ギター雑学 番外編 German curveなる造形について
それほど重要ではないが知っておいて損は無い、ギター系弦楽器の成り立ちに由来するスペックや形状をご紹介する『ギター雑学』シリーズだが、今回はボディ外周の加工、その名もジャーマンカーヴ(German curve)を採り上げたい。
といってもギブソン(GIBSON)や現在のフェンダー(FENDER)等のメジャーな製品にはほとんど用いられておらず、2020年代の現在では正統継承者が居ないこともあって知名度も低いため、今回は番外編として扱うことにした。
むろんこのジャーマンカーヴを採り入れた製品やそのオーナーの皆さまの名誉を棄損する意志の無いことを先におことわりしておく。
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改めてジャーマンカーヴ(German curve、以下GC)とは、ギターのボディ形状に立体感を与えるための外周のカット加工の手法である。
このGCを考案したのはギタールシアー/デザイナーのロジャー・ロスマイズル(ロスメイズル)である。
地元の西ドイツで電磁コイルや磁石、ヘッドフォン等の設計開発に携わった後、1953年にUSに渡る。
短期間だがギブソン社に勤務したのちにリッケンバッカー(RICKENBACKER)に移籍、そこで製品に採り入れたのが
ボディ外周に大きなカット加工を施すGCであった。
当時のリッケンバッカーはラップスティールギターから発展させたエレクトリック・「スパニッシュ」(立奏用)ギターの量産体制を整えつつある時期だった。
ロスマイズルがリッケンバッカーに移籍したのは1955年とされているが、当時は厚みとアーチ形状を備えたホロウボディギターの需要が大きかったこともあり、CGは工程を簡素化しつつ有機的なカーヴ(曲面)を描くボディを製造するためのデザインだった。
GC採用のリッケンバッカー製品をよく見てみると、ボディは表裏とも上面は平らであり、ギブソン製品でイメージされるアーチ加工は施されていない。
これにより製造工程においてネックの仕込み角度やブリッジの位置をそれほど厳密に合わせなくてもよくなり、生産性が向上するのである。
ただし、これまたギブソンのアーチトップとの比較ではどうしてもボディが厚くなりがちである。
また、伝統的なアーチトップギターとはサウンドも異なってくる。
とはいえ当時のリッケンバッカー、いや、エレクトリックギターという楽器に求められるサウンドが大きく変化していたことを加味すれば、ロスマイズルが採り入れたGCと厚みのあるボディは決して異端でもなければ見当違いでもなかったといえる。
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ロジャー・ロスマイズルは1962年にフェンダー社に移籍し、開発部門において従来のフェンダー製品とは一線を画すデザインのギターを手がけることとなる。
その中でも知名度が高いのは
このLTD(L.T.Dとも)であり、ひと目見てお判りいただけるようにジャーマンカーヴが採り入れられている。
LTDではフェンダーの代名詞たるネックのボルトオンジョイント構造が採用されており、GCとは製造工程の簡略化という点でも相性が良かったのだろう。
ロスマイズルがデザインしたLTDをはじめとするギターは当時のジャズギタリストをターゲットとした高額なモデルが多く生産台数は少なかった。
また、ジャズマスターやジャガーを含めたジャズギタリスト向けのフェンダー製品がそれほど浸透しなかったこと、さらにロックンロールの爆発的なブームにより大音量での演奏に不向きなホロウボディのギターの需要が減っていったこともあり生産数を伸ばせず製造が終了、ロスマイズルの手掛けたギター達はやがて歴史の大河に押し流されてしまった。
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そんなジャーマンカーヴだが、実はロスマイズルが手掛けたリッケンバッカーやフェンダーとは違うギターカンパニーが継承していたりもする。
それがモズライト(MOSRITE)である。
モズライトの創始者セミー・モズレーは50年代中盤にリッケンバッカーの工場に勤務しており、その際にロスマイズルからGCの手法を教わったとされる。
とはいえ同時期に自身のブランドでもギターを製造販売していたモズレーは無断で工場設備を用いたことを咎められ、リッケンバッカーを解雇されてしまう。
その後のモズレーの紆余曲折すぎる足どりも合わせて考えると、モズライト製品に採用のGCは傍流としたほうが正確なようにも思えるのだが…
とはいえリッケンバッカーの現行ラインアップでGCを備えたモデルは
かなり高額なモデル、381V69しか残っていない。
フェンダーの、かつてロスマイズルが手掛けたLTD等のギターは今となっては遠い過去の遺物と化している。
近縁のモデルまで含めるとすれば下位ブランドのスクワイアで2014年に発売がアナウンスされたコロナド(Coronado)であるが、ボディにGCは施されていない。
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ロジャー・ロスマイズルがフェンダーを離れたのは1973年であり、その7年後に彼はこの世を去った。
以降のギター製造は世界規模で拡大し、ギブソンギターに倣ったアーチトップでさえアジア製の安価な製品が流通する時代が到来した。
GCはそれよりもずっと前の60年代に咲いた徒花にすぎないのかもしれない。
しかし、シンプルな加工工程と有機的なフォルムの両立は今後も色々と研究されていくべきではないだろうか。
GCとは趣がかなり異なるがフェンダーがエアロダイン(Aerodyne)シリーズで採り入れたボディ形状は非常にユニークなものだった。
他にもポール・リード・スミス(Paul Reed Smith)が下位グレードのSEシリーズに2010年代以降に採り入れたベベルドトップも印象的である。
これらの加工手法がさらにアレンジされ洗練されることが、ひいてはギタークラフトのさらなる発展を促すことになる。そのための創意工夫や設計開発はこれからも続いてほしいと思う。