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ORVILLEとGIBSONについて 前編
今回はギブソン(GIBSON)社公認の国産ブランドとして今に名をとどろかせるオーヴィル(ORVILLE)について書いてみる。
2020年代の現在では希少価値がついたこともあって値上がりしているオーヴィル製品だが、本来は本家(?)たるギブソンの歴史を加味して評価されるべきブランドだと思っているので、この記事では80年代以降のギブソン社の動向もあわせて紹介したい。
長くなるので2回に分け、今回はオーヴィルの登場と、その後継であるエリート~エリーティストの生産終了までを振り返ることにする。
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改めてオーヴィルだが、ギブソン社が1988年に日本市場に投入したライセンスブランドであり、その誕生には日本の輸入代理店の変更、さらには日本市場における戦略が背景にあった。
70年代初期のギブソン社は荒井貿易とのあいだに日本ギブソンを立ち上げており、エピフォン製品の日本そして韓国の工場での量産体制を確立しつつあった。
荒井貿易とのリレイションは1983年に終了し、その4年後にギブソン社は山野楽器と輸入代理の契約を結ぶ。
その際に日本市場の、他社によるコピー品の製造をけん制することを目的として、日本製エピフォンにオーヴィルの名を与えて販売する手を選んだのである。
このブランド展開の戦略は、おそらくフェンダー(FENDER)社が1983年にスタートさせた日本製シリーズ、いわゆるフェンダージャパンの影響も考えられる。
ギブソン社同様に安価な日本製コピーに悩まされてきたフェンダー社は神田商会、山野楽器の2社と手を組んで日本製ライセンスシリーズを展開する手法を選んだ。
これにより神田商会の、グレコ(GRECO)ブランドでのフェンダー系モデルの製造販売を終了させ、その高い加工精度をFジャパンに転用できたのはフェンダー社として少なからぬメリットがあったものと想像できる。
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オーヴィルには
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このように、下に"by Gibson"の文字があしらわれたモデルが存在した。
現在ではバイギブの通称で知られるこのモデルは
○アタマにGがつく専用シリアルナンバー
○ピックアップ(以下PU)が当時のギブソンの純正品
という特別扱いを受けており、当時のカタログでも上位とされた。もちろん、価格も高めに設定された。
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当初は展開される製品の数が少なかったこともあって、バイギブとその下位の、便宜上レギュラーとしておくが、ふたつのラインアップのあいだにそれほど大きな差はなかった。
それが数年のうちに、バイギブでは50~60年代ギターのレプリカが多く展開されるようになり、レギュラーは明確に下位と判る量産品としての色合いを強くしていった。
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おりしも80年代初頭はオールドギターの再評価であるヴィンテージギターのブームが勃興した時期でもある。
フェンダーでは1982年に「ヴィンテージ」シリーズとして57年型と62年型のストラトキャスターがリリースされた。
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同シリーズは幾度かの改称を経て現在アメリカン・ヴィンテージⅡとしてラインアップを支えるロングセラーとなっている。
対してギブソンも当時の量産モデルをベースに一部ハードウェアを変更したモデルをリリースしたが、そのほとんどは販売店によるオーダー品という扱いであり、カタログモデルとしての展開は無かった。
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そのような80年代、日本市場専門ライセンスブランドであるオーヴィルは本家ギブソンに先駆けてヴィンテージリイシューの、本家製よりも安価な製品を量産して市場に投入していたのである。
これは当時のオーヴィル製品の製造を担当していたフジゲンおよび寺田楽器の技術力の賜物ではあるが、この頃すでに日本の楽器業界の、少なくともヴィンテージリイシューの精度が非常に高い水準に達していたことの表れでもある。
リイシュー(reissue)とは一般的に再編纂を意味するが、楽器業界では現在の加工技術による復刻を指す。
全てにおいて寸分たがわぬ製品の再現ではなく、現在の加工法を応用しての再生産、しかも高額な限定生産ではない量産品の市場への供給というのもまた高い技術が必要であり、オーヴィル製品、とくに上位ラインアップであったバイギブは、大げさに言えばその精華であった。
☆
しかし、そのオーヴィルは1998年に姿を消すことになる。
といってもこの場合はオーヴィルの名を冠した製品が製造されなくなることを意味しており、日本製ギターの流通はその後もしばらく続くのである。
まず1994年頃にオーヴィルbyギブソン、つまり上位ラインアップであるバイギブの製造が終了する。
ついで1998年にオーヴィルそのものの終了が決まり、それまでオーヴィルの名を冠されて市場に供給された日本製ギターはエピフォンジャパンとして引き続き製造販売されることになったのである。
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たとえばこのエピフォンLPS-80Fだが、型番もオーヴィル時代のものをそのまま継承している。
型番のFはフレイムメイプルの柄を印刷したフィルムをボディ表に配していることを示しており、エピフォンでも全く同じスペックのままである。
一方でギブソンの下位ブランドであるエピフォンは韓国製や中国製の非常に安価なモデルもラインアップしており、特に日本市場においてはそれらアジア工場製と日本製が混在していた時期がある。
ただし日本製にはヘッドストックの形状を
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このように本家ギブソンと同一にすることが許可されていた。
一方のアジア製は
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このような形状であった。
なお近年ではアジア製モデルも
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このようなヘッド形状が採用される流れになっている。もっとも、これは60年代のギブソン工場製だった頃の形状に由来しているらしいのだが…
2002年になるとエピフォンジャパン製品はエリート(Elite)という新しいシリーズとなり、あわせて日本以外の市場での展開‐つまり輸出されることも決まった。
なおシリーズ名のエリートについてはオヴェイション(OVATION)から名称使用の停止申し立てがあったそうで、2003年にはエリーティスト(Elitist)に改称された。
いちおう日本国内ではエリート、海外ではエリーティストとしての展開が予定されていたそうだが、後に日本でもエリーティストに統一された。
エリート~エリーティストシリーズは2008年にカジノをのぞく全モデルの生産が終了した。
カジノはもう少し先の2012年頃まで粘ったものの生産が終了、これによりオーヴィル時代から続くギブソン正規ライセンス品の日本での生産の歴史に終止符が打たれたのである。
(後編に続く)