Tube pedal今昔
この5つの画像を見て、順に
〇コッホ(KOCH) Pedaltone
〇メサ/ブギー(MESA/BOOGIE) V-Twin
〇同じくMブギー V-1 Bottle Rocket
〇バッドキャット(BAD CAT) 2-Tone
〇ヒュース&ケトナー(HUGHES& KETTNER) Tube Man
と全て答えられた方は、さて、どれだけいらっしゃることだろうか。
最後のチューブマンは5つの製品の中で最も生産期間が長く流通量も多かったのでご記憶の方もいらっしゃるかもしれないが、実は画像のモデル、正確にはマーク2であり、
先代のこのモデルの実機を見かけたことがあるという方はほとんどいないのではなかろうか。
この5モデルには共通点がある。
いずれも内部回路に真空管、それもギター用フルチューブアンプのプリアンプ部のものと同規格の「プリ管」を搭載していること。
それともうひとつ、このままパワーアンプに接続できるよう、インピーダンスや接続端子のオプションを装備していることである。
この、チューブアンプのトーンキャラクターのリアルな再現と携行性の高さをセールスポイントとした「チューブ・プリアンプ・ペダル」なるカテゴリの機材がもてはやされた時期が確かにあった。
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2022年の現在、バンドでのライヴハウスでのプレイやセッションワークで「出先で音を鳴らす」‐機材的な制約の多い環境で自分のサウンドを再現するギタリストが、メインとなる歪みを得るためにメインに据えるのはHelixやケンパー(KEMPER)、少し前であればTCエレクトロニックのNova Systemあたりであろう。いずれも高解像度で低レイテンシ、デジタルプロセッシングの長足の進歩を実感させられる。
デジタルモデリングの雄ライン6(LINE6)のPOD初号機が市場で注目を集めるようになったばかりの2000年代初頭ではまだ、チューブアンプのオーヴァードライヴ(過負荷駆動)によるディストーションを得るためには本物の真空管を回路に搭載するべし、という、ここでは方法論と呼ぶべきだろうか、一定の支持を集めていた。
それが、時代の潮流に抗えず押し流されてしまったのには当然理由がある。
まず、チューブアンプのオーヴァードライヴに伴うディストーションの発生のメカニズムは非常に複雑かつ有機的なものであり、回路に真空管を仕込んだ、だけのプリアンプではその再現に限界があったことが挙げられる。
これはアンプの物理モデリング技術が進歩するにつれて知られるところとなり、その解析と再現をモデリングで実現していくデジタルプロセッサの強力なアドヴァンティッジとなった。
一方、歪みの質感を真空管に依存せざるをえなかったチューブプリアンプではサウンドに厚みや深みが出にくく、チューブっぽい味付けが施された、ややこもり気味の歪みに終始することになった。
もうひとつ、これは実際に所有して使ってみると分かるが、消耗品であり、トランジスタやICチップに比べても繊細なうえに個体差が大きい真空管を増幅回路に使用することで故障や不具合が発生しやすい。
つまり、チューブアンプと全く同じ弱点を抱えているのである。
先に挙げたチューブ・プリアンプ・ペダル5機のうち、チューブマンを除く4機は発売から十年前後で生産を完了したように記憶している。
Hケトナー社はチューブペダルにかなり積極的で、2代目に移行したチューブマンの他に同シリーズのブースターやロータリースピーカー・エミュレイターをラインアップしていた。
それでも、チューブマンシリーズの生産完了後に後継として登場したアンプマン(AmpMan)では増幅素子としての真空管を搭載しない「ソリッドステイト」回路に切り替えた。
メサ/ブギー社は2010年代末にエフェクトペダルの新シリーズをスタートさせたが、いずれもソリッドステイトである。
その中には同社のアイコンたるグラフィックイコライザのみならずチャンネル切替まで採り入れ、機能面でプリアンプ・ペダルに近づいたスロットルボックスEQというモデルまであるが、やはり回路はソリッドステイトである。
このシリーズの投入にあたってインタビューを受けたメサ社のエンジニア氏からは、かつてのチューブ・プリアンプ・ペダルとは異なる設計の回路をイチから組みなおした、という趣旨の説明があったように記憶しているので、Hケトナー同様にメサ社もまたチューブ・プリアンプ・ペダルには限界を見出しているのだろう。
さらにいえば、市場のニーズが高まってきたらいつでもチューブ・プリアンプを開発し、新シリーズを展開して売り出せばいい、という読みや割り切りもメサ社にはあるものと思う。
90年代~00年代にはペダルではないラックマウントタイプのチューブ・プリアンプをリリースしていたし、同社の開発能力や製品周期の速さを考えれば当然すぎるくらいの判断である。
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チューブ・プリアンプ・ペダルが旧世代の遺物と化していく一方、歪みの単機能ペダルとしての機能に徹した真空管搭載のペダル、チューブ・ペダルというものがある。
とはいってもエフェクトペダルの世界では今も昔もチューブ・ペダルは少数派であり、その多くは生産が完了してしまっているのだが、プリアンプよりは回路がシンプルなぶん修理しやすいこと、なにより歪みペダルは時代の変化を受けにくい‐他の機材に比べれば、であるが‐こともあり、根強い人気を誇る製品もある。
その筆頭はやはりチューブワークス(TUBE WORKS)のチューブ・ドライヴァー(Tube Driver)であろうか。
デイヴィッド・ギルモアとエリック・ジョンソンの使用により高い知名度があり、また商標の売却に伴う複数ブランドでの製造およびトーンキャラクターの変化もあって今なお熱心に追い求めるファンは多い。
もっとも、個人的にはダーティでラフすぎ、ギタリスト個人のキャラクターを乗せるのが難しい印象がある。現在の市場の高騰もあり、強くはお勧めしない。
マクソン(MAXON)のROD880および881はご記憶の方も多いだろう。
マクソンは現ラインアップにも
RTO700を加えているし、別シリーズの小型筐体に真空管を内蔵したTBO9およびTOD9がある。
グヤトーンのブランド、フリップ(FLIP)の「チューブ・パワー」シリーズは歪みのほかにコンプレッサーやトレモロもあった。メタルモンスターことMM-Xは今の耳で聴けばそれほどメタリックでもないしシャープでもないが、チープさと表裏一体の「暴れ」感はなかなかに捨てがたい魅力がある。
ロックトロン(ROCKTRON)にもチューブ・ペダルがあった。このシルヴァー・ドラゴンもまた同社の他の歪み系と同様に切り裂くような尖った高音域が耳につくが、低音の「割れ」「潰れ」感に真空管由来のナチュラルなタッチを聴きとれる。音の線そのものが細くなりがちなので鳴らし方に工夫が要るが、ハマる人はハマる強い主張があるペダルだ。
楽器屋店員時代の私が最も気に入り、多くのお客様にお勧めしたペダルを挙げるとすれば
ヴォックス(VOX)のフラット4ことTG1FL4BTである。
これも正確には「であった」。フラット4を含むヴォックスの「トーンガレージ(Tone Garage、以下TG)」シリーズもまた数年で生産が終了してしまったのである。
あまり注目されないもののヴォックスはTGよりも前に
この筐体で知られる「クールトロン(COOLTRON)」シリーズを市場に投入しており、チューブ・ペダルに積極的であった。
TGでは真空管回路ながら9ボルトのACアダプタまたは単3電池6本による電池駆動を実現している。
チューブ・ペダルの多くが12ボルト以上の電圧で駆動するため電池はもちろん、ボス(BOSS)の純正で知られるセンターマイナスの9ボルトACアダプタも使えない。
その点でTGの、他社製品と共通規格のACアダプタが使用できるメリットは非常に大きい。
発売が2013年とあって時代の要求を意識したトゥルーバイパス・スイッチングを採用しているし、さらにはオペアンプICを使わずに組み上げるディスクリート回路により高音域のロスを抑え、生々しくラウドなサウンドを獲得している。
フラット4・「ブースト」と名乗ってはいるが、完全なクリーンブースターではない。ゲインを上げれば歪みのニュアンスが加わる。
だが、歪みが深くなるのと引き換えに低~中音域が痩せるのではなく、回路がオーヴァードライヴし、飽和状態を迎えて歪むので音の太さは十分に保たれる。
ミニスイッチによるミッドブーストを組み合わせれば、分厚い中音域を備えた歪む一歩手前のファットなコードストロークから、単音を弾いても線の太さが保たれたブルージーなドライヴまでフォローできる。
私が感心したのはこのフラット4の「コントローラブル」な特性だった。
高音と低音のイコライザーも搭載しているし、ゲインをどの位置にセットしても十分に聴ける音になる。
さらに、ノイズもそれほど立たないし、原音の太さを保ったまま歪むのでハウリングが起きやすいギターでもかなり攻めたセッティングが可能だった。
特に印象に残ったのはエピフォンのカジノで、現行と同じ中国製のモデルだったが、P-90の粘りやツヤを残しながらハウリングの数歩手前まで歪ませたそのトーンは秀逸だった。
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私よりもふた世代以上若い、現在の20代のギタリストの中にはネット通販やリサイクルショップで見かけたチュープ・プリアンプ・ペダルに興味を持つ人もいるかもしれない。
現在の、マルチエフェクターを含むデジタルプロセッサがメインのセッティングに物足りなさを覚えており、特に歪みの質感を大幅に変更するためのゲームチェンジャーとして期待する心理もあることだろう。
だが、先述したようにその多くはギタリストが得られるメリットよりは負担となるデメリットが増したことで過去の遺物となってしまったのである。
生産完了して長く経てば修理を含めたメインテナンスのハードルも上がるし、輸入代理店の変更により修理を依頼するあてが無い可能性もある。
チューブ・プリアンプ・ペダルの購入とセッティングを導入を検討するならばそれらの要素を十分に頭に入れたうえで慎重に判断してほしい。
単機能エフェクトペダルであるチューブ・ペダルについては、チューブドライヴァーのような希少品でないかぎり大きな出費にはならないだろうから、興味があればぜひ試してみてほしいと思う。
特に最後に挙げたヴォックスのフラット6は現在も中古市場で多く流通しているだろうし価格も極端に上がってはいないので、実機を試す機会があれば逃さないほうがいいだろう。