エフェクトペダルの伏兵③ HAO OD-16 Omega Drive Sixteen
世の中に星の数ほどあるエレクトリックギター用エフェクトペダルの中にはその実力があまり知られないまま低い評価に甘んじているものも多い。それらにスポットライトを当てる『エフェクトペダルの伏兵』シリーズ、ミュージシャンの機材探しの一助になればと思う。
第3回はハオ(HAO)のOD-16 Omega Drive Sixteen(以下OD16)をご紹介したい。
今回もまた先にお断りしなければならないが、このOD16も生産完了品である。
というより、HAOは数年前ぐらいだろうか、Bass Linerという製品を残して他の全機種が流通しなくなってしまった。なにぶんすでに楽器業界を離れてしまった身としては事情が全くつかめないのだが、Rust Boosterをはじめ優れた製品を多くリリースしてきたブランドだけに寂しくてならない。
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2009年に発売されたOD16は2014年にマイナーチェンジを受けているので、私が楽器屋店員時代に商品として取り扱っていたのは前期型ということになる。後期型は試したことが無いため、今回の記事は前期型のみに絞らせていただく。
(左側の白い文字の筐体が前期型)
HAOは他モデルでもマイナーチェンジを行うことがあり、製品サイクルが非常に長いブランドのひとつといえる。
以前の記事でもたびたび言及しているクローン(KLON)のケンタウルスだが、やはり他ペダルデザイナーに与えた影響は大きく、HAOもまたOD16で18ボルト昇圧という手法をとっている。
昇圧系の音質上のメリットについてはカールマーティンのHot Drive'n Boostをとりあげた以前の記事のなかで触れているのでここでは繰り返さないが、楽器屋店員としていくつもの昇圧系歪みペダルの音を聴いているうちに気づいたことがある。
肝心なのは昇圧回路ではなく歪み方である。
ペダルに詳しい方ならご存じかと思うが、昇圧回路を通しただけではギターの信号は歪まない。そこから例によってクリッピングの対称非対称やら、ダイオードやオペアンプやら、ゲルマニウムやらシリコンやらをあれこれと絡み合わせて初めてギタリストが納得する歪みが得られる。
その、ギタリストを喜ばせ、時に圧倒するような歪みとはいったいどのような音なのかをペダルデザイナーが分かっていなければ、歪み系ペダルとして魅力のある製品は生まれないのである。
OD16の歪み方は非常に幅が広い。Gainを抑えてトーンを思い切り上げれば低音が強化されたTS9ともいうべきロウゲインドライヴになるし、そこからGainを1時位置まで上げればProCoの、オールドのRATを連想させるダーティでラフな、エッジがバリバリと立った歪みに変化する。
MXRのディストーション+を明るくドライな歪みとすれば、OD16はスモーキーな歪みといえる。
フルトーンのFull-Drive2 MOSFETがマイルドでブライトとすれば、OD16はヘヴィでダークである。
余計なひと言を付け加えておくと、最近のトランスペアレント系ペダルとは真逆である。クリアでシャープなトーンを至上とするギタリストにはOD16はお勧めできない。
そして、実はここからが重要なのだが、OD16にはあまり知られていない特性というか、いわば別モードがある。
Toneツマミの横にあるミニスイッチによりToneをバイパスすると音量が一気に上がるのである。
2000年代のフルチューブ・スタックアンプの、ハイゲインながら高音域の反応が鈍い特性をご存じの方ならピンとくるだろう。
アンプ側をクリーン、またはごく軽いクランチに設定したうえでこのToneをバイパスした、レベルの高い信号を鳴らすことでさらにエッジーな、ギラギラ、バリバリとしたサウンドが得られるのである。
高音域を強調することでギターサウンドのエッジを際立たせる手法は70年代にすでにトレブルブースターと呼ばれるペダルで実現していたが、OD16はそこに昇圧系ならではの低ノイズと低音の太さ、強弱の変化で音に表情がつく細やかさをプラスすることでハイゲイン・スタックアンプをコントロールするというセッティングを提案しているのである。
さらにいえば、音のコントロールという使い方がこれほどふさわしいペダルもないだろう。
デジタルプロセッサが普及した現在ではマルチエフェクトやラック機材でほぼ9割がた音を決めておき、出先のアンプは音量を調整するだけというギタリストも多いだろう。録音の現場ではアンプさえも通さず、そのままミキシングの卓に繋ぐこともあるときく。
OD16はそのようなモダンスタイルとは真逆の、ず太い歪みをバカでかい音量で鳴らすためのエクイップメントである。
そして何より、ギタリストの右手に、ギター本体の鳴りに忠実な音をラウドに鳴らすことができるペダル、どんな大出力のアンプが相手でも力でねじ伏せることができるペダルが足元にあることで、サウンドメイキングの主導権をギタリストが握ることができるというのが大きい。
ギタリストに必要なのは結局のところ、自分の音が鳴っている、その音をリスナー/オーディエンスに聴かせているという確信なのである。持っていて心強いペダルという点で、このOD16に並ぶものはそうたくさんは無いと思っている。
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なおHAOは2010年にOD16のバリエーションモデルの、その名もDark Sideを100台限定で生産している。
歪みが深くなり、高音域の反応が良くなったことでさらに強烈な、自己主張の強いサウンドを獲得している。もし見つけたらとにかく試しておくことをお勧めしておく。