「絶対的偶像」が崩れ落ちる時─エルゼメキアと影野シノブにおいて─
妖怪学園Y第1部の話をします。まずあの物語はマゼラを初めとする宇宙人から地球を守れた、ハッピーエンドの物語です。しかし、そんな世界でも唯一バッドエンドを迎えたキャラがいます。
影野シノブです。
彼はエルゼメキアに従うキャラでした。地球人にも関わらず宇宙人を崇拝し、エルゼメキアの最期までその忠誠心を貫きました。
地球を侵略するという彼女の目的を知ってもなお付き従う姿は印象的でした。彼は何故エルゼメキアに従い続けたのでしょうか。
それは、きっと彼がエルゼメキアという存在を盲信していたからではないか、と思います。キャンプ回からも分かる通り、彼はエルゼメキアに指示されたことなら人殺しも厭わないキャラです。
きっとこれは彼の盲信がさせる技でしょう。盲信?と思うかもしれません。影野シノブが抱いていた感情は信仰ではなく「盲信」であると私は考えます。ただただエルゼメキアという存在を信じ、肯定し、言われたことは全て忠実に受け取り実行する。影野シノブはエルゼメキアに対して「考える」ことをしなかった。
「信仰」は「考える」ことが付随する行為です。ただ信じるのではなく、どうしてそこに至るのかを考える。教えをそのまま受け取るのではなく、教えのバックボーンを理解することが「信仰」だと考えます。
「盲信」は自身にとっての絶対的存在を全肯定する行為です。そこに理解はありません。ただただ信じる。肯定する。忠実になる。それが「盲信」と「信仰」の決定的な差です。
影野シノブは結局のところ、エルゼメキアのバックボーンを考えていなかった訳です。まあ彼にはエルゼメキアのバックボーンを知る機会が無かったので、これは仕方の無いことです。
バックボーン無しの存在。それは偶像に過ぎません。彼の行いは偶像の盲信。そしてそれが崩れ去るのを見届けた彼。非常に印象的です。彼は地球より、エルゼメキアという1人の少女を選んだのですから。そしてその絶対的存在を喪ったのです。
マゼラやエルゼメキアに地球が侵略されれば、きっと地球人である影野シノブも無事では済まなかったでしょう。現にマゼラはブラックホールの力を持っている上、非常に冷酷なため恐らく地球は滅びていたはず。その上で影野シノブはエルゼメキアという偶像を盲信した。ある意味セカイ系の系譜で、私はこの構図が大好きです。
散々盲信について語りましたが、盲信は悪ではありません。むしろ誰しもが持つものだと思います。しかし盲信するものによっては、報いを受けることもあるでしょう。影野シノブはエルゼメキアを盲信し、結果彼女を喪った。
何故影野シノブは彼女を盲信したのか。それは影野シノブはエルゼメキアを愛していたからだと思います。
ここで語りたいのは、愛するという行為です。
愛することは、全てを肯定することではありません。寧ろ逆です。愛することは、その人の欠陥を認め、理解し、その上で成り立つ行為です。
そして、愛することには常に痛みが伴います。近寄れば近寄るほど、好きな存在の汚い部分を見る羽目になるからです。
これを前提にした上で、一見すると影野シノブはエルゼメキアを愛してないように思えます。影野シノブは一切エルゼメキアを否定しませんでした。でも彼があそこまで尽くしたのは、彼女を愛していたからではないでしょうか。エルゼメキアの汚い部分(地球の侵略、霧隠ラントの処刑など)を全て間近で見ていました。それでも彼は「棄教」せずに、彼女の最期を看取った。
影野シノブにとってのエルゼメキアはきっと完璧な存在だったのでしょう。彼にとっての絶対的な存在、言うなれば影野シノブの世界の唯一神。影野シノブは神を愛し、そしてその罰を受けたのでは無いでしょうか。愛することは罰を受けることですから。人を愛するには代償が伴います。影野シノブの盲信の代償は、エルゼメキアの死。なんとも残酷な事実です。しかし、エルゼメキアはその死をもってこそ、影野シノブの唯一神で在り続けるのでしょう。影野シノブはいつでもエルゼメキアの傍から離れられたはずです。HEROにもならない為、戦闘要員にもならない。エルゼメキアにとっていてもいなくても良い存在。でもエルゼメキアは最期まで影野シノブを突き放しませんでした。そして、影野シノブもまた彼女を突き放さなかった。2人の間には確かに愛の分け与えがありました。そして愛に付随する罰も2人で分け合ったのでしょう。エルゼメキアが影野シノブを愛した結果、払った代償は自身の死。そして影野シノブが払った代償はエルゼメキアの死。死をもって完成された関係性です。私はこの関係がとても美しく尊いものであると感じています。
地球人側からすれば、地球を侵略しに来る宇宙人など悪でしかありません。しかし、影野シノブはその悪とされる存在を愛しました。
真に純粋な愛の関係。そこには社会的通念も倫理も関係ないのです。
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