(前編)「ミサイルなんか落とせばいい!」じゃあ、これに答えられますか?
「ミサイル迎撃成功率を100%にすればそれが抑止力になり、
いくら撃っても無駄になるからやめておこう、となる。」
この考えは、2025年2月現在、日本の内閣総理大臣である石破茂氏が、
かつて自身の著書・「国防」という本の中でミサイル防衛について
述べていたことです。
確かにミサイル防衛というのは、「他国が撃ってくるミサイル(主に弾道ミサイル)をどうやって迎撃し、日本の領土に命中させないようにするか」
が骨子です。
そのため「ミサイル迎撃成功率が100%になれば安全」という考えに至るのも無理はないでしょう。
しかし、です。
それにいろいろと考えなければならないことがあります。
皆さん質問ですが、「ミサイル迎撃成功率100%」とは、次の選択肢2つのうち、どちらを指すと思われますか?
A:日本の迎撃ミサイル1発で、他国が撃ってきたミサイル1発を確実に撃破できる状態
B:日本の迎撃ミサイル1発で、他国が撃ってきたミサイル10発を確実に撃破できる状態
皆さん、答えを選ばれましたでしょうか?
私の考えはA:日本の迎撃ミサイル1発で、他国が撃ってきたミサイル1発を確実に撃破できる状態 です。
2025年2月の時点において、「一発で、敵のミサイル複数を迎撃できるミサイル」は日本はおろか、世界のどこを探してもありません。
「多弾頭式迎撃ミサイル」とでも呼ぶものはないのです。
よって、Bの選択肢「日本の迎撃ミサイル1発で、他国が撃ってきたミサイル10発を確実に撃破できる状態」は、実現不可能なんです。
ただし、弾道ミサイルの中には複数の弾頭が内蔵されているものがあり、
「1発の弾道ミサイルを発射すれば複数の目標を同時攻撃できる」者があります。
これは多弾頭式弾道ミサイルと呼ばれており、アメリカやロシア、中国などが配備しています。
そう、「攻撃するための多弾頭ミサイルはあるが、迎撃用の多弾頭ミサイルはない」のです。
それにこの多弾頭ミサイル、とても厄介なんです。
自衛隊が敵の弾道ミサイル1発を補足し、迎撃ミサイルを発射したとしましょう。
この時、自衛隊側の認識は「1発のミサイルに対処」ですから、
当然1発のミサイルに撃つ分しか発射しません。
ところが、あともう少しで迎撃ミサイルが敵の弾道ミサイルに命中する、というときに…
「敵の弾道ミサイルから3発のミサイルが発射」されたら?
迎撃ミサイルの数は足りませんよね?
発射された迎撃ミサイルはどうなるか。
私は自衛隊にいたわけではないのですが、いわば空になったブースター部分に命中するかもしれません。
でも、本命のミサイルには当たっていませんよね?
では、分離した3発のミサイルはどうなるでしょう?
迎撃が間に合わなかったら?
日本のどこかに命中しますよね?
これで防衛は成功と言えるでしょうか。
被害が出るため確実に失敗ですよね。
更には今、ロフテッド軌道と言って通常の発射方法より角度を上げ、高い高度に打ち上げられる飛行経路を取るミサイルもあります。
2023年7月にⅿ北朝鮮が撃った三シアルが、このロフテッド軌道を取っていたことがニュースになりました。
このロフテッド軌道の特徴は 射程距離は通常より短くなるが、1000キロメートルを超える高高度から落下するような軌道をとることで、着弾間際の速度がより高速になる、ということです。
目標が高速になれば迎撃は難しくなります。
例えは悪いですが、
ゆっくり走る自動車になら石をぶつけられるかもしれませんが、高速で走っている車にはぶつけにくいでしょう?
これと同じことです。
さて、これで前半部分は終わりとします。
次回は石破氏の「ミサイル迎撃成功率100%案」について、私が思っていることをもう少しお話しします。