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ギター業界の隠語・略称あれこれ~番外編 英語との呼称の違い

 以前にギター業界の隠語や略称を紹介したが、今回はその番外編として英語圏と日本での呼び方や通り名が異なるものを挙げていきたい。

 なお英語での呼称は特に断りがないかぎりUSおよびカナダの北米圏内のものを挙げることとする。いうまでもなくfretted instrumentーギター系弦楽器の市場規模はUSが現在もなお最大であり、歴史の長さや厚みにおいても突出していることに疑いはない。

過去の記事はこちらを;



○tuner

 英語と日本語の違いで最も紛らわしいのは間違いなくこれだろう。
 日本の楽器店で「チューナー下さい」といえば

KORG製品

これらのチューニングメーターが出されるだろう。
 一方、英語でtunerというと

 日本でいうところのペグのことを指す。

 英語では他にtuninng machineと呼ぶこともあり、実際に

フェンダーのオフィシャルHPでも用いている。
 だが英語圏ではtunerのほうが圧倒的に主流らしく、私の経験でもtuning machineやmachine headというよりもtunerと呼んだほうが通りが良かった。

 そもそもペグとは

ヴァイオリンやチェロ等の摩弦楽器の糸巻きのことである。

先細りの穴をあけた楽器のヘッドに同じく先細りの木栓(peg)を差し込み、木材どうしの摩擦で弦を巻き上げて固定する。
 現在のギター系弦楽器は金属製で張力の強いラウンドワウンド弦が主流であり、強度や耐久性や巻き上げ機構の精度向上が求められることもあって、昔ながらのペグを用いているのは一部のウクレレだけである。

 

○フロント/センター/リア

 複数のピックアップを搭載したギターの、ヘッド寄りからの呼称だが、英語ではneck(position, pickup), middle, bridgeと呼ばないとまず通じない。
 おそらく自動車のエンジンレイアウトからの連想で用いられるようになったであろうfrontやrearだが、これは進行方向に対しての位置づけという意味合いがある。
 ギターはスタンドに立てられたりストラップで肩から吊るされたりすることはあっても自身で走り出すことはないので、frontやrearという単語はふさわしくないのである。



○エスカッション

escutcheonはいちおう英語なのだが『紋地の入った盾、盾形の紋地』などという、ギターとは似ても似つかないものの名、らしい。

 英語圏ではpickup mounting ringと呼ばれることが多い。
 またグレッチをはじめとする一部のギターではpickup bezelと呼ばれるが、これはピックアップの機能に影響しない「飾り」であることを示す意味合いがあると思われる。たしかにグレッチの多くのギターではピックアップは木部にネジ留めされており、プラスティックの枠はその外周の縁取りである。



○トレモロ

 もちろん、tremoloには電気信号加工のエフェクトという意味もあるが、ギター本体の構成部品としての「トレモロ」といえば

こちらを指す。
 これについてはシンクロナイズド「トレモロ」の開発者レオ・フェンダーに責任があるといえるだろう。本来は音量の大小の変化であるtremoloを、音程の変化を生み出すブリッジユニットの名に使ってしまったのだから。

ビグスビー(BIGSBY)のこのユニットの正式名称はBigsby True Vibrato tailpieceである。

 フェンダーもマスタング(Mustang)に採用の純正ユニットにはダイナミック「ヴィブラート」の呼称をつけているし、たしかに英語圏ではvibratoのほうが主流である。



○ツマミ

 日本語のツマミはスイッチの先端からヴォリュームおよびトーンのダイヤル、「ペグ」の持ち手まで色々と使える便利な単語である。
 英語ではそうはいかず、

フェンダーのスイッチのレバーの先端に付けるのはtipであり、

「トレモロ」アームの先端に付けるこれもtipである。

ギブソンのレスポールのヴォリュームおよびトーンにはこのknobを装着するし、

シャーラーでは”tuner”にこれらの交換用のbuttonをラインアップしている。



○ザグリ

 もしかしたらと思うので挙げておくが、ザグリは「座繰り」、日本語である。貫通させない掘りこみ加工を指す。

 英語ではpickup cavitiesやcontrol cavityのように全てcavityという単語で表現できる。
 なお「座ぐる」‐キャヴィティをあける加工はrouteで、木部を掘りこむ改造をroutingと表記することが多い。



 これらの英語/日本語の呼称の差というものは、以前であれば楽器屋店員が多少なりとも身に着けておけばいい、ぐらいの予備知識でしかなかった。

 ところがこの10年ほどのあいだに海外の通販サイトを経由した個人輸入がずいぶんと盛んになり、さらには輸入代行業者も多く登場した。

 もちろん日本の輸入代理店が責任をもって取り扱っている商品であれば大して心配はいらない。
 だが、もしも独力で海外から商品を取り寄せよう、とか、SNSからの伝手でギターを代理購入してもらうことになった、などという際に慌てて翻訳サイトで調べたりすると、とんでもない勘違いをしてしまうことがあることをこの機会に知っておいてほしいと思う。

 また、中古ギターやヴィンテージ、海外でしか流通していない商品等に興味があるならば普段から海外のサイトに目を通して、英語の表現に慣れておくことをお勧めしておく。
 勉強と思えば憂鬱だし苦痛だが、自分の好きなもののためと思えばそれなりに楽しめるものである。