておくことをお勧めする。
製品にもよるが、特にファズは
○自己発振
○ノイズ
○音やせ
○ピーキーな高音域
が発生しやすい。
これが大音量での演奏時に不随意に発生することは、安定した質の高いプレイをオーディエンスに聴かせるミュージシャンにとってはやはりリスクである。
先に名の出たMXRのC108やボスのFZ-5はファズの「ヤバさ」‐良い意味でも悪い意味でも‐があまり感じられないこともありマニア筋は評価しないかもしれないが、エフェクトペダルをギャンブルに、ギターサウンドの追求を趣味や道楽にしないためにも堅実な選択であるといえる。
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最後になったが、ファズの金属的で尖ったサウンドは上手く鳴らせば凡百の不出来な歪みペダルを圧倒し、頼りないアンプに強烈なカツを入れることもできる。自身のサウンドの追求を止めないギタリストであればいちどは鳴らしてみるのもいいだろう。