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Tools and acccesories for guitarist MUSIC NOMAD編

元中古楽器店員がギター系弦楽器のハードウェアや周辺機器、修理調整にまつわるあれこれを書き綴っていきます。お持ちのギターのグレードアップや、長く弾き続けるためのメインテナンスについての参考にしていただければ。

(Rockfish's Workbench プロフィールより)

 私がこのnoteに投稿を始めるにあたってこう名乗ったものの、ミュージシャンにとってのお役立ち系記事がこのところ疎かになっていたことを反省している。
 今回はRockfish’s Workbenchの原点に立ち返るべく、ギター/ベースのメインテナンス用ツールやアクセサリを、ミュージック・ノマド(MUSIC NOMAD、以下MN)製品の中からみっつご紹介したいと思う。


(以下画像クリックで該当商品ページ)





 私がミュージック・ノマドの商品を紹介されたのは2010年頃だったように記憶している。現在も輸入代理をつとめるキクタニミュージックの営業担当者からザ・ギター・ワン(ポリッシュ/クリーナー)とギタータオル(マイクロファイバークロス)を教えられたのがきっかけだった。
 それから10年余りが経った現在では商品点数もぐっと増え、ギター/ベース用品以外にも管楽器用のアクセサリまで販売している。もちろん輸入代理を続けるキクタニ社の注力もあるだろうが、閉鎖的で保守的なところもある日本の楽器業界でMN製品が普及したことはシンプルに素晴らしいことだと思う。




 まずご紹介するのはMN219 GRIP Puller - Premium Bridge Pin Puller

 キクタニ社HPではブリッジピン抜きという日本名(?)が付けられているが、オフィシャルHPで調べるかぎりではGRIPという工具のシリーズがあり、その中のピン抜きという位置づけのようだ。


 ピン抜きじたいは今まで多くの製品が流通してきたし、べつに専用ツールであるピン抜きをわざわざ手元に置いておかなくとも

ストリングワインダーにあるこの切り欠き部で問題ない、という方も多いかと思う。
 
 だが、ブリッジの、ピンを受ける木部が痩せたり、ピンが劣化や変形を起こしたりしたギターだと、弦を張る時には問題なかったのに古い弦を外すときにピンが抜けなくなることが往々にしてある。
 特に製造から10年以上経ったギターや、管理が行き届いていないギターで起こりがちである。

 私は過去の履歴が全く不明なギターを修理調整するのが仕事であり、ピンが抜けないアコースティックギターなど序の口、日常茶飯事である。
 とはいえ、ブリッジの木部や表板には可能なかぎり不要なキズをつけずにピンを抜きたいところである。

 市販のピン抜きをひととおり試してみたのち、最後に入手したがこのMNピンプラーだった。

 この画像ではピンプラーの一部をブリッジに当て、テコの原理でピンを抜いているが、私の場合はピンプラーをギターのどこにも当てず、ピンをまっすぐに引きあげてゴボウ抜きするようにしている。

 このとき、素材が柔らかいピン抜きだとピンの頭が咥え部から外れてしまう。
 ある程度チカラのかかる作業のピン抜きにおいてこの「空振り」が起きると勢い余ってギターにキズが入りかねないし、作業者が手や指を怪我しかねない。

 使い始めてけっこう経つが、今のところピンがどうやっても抜けないというケースが起きていないこともあり、今ではこのMNピンプラーをかなり頼りにしている。

 もっとも、ピンの抜き差しがスムーズにいかない場合はギターのブリッジ側の修整やピンの交換を検討したほうがいいのだが、それについてはまた別の機会に。





 ふたつめはMN206 Cradle Cube

 一般的にはギターピローとして知られる、ネック保持用の台である。

 このクレイドルキューブ(以下CC)、上記画像の立て方でボディに厚みのあるアコースティックギターに、

寝かせることでエレクトリックギター/ベースに使える。
 保持部の両サイドに張り出しがあるので、この画像のように弦を緩めて引っかけておくことが出来る。指板面の清掃の際には非常に便利である。

 使わないときにはこのように他のツールを入れておけるので、メインテナンス用品の整理にも好都合だ。

 



 みっつめはMN602 Precision String Action Gauge

 キクタニ社による日本名は弦高測定ゲージだが、つまりは物差し、定規である。

 弦高(action)、フレットと弦の間隔がギター系弦楽器の演奏感だけでなく正確な音程にも関わる要因であることは今さら強調する必要はないだろう。
 
 しかし、自分が普段弾いているギターの、第12フレットでも最終フレットでもいいが、6E弦と1E弦の弦高を訊ねられ、その場で即答できるギタリストはどれくらいいるだろうか。
 
 ギターのメインテナンス関連のガイドブックやマニュアルに、例えば6E弦の弦高であれば第12フレット上で1.8mmにあわせるべし、云々とあるが、第12フレットの、フレットの頭頂部から弦の下側‐フレットと接する点との間隔を1.8mmきっちりにあわせるとして、それを測定できる定規というものを個人所有しているギタリストなど、はたしてどれだけいるだろうか。

 かく言う私は10年以上前に楽器店で働き始め、結局このMNアクションゲージを含む弦楽器専用の測定器具を持たなかった。

 今思い返してみればUSの楽器関連工具のサプライヤー、スチュマックことスチュアート・マクドナルドからはアクションゲージが販売されていたはずだ。

 だが通販が普及した現在はともかくひと昔前のスチュマック製品は流通量も少なく高額だった。
 また、私のギターエンジニアリングの師匠は‐年代のわりにかなり柔軟な思考の持ち主ではあったが‐スチュマックを含めた楽器専用ツールをむやみに採り入れることを善しとしなかった。なんやオマエ、またそないなしょうもないモン、と嗤われることも一度や二度では済まなかったものだ。

 
 現在の私のメインのツールは

ホームセンターで当たり前に販売されているコクヨのステンレス製直定規15cmである。
 目盛りは0.5mm間隔でしかふられておらず‐それでもかなり高精度だとは思うが‐たしかに1.8mmやそれより細かい数値は測定できない。 
 だが、私は仕事でギターを触っているうちに手や指が覚えてしまったのである。今では直定規による測定はあくまで念押しであって、弦高そのものは感覚でほぼ合わせられる。

 
 ギタリストの皆さんにとってギターは弾くためのものであり、修理調整はあくまで必要に応じて行うにとどまることとお察しする。
 もっといえば細かい調整作業など他人に任せてしまいたいというのが本音だろう。弾くのもいじるのも、どっちも楽しいというギタリストのほうが少数派であることは元楽器屋店員の私もよく判っている。

 しかし、ことエレクトリックギターにおいては
○ブリッジの上下高調整による弦高調整
○トラスロッドによるネック反り調整
○ピックアップ留め付けネジによる感度調整

(一部のギターでは例外有り)
は、ユーザーによる調整が可能である。
 ネックの反り具合とブリッジの高さは弦高に直結しているし、弦高が固まればピックアップとの距離を調整することで感度‐聴感上の音量や音質の補正が出来る。

 そして、それを可能なかぎり正確な数値で測定できることはログを残す‐数値を記録しておけることにつながり、少なくとも弦高とピックアップの感度については客観的な判断材料が確保できるのである。

 固い言い方になってしまったが、例えば、いつも張っているアーニーボールの

2211から、

ディーン・マークレイの「シグニチュア」シリーズ、DM2503に替えた際に、ブリッジやネックの反り具合やピックアップとの間隔等の条件を完全に同一にしておけば、同じ010~046のセット弦どうしでの
・手が感じるテンション(張り)感
・アンプからの聴こえ方 特にピックアップごとの音量/音質の差

といった、どうしても感覚まかせになりがちな判断にかなりの精度向上が見込める。

 もちろん、弦のゲージを上げる‐太い弦のセットに張り替える際の、ブリッジの高さ調整や、ギターのネックの剛性によってはネックの反り具合の変化も数値で確認できる。

 もうひとつ、こういった各部の測定を習慣づけておくと、ギターの改造や修理の際、どこまで現状を保持しどこまで変更するかの判断がつけやすくなる。
 さらにいえば他者‐多くの場合は修理作業の担当者に対し、弦高は現状で第12フレット上で○○mmだが希望としては○○mmあたりまで下げたい、というように数値で伝えることで、より高精度な仕上がりが望めるというメリットもある。

 MNアクションゲージのような測定器具ときいてギターファクトリーの最終検品のような、複数のギターを一定の基準に合わせるためのツールととらえる方も多いだろうが、個人所有のギターのメインテナンスに採り入れることで得られるメリットもちゃんとあるのだ。





 今回取り上げた3点はいずれも流通数が多いようで楽器店の店頭に並んでいるのをよく見かけるし、通販が普及した現在であれば入手のハードルはグッと下がっている。
 メインテナンスにあまり費用を割きたくないギタリストも多いかとは思うが、実用性の高いものから少しずつでも揃えておくことでギターライフが充実したものになることを、このようなツールをきっかけに知っていただければと思う。