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Jazzmasterを選ぶ前に知っておいてほしいこと 前編
若い世代にフェンダー(FENDER)のジャズマスター(Jazzmaster、以下JM)が人気だという。
50年代後半の登場から65年近くを経て何度目かのリヴァイヴァルがおとずれたJMだが、楽器屋店員時代の私にとってJMは決してユーザーフレンドリーでもなければビギナー向けでもなく、その特性をちゃんと判っていなければ弾きこなせないギターのひとつであった。
楽器業界を離れてしばらく経ったこともあり現在ではそれなりに客観視できるようになったものの、JMは特に他モデルからの持ち替えにおいてギタリストの手を煩わせることの多いギターだと思う。
今回はJMに興味を持ったギタリストへ向けて、このギターの特徴を洗いざらい書き上げてみようと思う。
先におことわりしておくと、それなりに辛めの表現を使うことにもなるがどうかご了承いただきたい。楽器屋店員の頃に何度か返品をくらったこともあるJMで、これ以上ギターとギタリストとのミスマッチが起きなくなってほしいという願いが根底にあることをご理解いただければ嬉しい。
長くなるので2回に分け、今回は歴史的背景を中心に解説していく。
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フェンダー社はテレキャスター(Telecaster)に続くソリッドボディ・エレクトリックギター第2弾として1954年にストラトキャスター(Stratocaster、以下ST)のリリースを発表した。
STには新開発のヴィブラートブリッジユニット、シンクロナイズド・トレモロ(以下シンクロ)が搭載されていたが、レオ・フェンダーはこのブリッジの開発にかなりてこずったことが後に明かされている。
苦心の力作シンクロだが、スティールギターに似たペヨーン、ポワーンという軽いポルタメントが鳴らせれば十分だったこの時代、挙動がクイックすぎてギタリストは当惑したと伝えられている。
しかもユニットを形成するパーツの点数が多いうえに、搭載にあたってはボディの表裏を貫通する大ぶりなキャヴィティを設けるための加工コストも大きいとあって、製造側のフェンダー社にとってもシンクロは決して優秀なハードウェアとはいえなかった。
シンクロの評価が一変するのはもう少し後の60年代終盤、瞳に悲しい光を宿したギタリストの登場を待たねばならならなかったのである。
TLとSTのリリースにより地元カリフォルニアの、主にカントリー&ウェスタンのギタリストをとりこみつつあったフェンダー社は新たなマーケットとしてジャズのフィールドへのアピールを企図する。
40年代頃はまだ管楽器が花形の、大所帯のバンドのなかでの伴奏という端役に甘んじていたギターも急速にエレクトリック化が進んだことで、アンプさえあれば派手なリードプレイやソロをとることが可能になりつつあった。
また50年代後半以降は5人前後の少人数編成の「コンボ」バンドによる高度なソロの応酬が売りのハードバップが台頭しつつあった。
伴奏‐英語ではリズムと、ソロを含むリードプレイで明確に音色を分けるというエレクトリックギターの設定は50年代には一般化しており、ギブソン(GIBSON)ではふたつ以上のピックアップを搭載したうえでそれぞれにヴォリュームとトーンのふたつのコントロールを設けていた。
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後にフェンダー社の副社長を務めたフォレスト・ホワイトによれば、知人のギタリストがギブソンのギターをステージでプレイしているときにリズム/ソロの切替に手間取っているのに気づいたのだという。
後日、この切替をよりきっちりと設定できるコントロールを開発すべき、とホワイトから進言されたレオはそのとおりの機能を創りあげてJMに採用した。
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ヴィブラートユニットはシンクロよりも挙動がスロウであってもギタリストのニーズにはじゅうぶん応えられると判断、シンクロの開発時で生まれたプロトタイプに若干の改良を施したうえで搭載を決めた。
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この新開発のフローティング・トレモロユニットにはヴィブラートを使わないときにロック(固定)する機能が搭載されているが、これもホワイトの意見が反映されているという。
技術的な問題もあって見送られたが、シンクロの開発段階でホワイトはロック機能の導入を進言していたそうだ。
レオにしても、あまりにオーヴァースペックになってしまったシンクロの反省もあるのだろう、ギタリストのニーズが多い機能を優先すべきと考えてロック機能を採用したものと思われる。
さらに、フローティング・ヴィブラートを搭載する際のボディ側のキャヴィティはかなりコンパクトなうえにボディの表側からあけるだけで済む。これが加工コストの低減につながることは言うまでもない。
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JMはオフセット・ウエスト・コンターを最初に採り入れたモデルでもある。
これはボディの左右でくびれ(ウエスト)の位置をずらすボディ形状であり、これによりどのような構えでも安定するとされた。
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もっとも、ホワイトはこのボディ形状を初めて見たときに「妊娠したアヒルみたいでみっともない」と思ってしまったという。後にジャズベースやマスタングでも採用されるこのボディ形状も当時としてはかなり斬新だったということだろう。
ピックアップ(pickup 以下PU)もJM専用のものが開発され採用された。
といってもこのPUは電気的な特性はSTの純正PUとほぼ同じである。コイル、正確にはそれを形成するボビンの形状をTLやSTに比べて低く幅広にしたのだ。
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おそらく開発者のレオの中にはギブソンP-90が念頭にあったのではないかと思われる。TLやSTの硬質で尖ったトーンはジャズギタリストの嗜好にあわないことを認めたうえで、PUの形状をアレンジすることで当時の流行‐もっといえばジャズのフィールドの、ギターサウンドのメインストリームたるギブソンのトーンキャラクターを多少なりとも意識したのだろう。
それに、これは想像だが、フェンダーのエレクトリシティを強力にアピールするには同時期に開発を進めていたジャガー(Jaguar)の高出力型PUのほうが適任である、という割り切りがあったのかもしれない。
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こうして新開発のハードウェアやボディ形状等を投入されたニューモデル、ジャズマスターは1958年にリリースされた。
その後のことは皆さんもお聞き及びと思う。JMはフェンダー社が期待したジャズのフィールドにはなかなか受け入れられない一方で、60年代初期に台頭したロックンロール、特にサーフミュージックで多用されることとなった。
JMの生産は1980年でいったん打ち切られるが、その6年後には日本製ライセンスシリーズであるフェンダージャパンがJM66の型番で製造を開始する。
対してUSA工場製のJMは長く生産が途絶えていたが、1999年に当時のアメリカン・ヴィンテージシリーズにて復活する。
近年ではフェンダージャパン改めメイドインジャパン・ラインのトラディショナル及びヘリテイジ、USA製ではアメリカンヴィンテージⅡだけでなく同プロフェッショナルⅡ、同ウルトラまでラインアップされており、JMの黄金期とよんでも大げさではないだろう。
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次回は弾きこなす際のコツや注意点を中心に書いていきたい。