デジタルガジェットとエレクトリックギターについて サンプルをふたつ
楽器屋店員を辞めてから新製品の情報にトンと疎くなってしまった私だが、先日たまたま見かけたマルチエフェクトの画像で
本体の液晶画面がタッチパネルになっている製品を見かけたのである。
スマートフォンの爆発的な普及がもたらしたユーザーインターフェイスの革新はついにここまで…と感心しきりだったが、このNEURAL Quad Cortexを見ているうちに思い出した製品がふたつあるのでご紹介したい。
なお、以下に挙げる製品について、製造・輸入元、ならびにユーザーの皆様の名誉を棄損する意志が無いことを無粋ながら先におことわりしておく。
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まずはデジテック(DIGITECH) iPB-10。
見出し画像にも登場ねがったデジテックのプログラマブル・ペダルボードのことをご存じの方はほとんどいらっしゃらないものと思う。
かつてはプロヴィデンス(Providence)やカスタム・オーディオ・ジャパン(CAJ)が先鞭をつけ、後にはボス(BOSS)はおろか廉価な中華製品まで出回るようになったプログラマブル・ペダルボード(スイッチャー)だが、デジテックiPB-10は他社製品とは少々‐というよりまるで異なっていた。
本体に開閉式の枠があり、そこにアップル(APPLE)社のタブレット端末、そうiPadを格納するのである。
iPadにはあらかじめデジテック社が提供するアプリケーションをインストールしておき、iPB-10と有線接続することでフットスイッチやペダルと連動し、マルチエフェクターと全く同じ感覚でプレイできるというものだった。
このiPB-10だが、いつ発売されたか皆さんはご存じだろうか。
私は当時勤務していた楽器店で、このiPB-10の実物を目撃したのでよく憶えている。2011年だった。
といっても商品として店頭に並んでいたのではなく、発売のニュースを聞きつけたお客様より取寄せのご用命があり、輸入代理店である神田商会から店に送られてきたのである。
当時の私の上司は自称「アーリーアダプター(early adaptor)」で、この手の新ネタには目がなかった。
自宅からわざわざ私物のiPadを店に持ち込み、商品の動作確認と称して実際にギターとアンプを繋いで試していたのを私は横で見ていた。
12年近く前のあの頃、iPadは決して安価とはいえなかった。
それを、一応のガード(保護枠)があるとはいえ、床において使うペダルボードに装着するという機構は私にはどうしても受け入れがたいものだった。
私の記憶が間違っていなければ、iPB-10は3年も経たないうちに生産が終了したはずだ。
対応機種である‐というより無いと何も始まらないアップルのタブレット、iPadは2016年頃にメーカーのサポートが終了したようだし、iPad2は2014年に生産終了がアナウンスされた。
お手元に問題なく動作するiPadまたは同2があり、かつデジテック社の提供するアプリがインストール済という、とてつもない幸運でもないかぎりデジテックiPB-10を入手しても何の役にも立たないのでご注意いただきたい。元ユーザーでもないかぎり、リサイクルショップや中古楽器店に並んでいるのを見かけたとしても入手は見送ることになるはずだ。
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もうひとつはブライアン・ムーア(BRIAN MOORE、以下BM)のiGuitarである。
先のデジテックiPB-10に比べれば生産期間が長く、日本でも流通した時期があったのでご記憶の方もいらっしゃるかと思う。
iGuitarという名だがアップル社の製品との連携が必須というわけではない。平たくいえばMIDIコントローラー搭載エレクトリックギターである。
BM製品が日本の市場に多く流通するようになったのは2000年代初頭のことであり、そのほとんどがiGuitarだった。
それまでのギターシンセサイザーではボス(ローランド)のGKシリーズがそれなりに普及しており、
専用ピックアップであるGKドライバーをギターに取り付けたうえで、これまた専用の床置き式シンセサイザーユニット、GRを接続する必要があった。
対してiGuitarは外部音源とのMIDI接続によるギターシンセサイザーとしての能力の他に、PCによるパーソナルレコーディングに大きなメリットがある‐とされた。
ギター用マルチエフェクターがUSBで接続したPCでエディットする手法が一般化するのはもう少し後の2010年代中盤以降であり、それまではPCとの親和性を重視したエレクトリックギターという存在が非常に珍しかったのである。
また、BM製品は見栄えが良くデザインが洗練されていたのも魅力的だった。
今では日本の市場で見かけることがほとんどなくなったBMだが、現在もiGuitarの生産や、接続端子類をギターへ取り付けるサービスを行っているらしい。
一方で本国US以外の地域でのディストリビューションは無くなっているようで、現在の販売網は直販のみだという。
日本でのBMの流通についていえば、2000年代初期の正規輸入代理店オカダインターナショナルの手法も少なからず影響していると私は思っている。
オカダ社の、製品が売れなくなったときの見切りのつけ方は非常にシビアなもので、製品サポートもかなり早めに切り上げてしまう。
さらに、オカダ社は自社が扱ったものではない並行輸入品への対応がかなり厳格だった。
他の代理店であれば若干割高になるが修理やサポートを受け付けるケースであっても、オカダ社は一切お断りというスタンスを崩さなかった。
もちろんビジネスとしてオカダ社のスタンスは正しいし、私とて貶す意思はない。
だが、使いつづけているうちにどうしても発生する破損や不具合へのサポート、オーナーが望むアップデイトやアップグレードが受けられないことはBM製品のオーナーにとって喜ばしいことではないだろう。
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デジテックiPB-10とブライアン・ムーアiGuitar、両者とも登場のきっかけはデジタル端末の発達であることに疑いは無い。
だが、デジタル技術の進歩発展は多くの製品をあっという間に旧式化させてしまい、かつての最新テクノロジー採用の新製品も気が付けばいつの間にかガジェットと化してしまうという残酷な側面を持っている。
ギタリスト~ミュージシャンの皆さまの中には魅力的な性能を発揮する新製品を見るにつけ心惑わされて仕方ないという方も一定数いらっしゃるものとお察しする。
しかし、あわてて入手を決める前に、
○現在の機材ではどうやっても得られないサウンドや機能、利便性があるか
○決め手となる機能やメリットが今後も有用性を保てるか
のふたつをしっかりと見極めるようお勧めしたい。
特にデジタルプロセッサやユーザーインターフェイスは旧式化してしまうまでの時間が非常に短く、メリットを享受できる期間があまり無いことを頭の片隅に置いておいていただければと思う。