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山伏神幸小噺

ある山間に小さく貧しい村があった。その村に生まれた子供は皆、八歳を迎えたある時に、神隠しに遭って消えてしまうものだから、働き手の若者たちは祟りを畏れて村を捨て、村に残った者は年寄りばかりであったという。

ある時、村辻にしゃらん、しゃらんと不思議な音が聞こえた。畑の村人たちが頭を上げると、笠を目深に被った白服が一人、鐸という奇妙な形の鈴がついた杖を打ち鳴らして歩いておった。あれは山伏じゃ、と誰かが言った。

山伏が足を止め、ある畑の男に呼ばわった。済まないが、今晩の宿を貸してはいただけないだろうか、と。その男はこの村には珍しい若者であった。宿を貸す代わりに、一つお願いを聞いてはくれませんか、と若者は言った。

村の老人たちは、若者の家に山伏が行く様子を見て言った。山伏は天狗の血を分けた化け物だ。山伏は人と猿との合いの子で人の生肝を食うらしい。そんな恐ろしい奴を家に上げるとは、あいつもとうとう気が狂ったか、と。

若者は山伏を家に上げるなり、畳に深々と頭を下げた。私の娘は八歳を迎えた一昨年、神隠しに遭って消えました。祟りと年寄りは言いますが、私は娘を忘れられません。どうか娘のため神に祈って下さい、そう若者は言った。

その日の夜半、若者はふと目を覚まし、山伏のいないことに気が付いた。彼は慌てて家を飛び出すと、村の家々に訪ね回った。山伏を見なかったか、山伏を見なかったか。するとある年寄りが、裏山へと行くのを見たという。

村の裏山には、とても古くて大きな楠が一本生えていた。辺りは昼でも薄暗く、年寄りたちは祟り場だと言って忌み嫌っていた。若者が山へと走れば、山伏は大楠の前で、大きな黒い化け物と戦っているではないか。

山伏が真言を唱えると、化け物は忽ち大楠を駆け上がって消えた。山伏は若い娘を抱えていた。それは若者の消えた愛娘であった。楠を祀るようにと託け、千鹿頭明神の札を授けると、山伏は夜の闇に消えたとさ。


【山伏神幸小噺 終わり】


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