Guild StarfireⅢというギターから見えてくるもの
ギルド(GUILD)というギターブランドの名を聞いてイメージするものは世代によってかなり異なるだろうし、なにより若い世代は知らないかもしれない。
今回はエレクトリック・アーチトップのロングセラーであるスターファイア(Starfire、以下SF)Ⅲという現行モデルを例とし、特にエレクトリック・アーチトップギターを選ぶ際の判断基準を提示したいと思う。
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ギルドというブランドの出自はなかなかに独特である。多くのギターファクトリーではマスター(親方)を務めるビルダーが創設するのに対し、ギルドは楽器店の経営者がきっかけを作ったのだから。
そのルーツはエピフォン(EPIPHONE)の、1957年に起きた買収劇にある。
1900年代初頭に起業して以来ニューヨークに拠点を置いてきたエピフォンはこの年にシカゴ・ミュージカル・インストゥルメンツ(CMI)社に買収される。
先にギブソン(GIBSON)を傘下に収めていたCMIはエピフォン製品をミシガン州カラマズーにあるギブソンの工場で生産することを決定、これに反発したクラフトマン達がエピフォンを離れてしまう。
すると、ニューヨークで楽器店を経営していたアルフレッド・ドゥロンジがクラフトマン達をひき入れ、新しいブランドのもとにギター製造を開始することを決めたのである。
中世の職工組合(guild)をブランド名に選んだのも、特定のビルダーではなく複数のクラフトマンによる製造という意味を込めているのだという。
そのような出自もあってギルドの最初期のギター、特にエピフォンが得意としていたアーチトップギターはヴィンテージ市場でも高値がつく。もっとも、本国USAとのニーズの差があまりにも大きいため日本市場に出回ることはほとんど無いが…
その後のギルドについて先に触れておくと、1972年にドゥロンジを不慮の事故で失ってからは労働争議に見舞われたこともあり経営は悪化、幾度もの買収を経て現在はコルドバ・ミュージック・グループの傘下となっている。
90年代中盤から一時期はフェンダー(FENDER)のグループに加わっており、同時期にフェンダー傘下だったオヴェイションやタコマ(TACOMA)の工場で生産されていたりとなかなかに入り組んでいる。
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さて、今回採り上げるSFだが、発売は1960年とされている。
発売当初は;
○SFⅠ:ハムバッキング・ピックアップ1基
○SFⅡ:ハムバッキング・ピックアップ2基
○SFⅢ:ハムバッキング・ピックアップ2基
ビグスビー・ヴィブラート純正搭載
※1960~1963年はシングルコイル・ピックアップ
という3モデルをラインアップしていた。
もっとも、ピックアップの数やヴィブラートユニット搭載でランク付けする手法はギブソンもファイアーバードで採っており、当時は一般的だったようだ。
ここで、1960年の時点でギルド以外のギターカンパニーがラインアップしていた製品を列挙してみると;
ギブソン:レスポール、同カスタム、同スペシャル、同ジュニア
ES-335、ES-330、ES-345、ES-335、ES-175
フェンダー:テレキャスター、ストラトキャスター、ジャズマスター
グレッチ:6120チェット・アトキンス・ホロウボディ(後のナッシュヴィル)
6119チェット・アトキンス・テネシアン
フェンダーは中空部を持たない一枚板のボディ‐ソリッドボディ構造のギターを生産しているが、一方でギブソンは完全な中空の「ホロウボディ」も複数ラインアップしている。
1960年時点ではソリッドボディ一本槍だったフェンダーもこの数年後にはホロウボディの需要に応えるべく
コロナド(Coroado)や
スターキャスター(Starcaster)を投入する。
そのような、ホロウボディがエレクトリックギターのメインストリームだった時代がSFにも反映されている。
ボディ構造はセンターブロック無しのフルアコースティックでボディ厚はES-335等に近い「シンライン」(thinline)である。
ピックアップは当時最新鋭だったノイズキャンセリング方式のハムバッキングタイプだが、ギブソンのハムバッカーことP490よりもサイズが若干小さめのものを採用している。
※1967年にハムバッカーと同寸のものに変更される
特筆すべきはボディの表板で、木目が見えるフィニッシュではマホガニーを、ソリッド(塗りつぶし)フィニッシュではメイプルを採用している。
SFではストックであるチェリー・レッドの個体のほうが圧倒的多数なので、一般的に知られるSFのサウンドはマホガニーが表板のモデルのものと言ってしまっていいだろう。
エピフォンのアーチトップにルーツを持つギルドでは、表板にはスプルースの単板、しかも裏面(ボディ内側)の補強部まで手加工で造る「削り出し」を用いたほうが明瞭でラウドな鳴りを生み出すことを熟知していたはずである。実際、同時期の上位モデルでは単板削り出しの表板を採用している。
対してSFではマホガニー、メイプルとも合板を用いている。
さらにいえばアーチ加工は手作業ではなく熱プレス成形である。
これは先にギブソンがES-175で導入し、以降のES-335系シンラインモデルにも用いているので、この時期の量産体制にうまくマッチしていたのであろう。
SFシリーズは70年代中盤頃に相次いで生産が完了し、先述のブランド買収を経て90年代中盤以降に再びラインアップに加わるが、以降は評価が高い60年代前半までの仕様を再現したリイシュー(reissue、復刻再生産)がほとんどである。
見方を変えれば一番人気のSFⅢがいつでもカタログモデルとして生産されており、その気になればいつでも購入できるわけで、長いギルドの歴史のなかでもアコースティックギターのD-50やD-55と並ぶ別格扱いのギターだといえる。
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ここからは現行モデルおよび同仕様の歴代モデルを念頭において話を進めるが、私がこのSFⅢというギターに肩入れする理由、それはこのギターであれば簡単に得られるトーンが他のギターではなかなか鳴らせないという事実につきる。
フルアコースティックかつシンラインボディという仕様はエピフォンのカジノ、およびその源流であるギブソンES-330と共通する。
だがカジノおよびES-330のボディ表はメイプルである。表板がマホガニーのSFⅢとの比較では高音域が明るく反応の早いタッチが際立つが、SFⅢの粘りや人肌の温もりに近い柔らかなタッチとは系統が異なる。
ギブソンの90年代頃のES-135というモデルをご記憶の方もいらっしゃるかもしれない。シングルカッタウェイ形状のボディにセンターブロックを仕込んだES-135はピックアップにP-100を採用していだが、ハムバッカー搭載のES-135カスタムというモデルもあった。
だが、センターブロックは剛性の向上とともにボディの表板の振動を抑制する方向に働く。SFⅢの繊細で軽やかな響きをES-135系に求めるのは酷というものだろう。
グレッチの現行モデルであればG6119T-62が該当するが、テネシアン~テネシー・ローズの系統であればフルアコースティックのシンラインというボディがSFⅢと共通する。さらにビグスビー・ヴィブラート純正搭載という点も一緒である。
だが6119は60年代中盤頃にボディ表のfホールを排し、代わりに同形状のペイントをあしらうシミュレイティッド・fホールに移行し、あわせてボディの表板を厚くする変更を行う。
ホロウボディの泣き所であるフィードバック‐大音量時の不随意のハウリングへの対策とされているが、これがボディ鳴りを抑え込むことになり、少なくともSFⅢと肩を並べられるようなナチュラルでウッディなトーンではなくなってしまう。
こうしてみるとSFⅢは60年代初期のエレクトリック・アーチトップギターの仕様から大きく逸脱することなく現在も生産が続いている、意外なほどレアなモデルなのである。
しかも、それがギブソンやグレッチの、近い価格帯やより高額な製品ではなかなか得られない個性的なトーンがSFⅢの存在価値を高めているということも、現在となっては意義深いことである。
もうひとつ、これはギルドやその他のギターカンパニーの責任ではないのだが、SFを模倣したギターがほとんど存在しないという事実も挙げておきたい。
ストラトキャスターやレスポール、ES-335はいうまでもないし、グレッチの6120や6119の仕様を採り入れたモデルを精力的にリリースするビルダーがUSAには一定数存在する。
その一方でSFの(センターブロックを仕込んだ現行のⅤやⅥはともかく)ⅠからⅢまでの、60年代の仕様に準じたモデルのレプリカやクローンはほとんど流通しない。
これはかつての量産機種の生産加工技術が現在ではあまり用いられなくなり、再現しようとすると逆に割高になってしまうからではないかと私は推測している。
だからこそギルド製SFⅢが現在も製造されており、ここ日本でも輸入代理店がたっていて(キクタニミュージック)入手できるということは小さからぬ意義があるように思うのだが。
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エレクトリック・アーチトップは一般的にジャズのフィールドのギターとして認識されている。
もちろん現行SFⅢをそのようなセッティングで鳴らしてもかなり説得力あるサウンドを鳴らしてくれるが、しかし、60年代以降に台頭したエレクトリックブルーズそしてロックンロールのフィールドでもSFは手にされることが多かったという事実をぜひ知ってほしい。
それと、今までソリッドボディしかプレイしてこなかったギタリストで、サウンドの幅を広げるためにエレクトリック・アーチトップを採り入れることを考えているのであれば、定番のES-335だけでなくSFⅢも候補に入れてほしい。
ES-335と一緒に他のギブソンギター、主にレスポールやSGをプレイしていると、結果的にどのギターも同じサウンドになってしまうことが多々ある。
それだけギブソンギターには明確な個性や主張があるということなのだが、ソリッドボディとは明らかに系統が異なるギターの、しかも他のギターでは「ツブシが効かない」‐安易な代用が出来ないサウンドを得るための選択肢としてSFはかなり有効なほうに入る。
さらに、そのサウンドが、特殊な回路や修理調整が難しい複雑な機構によるものではなく60年代のテクノロジーやギターエンジニアリングによって生み出されていることも、このSFというギターの価値を堅実なものにしている。
かつての変遷もありいまひとつ正当な評価を受けられないギルドだが、選ぶ価値のあるギターを製造しているブランドであることをこの機会に知ってもらえればと思う。