ヘッドレスデザイン
まずはこちらを。
BanG Dream! プロジェクトのなかのグループ、RAISE A SUILENについては他の詳しい記事をご覧いただくとして、ベースがスペクター(SPECTOR)、ギターがストランドバーグ(.STRANDBERG*)の製品であることにお気づきかと思う。
両ブランドのあいだには資本提携や技術面の交流などは無く、共通項といえば日本の輸入代理店がキョーリツコーポレーションであることぐらいのはずだ。
もっとも、このグループのコラボレーション商品が潤沢に市場に供給されているのはひとえにキョーリツ社の強力な販路ゆえであり、同社の辣腕を褒めるべきではあるが…
日本での流通は別にして、スペクターNSベースと、ストランドバーグ製品が採り入れるヘッドレスデザインはネッド・スタインバーガーというエンジニアという源流を共有しているのである。
今回はストランドバーグ製品で再び注目を集めるヘッドレスデザインについて書いてみたい。
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新世代のギターデザインを提示した新鋭のデザイナー・エンジニアとしてネッド・スタインバーガーは1980年代に自らの会社を設立する。
そのネッドと、スペクター社の創業者ステュアート・スペクターが70年代中盤のニューヨークの共同運営のワークショップで知り合った友人であり、後にスペクターのロングセラーにしてフラッグシップとなったNSシリーズをデザインしたのがネッドであることをご存じの方もおられるはずだ。いうまでもなくNSはネッド・スタンバーガーのイニシャルに由来する。
(最初期の製品 NS-1)
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NSベースはスペクターの看板商品となり、同社を長く支えることになったのだが、一方のネッドにとっても得るものの大きい楽器だった。
もともと工業デザインの研究を通じて業務用の家具の設計を志していたというネッドは楽器の演奏経験が無く、従来のフレット楽器のセオリーに捉われない発想とそれを実現するメソッドを採り入れた。
具体的にはネックをボディと一体化させるスルーネック構造と、小ぶりなヘッドストックを組み合わせることで弦振動のロスを極力減らし、密度の濃い低音を鳴らすエレクトリック・ベースギターという楽器を創りあげようとしたのである。
しかし、出来上がったベースを弾いてみても低音が細く物足りない。
それが、マシンヘッドを配したヘッドストックがネックの先端にあることで重量バランス、さらには重心の配置に原因があることを突き止めた彼は、ブリッジの真下に鉄製のブロックを仕込むという手法で解決を図った。
この経験から、ブリッジにマスを集中させることの重要性に気づいたことが後にスタインバーガー製品の主要スペックとみなされることになるヘッドレスデザインの誕生につながる。
このことはスタインバーガーのみならず他社製品の、ヘッドレスデザインを取り入れたモデルにも共通する特徴となる。
すなわち、ボディ材やブリッジ等の比重や材の密度、そして剛性が音に大きく影響するのである。
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ヘッドレスデザインのギターではごく一部を除いて、チューニング(調律)はブリッジ側で行う。
それに伴い、ヘッド側には弦を固定する機能のみが求められるようになり、ヘッドピースと呼ばれるパーツが配されるようになる。
ブリッジでのチューニングに当たってはボールエンドを咥えこんでブリッジユニット内に引き込む、チューニングジョー(jaw)が弦を保持する。
これによりブリッジとヘッドピースで弦が固定され、チューニングが安定するというメリットが生まれる。
従来型のマシンヘッドの構造を用いながら、軸で弦をロックする機構を仕込んだものが、シュパーゼルをきっかけとして90年代頃から多用されるようになった。現在ではシャーラーやグローヴァー、ゴトーも同機能を備える製品をリリースしている。
だがウォームギアを用いたマシンヘッドの大半が今なお18:1というギア比なのに対し、スタインバーガーのブリッジでは理論値で40:1という異次元の数値を実現したという。
もちろんパーツの加工精度に大きな影響を受けるのでこの数値をうのみにするわけにはいかないが、それでも、チューニングの精度に大きなアドヴァンティッジがあることに変わりはない。
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スタインバーガーは80年代中盤にギブソン社の傘下に入り、90年代まではある程度の製品が流通したものの、以降はその名を知らしめる新製品の登場も無く、存在感はかなり薄れてしまったように思える。
それから月日は流れて2010年代、ストランドバーグなるスウェーデンのギターカンパニーの製品が日本市場にも顔を出したこと、さらにその影響であろう、かのアイバニーズ(Ibanez)から
クエスト(Quest)ことQシリーズが発売されるのだから、いやはや、時代の広大なる大河の行方はまったく分からないものである。
ストランドバーグ製品の大半や、上の画像のアイバニーズQX54QMに採用されているマルチスケールもまた、ヘッドレスデザインによりその実用性を向上させている。
ブリッジの、従来の全弦一体型から各弦独立の「モノレイル」構造へ切り替えるという手法は2000年代以降のギターハードウェアで採用が進んだし、何より90年代末頃にアイバニーズはベース用ブリッジで製品化していた。
当初は弦どうしの共振を防ぐことで明瞭な、粒立ちの良いサウンドを狙っていたのだが、これがマルチスケールの、弦ごとに配置を大きく変える必要のあるブリッジでは吉と出たのである。
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さて、これで筆を置いてしまえば、ギターエンジニアリングの観点からはヘッドレスデザインは至上にして究極であり死角が存在しない、ことになる。
しかし実際には、少なくとも従来の、クラシカルなスタイルのエレクトリックギターを弾いてきたギタリストが違和感を覚える点も多いのではないかと思う。
私がそう思うのは他でもない、ここ最近でストランドバーグ製品と、先の画像のアイバニーズQX54QMの実機に触れる機会があったからである。
詳細は省くとして、また両機を強引にひと括りにすることをご容赦いただければと思うが、私が感じたのが低音の細さと、強いアタックに応えてギターが鳴る感触‐弾きごたえの弱さであった。
原因はすぐに察しが付く。両機ともブリッジが、かつてのスタインバーガーやステイタス(STATUS)に比べてかなり軽い。
そのぶん弦振動がボディやネック等の木部にロスなく伝わっているものと思いたいが、その木材もかなり軽いように思う。
これについては先のスタインバーガーが、木材を超えた比重と硬度を求めてカーボングラファイトという新素材を導入したことを思い返すべきかもしれない。
その一方でピックアップにはかなり出力の高いものを選んでいるので、アンプから聴こえるサウンドには、現在の基準で考えても十分な厚みや太さがある。
これはもう、設計段階でそのような音を志向していたと考えるべきなのであろう。太い弦を張り強いアタックで弾くことで得られるギターの「鳴り」よりは、軽いタッチでもしっかりと音が立つことでギタリストのプレイの繊細さを損なわず出力することに重きを置いている、そう考えたほうがいいようだ。
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ストランドバーグやアイバニーズQシリーズ、及び他社製品のヘッドレスデザインのギターやベースの入手を検討している方で、現在のメイン機よりも軽くシャープなタッチ、特にギターで「軽やかさ」‐高音域の伸びやかさとナチュラルなサステインを重視しているのであれば、実機を試してみる価値は十分にある。
一方で、特にベースの地を這うような重く太い低音や、ダウンチューニング時のゴリゴリ、ゴキゴキとした硬質な音像、強いアタックで弾いた時の「ゴッ」「ギャン」というパーカッシヴなタッチを失いたくないのであれば、ヘッドレスデザインのギター/ベースはその要求に応えられないかもしれない。
もちろんそれはギターエンジニアリングから導き出される理屈でしかなく、最終的にはミュージシャンの求める音と楽器の鳴らす音がマッチすればなんの問題も無い。
だが、もし試したギターやベースが自分の予想と異なっていて、自分のプレイスタイルや志向する音に自信が持てなくなっているのであれば、ピックアップや木材等のスペックよりも、ヘッドレスデザインの特性という、さらに根源的な要素に眼を向けてほしい。
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最後に無粋ながら、今回の記事で取り上げたギターブランドやその製品、並びにそのオーナー、プレイヤー諸氏の名誉を毀損する意図は一切無いことを記しておく。