二大巨頭とはまさにこのこと KLUSONとGROVER
クルーソン(KLUSON)とグローヴァー(GROVER)といえばそれぞれの代名詞であるデラックスとロトマティックがすぐに連想されるが、この両者は40年代から70年代にかけてギター系楽器のチューナー(ペグ、チューニングマシン、マシンヘッド、etc.)の覇を競った二大巨頭である。
今回はその両者の製品で現在も流通している商品を挙げながら、ギター用チューナーの歴史の一端をご紹介したい。
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1910年代に起きたアコースティックギターの大型化は、それまでのガット弦からブロンズを素材に用いた金属弦に移行することでさらに加速する。
張力の強い金属弦により音量を稼げるようになったギターは、40年代にマグネティック・ピックアップという内蔵型ギター専用マイクを搭載したエレクトリックギターなる派生型を生み出し、専用アンプリファイア‐ギターアンプの力を得て時代を席巻する勢いで数を増やしていった。
1925年にシカゴで創業したクルーソン社は、それまでギアが露出していたチューナーの背面にカバーを装着する手法を取り入れ、デラックス(以下DX)の名で発売する。
このDXはカリフォルニアの新興ギターカンパニーだったフェンダー(FENDER)社が純正採用し、ほぼ同時に東海岸の雄ギブソン(GIBSON)社も採用した。
その両社の製品が後のエレクトリックギターの歴史を切り拓いていったことでDXはギター用チューナーのスタンダードとしての地位を確立、同時にDXはクルーソンの代名詞ともなった。
一方のグローヴァーはオハイオ州クリーヴランドにて1952年に創業している。
同社の代名詞といえばやはり
ロトマティック(Rotomatic)の通称で知られる102である。
102ではギアを収めたハウジングを完全に密閉してしまうことで外部からの湿気やホコリの侵入をシャットアウト、ギアの噛み合わせ部の不具合を防ぐことに成功している。
先のクルーソンDXでもカバーを装着していたが、その上にグリス注入用の穴をあけていることからも分かるように、完全にはギアを密閉できていなかったのである。
また厚く丈夫なハウジングはボタン(ツマミ)と連結しているシャフトの外力による変形を最小限に抑えることで高い耐久性と、ギアの動作の精度維持を実現している。
グローヴァー102は高い評価を受け、クルーソンDXを純正搭載したギターへのリプレイスメント(交換)パーツとして多くのギタリストに選ばれた。
その影響もあるのだろう、クルーソンもまたハウジングの密閉度を上げたモデルを開発、VX-501の名を与えて発売する。
背面のカバーにあしらわれた溝状の模様からワッフルバック(waffle back)の通称で知られるこのモデルはマーティンのアコースティックギターや、一時期のギブソンのレスポールカスタムに採用された。
他にもクルーソンは
このシールファスト(Sealfast)を市場に投入、ギブソンのエレクトリック・アーチトップの最上級モデルに採用された。
50年代以降はギターの量産化が進み、またラインアップに多くのモデルが並ぶようになったこともあり、ギター用チューナーもハイスペックな上位機種から量産機向けのローコストなモデルまで幅広いヴァリエイションを求められるようになる。
グローヴァーもその時代の要求に応えるべく、旧来のデザインであるオープンギア‐ギアを露出させた形状のモデルに
ステイタイト(Sta-tite)の名を与えてリリースしている。
他方でギブソンやグレッチ(GRETSCH)の最上位モデルに搭載しても恥ずかしくないハイエンドモデルもしっかりと製品化しており、
この150にはインペリアル(Imperial)という威厳ある名が与えられた。
こうして覇権を争ったクルーソンとグローヴァーだが、やがて(旧西)ドイツのシャーラー(SCHALLER)社が台頭して1976年にギブソン純正搭載の座を奪うと両社とも徐々に低迷していき、クルーソン社は1981年に倒産する。
現在流通しているクルーソン製品は1994年にWDミュージック社が販売しているもので、製造は韓国や、一部は日本のゴトー社が担当しているとされる。
グローヴァーは現在も健在だが、90年代には製造拠点を韓国に移している。
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ここからはクルーソン、グローヴァー両者の製品のスペックについて順不同で挙げていく。
○6 in line
フェンダーのエレクトリックギターでおなじみ、6つのチューナー全てが一列に並ぶセットのこと。日本では片側6連と呼ぶことが多い。
ギブソンやマーティンのように左右で3対3に並ぶセットは3 per side という。
○DR
double rowの略で、クルーソンDXの背面のカバーのブランドロゴが2列あることを示す。
このロゴは無し→1列→2列 という変遷を経ており、ヴィンテージギターの年代判別の材料のひとつとしても知られている。
○3 per plate
(3 on the plate)
同じくクルーソンDXの、3つのチューナーがー一枚の金属板に留められている形状を示す。
ギブソンJ-45やメロディメイカー等の中~下位モデルに多く用いられた。
○バタービーン(butterbean)
広義ではボタン(ツマミ)の、小型で楕円型のものを指す。
狭義では主にオープンギア時代のチューナーの
このような形状のボタンを指す。
先に名の出たグローヴァーのステイタイトのほかにウェヴァリー(WAVERLY)のチューナーの特徴として知られる。
○キーストーン(Keystone)、ステップ(step)
グローヴァーのチューナーに用いられたボタンの形状を指す。
ギブソンに採用されたことで有名なこのかたちがキーストーンで、
インペリアルのボタンとして知られるこちらがステップボタンである。
ただしグローヴァーのボタンは互換性があるため
ロトマティックにステップボタンの組合せで販売されていたりもする。
ちなみにステップボタンは他のボタンに比べて横幅が非常に広く、片側6連のチューナーに装着するとチューニングが非常にやりづらくなるので避けたほうがいい。
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50~70年代に原型が出来上がったハードウェアを2020年代の現在まで使い続けているという点でギター用チューナーは、ピックアップやブリッジ等と似たり寄ったりに思えるかもしれない。
クルーソンにしてもグローヴァーにしても、メイドインUSAからアジアへ生産拠点を移したことで、かつてのクオリティや美観を失ってしまったと嘆く声が上がることがある。
だが、ギターエンジニアリングの観点から言わせていただければ、安価で耐久性の高いチューナーが現在もクルーソン及びグローヴァーの名で販売されていることはそれだけで価値があるし、喜ばしいことでもある。
クルーソンDXにしてもグローヴァー150にしても真正品が流通していなかった90年代頃は、不要な木部加工を避けるには低品質なコピー品で我慢しなければならかったのである。これがヴィンテージギターにとってどれだけ辛いことかをお察しいただければと思う。
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最後になったが、ギター業界ではモデルのランクと採用ハードウェアが密接に結びついている。ギブソンのレスポールファミリーを思い浮かべていただければ分かりやすいだろう。
ギター用チューナーは換装時に木部加工を伴うこともあり、特にヴィンテージギターの年代や真贋の判断に少なからぬウェイトを占めることもある。生産期間が長く流通量も多いグローヴァー102はともかく、クルーソンならばDXだけでなくVX-501やシールファスト、グローヴァーならば150とステイタイトあたりの現物を見て勉強しておくといざというときに安心である。