エフェクトペダルの伏兵② Hardwire CR-7
世の中に星の数ほどあるエレクトリックギター用エフェクトペダルの中にはその実力があまり知られないまま低い評価に甘んじているものも多い。それらにスポットライトを当てる『エフェクトペダルの伏兵』シリーズ、ミュージシャンの機材探しの一助になればと思う。
第2回はハードワイア(HARDWIRE)CR-7 Stereo Chorusをご紹介したい。
先にお断りしておくが、このCR-7は生産完了品である。
それどころかハードワイアというブランド/シリーズじたいが既に存在しないのだ。先のリンクも輸入代理店の神田商会がウェブ上に残しているものであることをご了承願いたい。
ハードワイアはもともとデジテック(DIGITECH)が2008年にスタートさせた単機能ペダルのブランドである。
ハードワイア製品の全モデルに投入された技術のひとつが「ハイヴォルテージ・オペレーション」回路である。
これは読んで字のごとく、9ボルトのACアダプタや電池を電源としながら回路を14ボルトで駆動させるもので、90年代にクローン(KLON)のケンタウルスにより有名になった昇圧回路と設計思想は同じである。。
ケンタウルスのフォロワーともいうべき昇圧系ペダルはすでに多くあったものの、デジテックのような大手が量産モデルに採用したことに驚く声も多かったように記憶している。しかもこのハイヴォルテージ・オペレーション回路を歪み系だけでなくリヴァーブやチューナーにさえも採用するという、今思えばかなりの英断をこのときのデジテックは下していた。
昇圧系の音質上のメリットについてはカールマーティンのHot Drive'n Boostをとりあげた以前の記事のなかで触れているので、あわせてお読みいただきたい。
なお、今回紹介するのはコーラスだが、ハードワイアでは歪み系エフェクトも3機種ほどラインアップに加えており、それら全てがアナログ回路だったのも当時楽器屋店員だった私には驚きだった。デジタル技術のデジテックが、まさかアナログの単機能ペダルに打って出るとは予想も出来なかったのである。
もっとも、しばらくするとデジテック内のリブランドによりハードワイアbyデジテックとなり、デジテックのなかのいちシリーズというポジションに置かれた。
さらに数年後の2015年には全モデルの生産完了がアナウンスされ、わずか7年でハードワイアは姿を消してしまったのである。
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ハードワイアCR-7の前に、コーラスというエフェクトの原理について触れておきたい。
コーラスに限らず一般的な「揺れもの」、モジュレイション系エフェクトの動作原理は共通している。原音に対してごくわずかに遅れた信号を発生させ、さらにそれをLFO(low Frequency Osillator)という回路で周期的に音程を揺らす。さらにそれを原音と混ぜて干渉させることで、原音に対して他の音がコーラスをつけるようなうねり感を出しているのである。
この、ディレイ~LFOで構成させる回路を便宜上コーラス回路とさせてもらうと、複数のコーラス回路を搭載することでより深く、また変調感‐わざとらしく音程をふらつかせたような質感の少ない自然なコーラス効果が得られる。
これを実際に製品化したのが1979年発売のローランド SSD320 Dimention Dだった。
「揺れない」コーラスとして今なお多くのミュージシャンの記憶に残るこのSSD320だが、開発にあたっては複数のコーラス回路の調整が上手くいかないと「チュッ」という、ネズミが鳴くようなノイズが発生してしまうそうで、これを「ネズ鳴き」と呼んで駆除に苦心したそうだ。
改めてハードワイアCR-7だが、デジタルモデリングによる7つのモードが搭載されているのはやはり2000年代、デジタルのデジテックの面目躍如である。
私が特に推したいのはそのなかの”Multi”モードだ。何がマルチ(複数)かというと、先ほどのコーラス回路が8個同時にかかるというとんでもない離れ業をやってのけるからである。
もちろん、かつてエンジニアが調整したアナログ回路ではなくフルデジタル回路ではあるが、実際に音を出してみてもネズ鳴きなど全く発生しない。
depthのツマミを上げた時の、揺れ感を超えた浮遊感ともいうべき響きは感動的だ。
他のモードも名前から想像できるような分かりやすく使いやすい音色であり、音ヤセが気になるアナログコーラスを無理してボードに組み込むよりも確実にスマートである。
加えてモデル名どおりステレオ出力に対応している。複数のアンプや機材への接続により音場の広がりを演出することも可能だ。
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このCR-7はもちろんエレクトリックギターに使うのも良いが、私が勧めたいのはエレクトリック・アコースティックギター(以下EAG)のプレイヤーだ。
エレクトリックギターのマグネティックピックアップに比べてEAGの主流であるピエゾピックアップは再生音域が広く、特に高音のきらめきくような質感が音の印象を決定づける。
そこに、一般的なエフェクトペダルをつなぐと音ヤセや高音域の劣化が目立つことがある。
特に近年ではEAGの内蔵プリアンプにも9ボルト電池を2個使用して信号増幅のロスを減らし、イコライザの強力なブーストを実現したものが少なくないが、せっかくのラウドで生々しい音がエフェクトペダルによって損なわれてしまうのは避けたいところだろう。
その点でCR-7は先述のハイヴォルテージ・オペレーション回路を搭載しており、エフェクトを通したときの音質劣化は非常に少ない。さらにダメ押しのようにトゥルーバイパスとくれば、劣化を心配する必要は無いだろう。
EAGに繋ぐペダルといえばリヴァーブが多いだろうが、出来の良いコーラスを繋ぎ、ごく浅く、隠し味としてかけることで音像にツヤが生まれる。その際はCR-7であればやはり先ほどの”Multi”モードを推奨したい。
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市場を調べる限りではまだ流通しているようだから、少しでも音質劣化が少なく使いでのあるコーラスをお探しであればぜひ検討対象に加えていただきたい。