ピックアップのマグネットについて書けるだけ書いてみる ②
エレクトリックギター用ピックアップの内蔵マグネットについて、今回は素材の二大流派といってもいいだろう、アルニコとセラミックについて詳しく触れていきたい。
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まずアルニコだが、セラミックや他の素材との比較では以下の点が特徴として挙げられる;
○高温に強い
○磁力の変動が起きにくい
○粘りがあり破損しにくい
しかし、ピックアップ(pickup、以下PU)の内蔵マグネット(以下mag)に用いるうえではさらにふたつの点を考慮せねばならないという。
ひとつは素材の品質が安定しないこと。
ギブソンの黄金の50年代後半のハムバッカー、そうPAFについての解説の記事で、製品仕様としてはアルニコⅤを用いることになっているものの、実際にはアルニコⅡから同Ⅳがランダムに使われている、とあった。
アルニコは素材の配合比率および製法でⅠからⅨまでの番手に分類されており、その中でも保磁力の高さからⅤが選ばれた。
…はずなのだが、当時の冶金の技術水準ゆえか他の理由からか、オールドギターのPUのmagのアルニコは色々ある、らしい、というのが現在の定説となっている。
番手が違えば保磁力も異なるし、保磁力が異なれば経年変化で失われる磁力にも差が出る。これが後の年代のギターエンジニアや修理業者、PUビルダーを悩ませることになったのである。
現在ヴィンテージギターとして珍重される50~60年代のエレクトリックギターは、PUのmagひとつとってもこれほどの不確定要素が絡んでいるのだ。
不思議なことにこのアルニコの「ムラ」は今までPUの製造や修理に携わってきた業界の先輩がたで、私が会って話を聞くことができた皆さんも口を揃えて指摘していた。
さらには2000年代に日本製ライセンス製品の流通で名が知られるようになったトム・ホームズ(Tom Holmes)もインタビューで、製品に使うアルニコを独自の基準で選別することで製品の質を一定に保つようにしている、と語っていた。
2000年代ともなればアルニコは永久磁石の素材としての主流の座を降りたことで流通量は(以前よりは)減少しているはずだ。
一方で金属の精錬・冶金・加工技術の水準は向上している、はずなのだが、ことアルニコという金属については素材としての品質にどうしてもムラが出るようだ。
もうひとつ、アルニコは導電体である。
導電体、つまり電気を通しやすい特性は、すなわちPU内部で通電するように配置された場合に信号に対する抵抗としてはたらくことを意味する。
PUの音声信号にとって抵抗は特に高音域の劣化の要因となることを知っていれば、PU内部にアルニコを置くことで起きる音質変化も理解できる。
フェンダーの伝統的なシングルコイルPUであれば本体のボビンを形成する支柱が同時にmagとして機能しており、しかもそのボビンに巻き付けられるワイアは被膜によって絶縁されているため、magがPUの抵抗として作用することは無い。
対してギブソンのハムバッカー及び同系のPUはふたつのボビンの下に直方体のmagを寝かせるのだが、このmagは絶縁されていないため、もし導電体だった場合はコイルから生み出される電気信号に対して抵抗として作用する。
これにより高音域が若干なりとも削られた音色に変化するのである。アルニコmagの抵抗値などそれほど大きくは無いのだが、PUの音色に与える影響は軽視できるものではなく、PUのトーンキャラクターという根源的な要素にさえ影を落とすといってもいいだろう。
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次にセラミックについて。
焼結磁石とも称されるセラミックは酸化鉄を主原料とした粉末を型に入れて焼き固めることで製造される。
○材料を安価に安定的に供給できる
○素材の配合しだいで保磁力の強さを調整できる
○金属に比べて軽い
といった特徴が挙げられるが、PUに多用されるようになったのはひとえにその安定した品質と安価な流通価格である。
60年代末にギブソン(GIBSON)社に招聘されて新型PUの開発に携わった
ビル・ローレンスは1972年にギブソンを離れ、個人工房で研究開発を続けていた。
そこに、当時はセッションギタリストと並行してギター修理の仕事に就いていたラリーという若者が自作のPUを持ち込んで意見を求めたところ、ローレンスは
君を雇っておかないと将来は私のライヴァルになりそうだな
という言葉とともにこの若者‐
ローレンス(ラリー)・ディマジオを雇うことを決めたという。
そのラリー・ディマジオはビル・ローレンスを
とにかくエキセントリックだったが私はなんとかついていけた
と評しているが、ローレンスからディマジオへの最大のギフトはセラミックmagの積極的な活用であろう。
ローレンスはギブソン時代にすでにセラミックmagをPUに採り入れていたが、ディマジオもまたアルニコの供給や品質の不安定さを身をもって感じており、アルニコに代わるmagとしてセラミックの研究を進めてきたようだ。
1976年にディマジオ社の最初の製品にしてブレイクスルーのきっかけとなったDP100 スーパーディストーションからしてmagはセラミックであった。
以降のディマジオは大出力化・ハイゲイン化するエレクトリックギターのサウンドを新たな次元に押し上げるイノヴェイティヴな製品を多く世に送り出してきた。
ディマジオの他に、セラミックmagの一種で保磁力の弱いラバーmagを用いて、磁界の積極的かつ精緻なコントロールによりコイルの十分な起電力を確保するという手法をとり、低ノイズと明瞭なトーンの両立を実現したレイスセンサーは80年代末にフェンダー製品純正搭載という栄誉を勝ち取ったが、これも特性によるヴァリエイションが豊富なセラミックmagあってのことである。
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次回はPU選びの際にmagについて留意すべき点について書きあげてみたい。