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Stratピックアップを選べといわれれば

 今回もエレクトリックギター用ピックアップ(以下PU)のハナシである。


 ギブソンのレスポールと並ぶエレクトリックギターの標準原器、フェンダーのストラトキャスターだが、その純正パーツであるシングルコイルPUもまた業界の統一基準として定着した。


 それは同時に、フェンダー社製ストラトキャスターではない他社製のギターにもストラトのPUと同寸同形状のPUが純正採用されているということでもある。

 さらにいえば、それを交換することで他社製ギターにフェンダーの、特に評価の高いオールドギターに似た特性を与えたいという需要が常に存在するということでもある。

 


 もし、フェンダー以外のブランドのストラト系モデルのオーナーに、可能な限り「リアル」なフェンダー・ストラトキャスターの音が鳴らせるPUを教えてほしいと私に訊ねるとする。

 答える前に私はひとつ確認させてもらう。フェンダーの2000年代以降の、量産モデルではなくカスタムショップ製のストラトを弾いたことがあるか、と。

 答がイエスであり、低音から高音までのバランスや音が詰まり気味になる音域、ノイズの立ち方までしっかりと聴きとったうえで、王道のフェンダーの音が出るPUが欲しい!と強く願っているのであれば、

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フェンダーのカスタムショップ・ファット50s(以下F50s)を推薦する。


 フェンダーでは他にカスタムショップ製のストラト用PUが4モデル販売されているが、いずれも原型となる年代がある、いわばヴィンテージレプリカである。

 これはPUだけではなくギター本体にもいえるのだが、60年以上前のギターの復刻といえど用いる部材は現代のものであり、残念ながら全てが完全に同一というわけにはいかない。

 さらにいえば工場で生産されたPUは文字どおりの新品であるのに対し、ヴィンテージギターの純正PUには経年変化が起きている。

 具体的にはマグネットの磁力が落ち、またコイルに若干ではあるが緩みが出る。これにより電気的な出力は落ちる一方でボディの振動にあわせてコイルが揺れることで、「アコースティックな」と評されるギターのダイナミックな「鳴り」感が音に加わる。

 新品のPUにこの特性を期待するのはさすがに酷というものである。こればかりは時間が与えしギフトと解するしかあるまい。


 F50sはいちおう50年代をお手本としているが、Fatの名のとおり低音が強化されている。

 これが現代の、100ワット超級のオールチューブアンプに繋いで鳴らしても十分に骨太さと厚みが感じられるサウンドを実現している。

 歪み系ペダルを例に出すまでもなく、ギターを歪ませるとどうしても低音が痩せる。

 それを見越して、あらかじめ低音が強化されたPU、または出力=ゲインが高いPUを搭載しておくのは今なお有効な手段なのだが、不思議なもので、ストラト系ギターのオーナーで、ロウゲインこそ至上なり、という観念に囚われている人がかなり多いようだ。

 もちろんメインのアンプやペダルが固定されていて、クリーントーンのヌケが悪いと晩飯が美味くない、とまでおっしゃるのであれば、世の中にはリンディフレイリンやローラー等の優秀なロウゲインモデルがあるからご自由に選んでいただきたい。

 だが、ある程度ヘヴィなディストーションのセッティングで、ソロ時にブースター系ペダルで信号をプッシュすると、ロウゲインPUではノイズが増大してしまうリスクがあることをお忘れなく。


 メインとなる自己所有のアンプが無く出先のライヴハウスのアンプでセッティングしているというギタリストで、なおかつドラムやベースに負けない大音量でのプレイを念頭に選ぶのであればこのF50sを選んでほしい。



 先述の、カスタムショップ製のストラトを弾いたことがあるかという問いに対しての、ギタリストの答がノーだった場合に勧めたいPUもある。

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ヴァン・ザントVAN ZANDT)のトゥルー・ヴィンテージ(以下TV)である。

 

 先ほどのF50sが、低音を増強されながらもあくまでフェンダーの遺伝子を強く感じさせるサウンドなのに対し、TVはフェンダーとは若干異なった傾向にあると思う。


 強引に文字で表現すれば音の粘りである。

 F50sを含めたフェンダー製PUはコードを弾いた時に各弦のビリつきやうねり感が明確に音に出る。「弾けるような」「明るく」「涼やか」と形容される特性である。

 対してTVは高音域のキリキリ、キラキラしたタッチはやや抑え気味である。メタリックというよりはウッディ、温かみや素朴さが感じられるトーンというべきであろう。

 TVの魅力は、特にクランチ気味に歪ませたときに顕著なのだが、弦どうしの音がひとつながりに聴こえるような音の厚みと太さである。

 これがソロや単音のフレーズを弾いた時のスムーズさや存在感をうまく演出しているのである。フレーズがよどみなくスルスルと流れる感覚を重視するギタリストには他に替えられない特性ではないだろうか。



  最後に両モデルのカタログスペックの一部を併記しておくと;

マグネット  

F50s:アルニコファイヴ  TV:アルニコⅣ

直流抵抗 

F50s:6.26KΩ(ネック)6.34KΩ(ミドル)6.43KΩ(ブリッジ) 

TV:5.8 ~5.9KΩ

 マグネットにアルニコⅤを採用したF50sは磁界が緊密で、直流抵抗の値からもコイルの巻き数がTVよりも大きめであることが推測できる。

 TVはF50sよりもマグネットの磁力、コイルの巻き数ともに低めだが、高音域が他の音域に埋もれにくく、ペダルやアンプの組み合わせに左右されることなく伸びやかでナチュラルな高音が期待できる。

 なおヴァン・ザントではTVをネック及びミドルに配した際のブリッジ側向けモデルとしてヴィンテージ・プラスをラインアップに加えている。

 直流抵抗が6.2 ~6.3KΩと高めなのはブリッジPUでのリードプレイを想定してのアレンジである。3基まとめての交換の際には候補に入れておくべきであろう。



 ストラト用PUはハムバッカーよりもノイズの影響を受けやすく、歪みとクリーンの兼ね合いもあって最良のモデルを選び出すのはなかなかに難しいが、高額なハンドメイド品に手を出す前に今回紹介した2モデルをいちど検討してみてほしい。