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The Bearを見て男性の自己開示について考えた

Disney+の「一流シェフのファミリーレストラン」(The Bear)の第一シーズンを見終わった。このドラマでは、男性がいかに自己開示し自分の欠点と向き合えるかが一つの裏テーマになっているように思われたので、それについて考えてみたい。

最も印象的だったのが、後半、姉が主人公に「あなたは今まで一度も私の気持ちを尋ねてくれたことがない、それが一番腹が立つ」と言うシーン。そこで主人公は「自分はいつも何かにつまづいている。自分の感情を言葉にできないからだ。そんな人間が人の気持ちを尋ねるなんておかしい気がする」(I feel I'm kind of trapped, because I can't describe how I'm feeling, so to ask somebody else how they're doing, that just seems, I don't know, insane?)と答える。主人公は自分のコミュニケーションの問題が「自分の感情をことばにできない」ことに由来していることを自覚しながら、それを乗り越えることができないでいる。そんな主人公の言葉を、姉は直接否定も肯定もせず、黙って微笑みながら聞く。そして、その次のエピソードの中毒者の更生の集まりで、彼は初めてたくさんの人の前で自分の気持ちをほとんど涙ながらに独白する。そのときに彼は、自分が吃音を持っていたこともあって、明るい兄のように自分がふるまえなかったことを打ち明ける。

一般的に男性は寡黙で、弱みを見せず、強く頑固であることが求められてきたけれど、それが最近ではtoxic masculinityといわれたりするようになった。そこではとりわけ中年以降の男性は、柔軟性に欠けた高圧的で利己的な存在として捉えられ、そのような表象も増えてきたように思う。まあそれは事実でもあるのだけれど、他方で自分の感情を女性に比べて素直に口に出すことが求められない状況が幼い頃から続くことで、男性がそうしたことが苦手になるというのは社会的な要因もあるのかなと考えた。
結局、男は口下手で(が)良いんだ、みたいな考えは弊害が大きいんだろうなと。それは口下手でも良いから自分の感情を素直に誰かに伝えようとする態度、あるいは相手を慮って語ろうとする態度、それ自体も封じてしまうのかもしれない。
ドラマのなかで、レストランの修理工がレトロゲームの画面に向かって「悲しい時は?」と尋ねたとき、袋を被った男性のキャラクターが「誰にも話さず心に留めておく。そうやって戦う(beat shit out of people)んだ」と答えるのは象徴的な気がする。弱みを見せたら即刺されるとでもいうように、周りの人間を仮想敵として捉えている(男性が、女性が発言したときにその内容ではなく態度そのものを馬鹿にするトーンポリシングというやり方があるけれど、それも勝ち負けではなく真っ直ぐ素直に思ったことを言うといったことができないことの裏返しなのかもしれない)。

主人公の従兄弟のリッチーはその最たるもので、見てるとああこういう中年いるよな……となる。ケンカした修理工から「尻にナイフをさされたときにビビってなかったのがかっこよかった」と言われたのを真に受けて「タフだろ」と、即座に気分良くなってるところとか笑ってしまった。割と日本のドラマでもよく描かれてきた感じのキャラクターだけれど、日本のドラマだとこういうタイプの中年男性は、大抵めんどくさいと思われながらもどこかのタイミングで何らかの有用性を発揮して「不器用でダメ人間だけど、本当は頼りになる人情に厚いヤツ」として、プライドは保たせつつ回収をみることが多い気がする。それがこのドラマでは、全方位的な「役立たず」として年下の女性から一旦断罪されながら(実際に役に立っていない)、それでも最終的にはレストランの仲間として受け入れられているところが良いなと思った。持て余されプライドを潰された中年男性が、有用性とは別のところで個人として受け入れられるというのは、実はあまり描かれてこなかった気がする。こういう男性に批判的ながらも、絶妙に同情的でもある描き方になっているのは脚本家が男性で、実際にドラマの原体験となった家業のレストランでこの手の人間とたくさん触れてきたからなのかもしれない。

そう考えてみると、今まで自分が海外ドラマで心理的に共感できるものは、後から確かめると脚本家が女性ということがほとんどで、男性のつくるものは展開は面白くても、感情の機微みたいな部分で心が惹かれるものはあまりなかったのだけれど、このドラマは男性にしか描けない男性心理みたいなものが詳らかにされていてとても面白かった。

そういえば、男性の主人公が自分の思いを独白するというシーンは別のドラマでも最近見たなと少し考えて、Netflixの「私のトナカイちゃん」(Baby Reindeer)にも、主人公の男性がたくさんの観客の前で過去に年上の男性に虐待されていたときの経験を突然告白して泣くというシーンがあったことに思い至る。前にアメリカ映画の「対峙」を見たときに、映画では女性と違って男性は自分の弱みを人にさらけだすことができていないというようなことを思ったけれど、それが最近変わってきていて、男性が自分の弱さを素直に認めてさらけだすとかそういったテーマは徐々にトレンドになってきているのかもしれない。




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