断片: スリーピング・ドッグ
時刻は深夜0時過ぎ。ボルチモア近郊、闇の原野を貫く一本道。
騒音を伴い、夜道を孤独に駆ける1台のSUV車は、黒塗りのハマーH1。
「またお化け屋敷か……どうして夜なんだ。決まりでもあるのかね」
「同感。明るい時なら視界も効くし、仕事も捗ると思うけど」
後部座席でぼやくジョッシュに、アシュリンが溜め息交じりに首肯する。
「夜は警察が忙しい。私たちの『仕事』は、そっちの方が好都合なのさ」
「真っ昼間に銃を撃てば、たちまち通報されて警察官とご対面だからな!」
助手席のクラウの言葉に、運転席のデクスが朗らかに答えた。
道路沿いの右手、原野の只中に、白塗りの一軒家がぼんやり浮かび上がる。
「”あの家”だ。住人の名はジェイソン。彼の周りで、失踪者が多発してる」
デクスがフロントガラス越しに家を指差し、バックミラーを一瞥した。
「ジェイソンだって? まるでテキサス・チェーンソーだ!」
「13日の金曜日ね。テキサス・チェーンソーはレザーフェイスでしょ」
「どっちでも構わん! 弾を食らわせれば、どの道ただの『死体』だ」
「凄い、そりゃ名言だね。聖書に書き足しておかなきゃ」
ジョッシュの言葉に、デクスが大笑いしながらウィンカーを点灯させた。
一軒家に続く砂利敷きのアプローチを、ハマーの巨体が踏み締め進む。
「これって警察の仕事でしょ。どうして僕たちが法に背いてまで家探しを」
「警察は人間の犯罪者相手で手一杯。怪物にかまけてる暇は無いのさ」
「どの道ヤツらの9mmや5.56mm程度じゃ、餓鬼は殺せない」
デクスが皮肉り、クラウは足手まといだと言わんばかりの返答。
不穏なオーラをまとって近づく屋敷に、ジョッシュは顔をげんなりさせた。
「駄々っ子は帰れば? 怪物を殺す機会よ、他人に譲るには惜しいくらい」
隣ではアシュリンがFN49ライフルを手に取り、弾を装填していた。
「もうお休みの時間よ、って言うんだろ。子供の寝物語にはぴったりだね」
ジョッシュもkar98ライフルを掴み、5発クリップで弾を押し込んだ。
停車したハマーのヘッドランプが、灯りの消えた屋敷を仄白く照らす。
クラウとデクスも銃を取り出し、弾を装填する。金の弾頭が闇に輝いた。
「変わった弾ね。弾頭の材質は何? 真鍮無垢(ソリッド・ブラス)?」
「金無垢(ソリッド・ゴールド)だよお嬢ちゃん。金はヤツらの弱点だ」
クラウが9.3×74R弾を掲げて見せると、ダブルライフルに装填した。
「何だって!? 僕たちには軍払下のやっすい鉛弾を渡しておいて!?」
「どこの馬の骨とも知れない奴に、いきなり金の弾を持たせると思うか!」
ジョッシュの抗議に、クラウが振り返って大声で一喝!
「悪いが私物なんだ、ジョッシュ。組織の支給品は金の量がケチ臭くてな」
デクスの補足に、アシュリンも不服な顔をしつつ、パチンと手を打った。
「……とにかく、行きましょう。ここで喧嘩してても始まらないわ」
――――――――――
車も通らぬ夜更けの原野に、冷たい風が吹き抜ける。
銃を携えて歩くジョッシュの脳裏に、『あの時』の記憶が蘇ってきた。
(あの時はデリンジャーだったけど、今はライフルだ……ナチの銃だけど)
ジョッシュは自分に言い聞かせつつ、右手の人差し指を意識して伸ばした。
アシュリンがしかめつらしい顔で隣を歩み、ジョッシュの右肩を肘で打つ。
「ちょ、何。なんなの?」
「真面目に仕事しなさいよ。初任務で下手うって死んだら悲惨だからね」
「僕は全然ふざけてないけどね。縁起でもないこと言うなよ」
二人は闇の中で火花を散らして睨み合い、クラウとデクスの背中を追った。「お前たち、ドアの前に立つなよ。いきなり撃たれる可能性もある」
デクスが小声で告げ、クラウが指で立つ場所を指図した。
ドアを挟み、二人ずつ左右に分かれ、壁に貼りついて息を潜める。
(何で僕がクラウの後ろで、アシュリンがデクスの後ろ? 普通逆でしょ)
ジョッシュは心中呟き、ボルト後端の大きな安全装置を左に回した。
クラウがデクスを一瞥して頷くと、壁際から手を伸ばしてドアを叩いた。
「夜分遅くにすいません! パウエルさん、ご在宅ですか!」
反応はない。大声と3度のノック音は、風の吹き曝す虚空へ溶け失せた。
「パウエルさん、おりませんか! パウエルさん!」
やはり反応なし。クラウが慎重にドアノブを手探るが、施錠されて回らず。
クラウがデクスを顎でしゃくると、デクスは頷いて懐を探った。
デクスがウィンチェスター銃を背負い、取り出すはピッキングツール。
「これって不法侵入だよね……撃ち殺されても文句言えないよな」
誰も何も言わなかった。デクスはドアの錠を、淡々とピッキングし続ける。
1つ、2つ、3つ、4つ。扉の上から下まで、順番に素早く淀みなく。
デクスが開錠を終えドアノブを捻ると、室内には不穏な闇が充満していた。
「1列になって進む。室内はもっと暗いぞ、全方位に警戒を怠るな」
クラウが一同を見渡して宣言すると、先鋒を切って屋敷に踏み込んだ。
背後にジョッシュが続き、その次にアシュリン、殿をデクスが務める。
普通の家財道具が置かれた、普通の家だ。しかし普通でない臭いがした。
写真立ては埃を被り、カレンダーは褐変し、植木鉢は干からびている。
リビングのテーブルには吸い殻の積もった灰皿と、空の酒瓶とグラス。
そして空の錠剤ボトルと、粉薬の包みめいた開封済みの小さなプラ包装。
床には衣類や雑誌、有象無象のゴミなどが無造作に散らばっていた。
キッチンには食器が放置され、トイレの便器は吐瀉物で酷く汚れている。
バスルームにも人影なし。一行はリビングに戻り、周囲を見回した。
デクスがアイコンタクトして指差す先には、月明かりの射し込む階段。
(こんなSWATの真似事、どうして僕がしなくちゃいけないんだ)
ジョッシュは心中呟き、クラウの背中を追って階段を昇った。
階上には、見える範囲で部屋が2つ。廊下は奥を左手に続いている。
1つのドアに2人ずつ、クラウとデクスが先頭に立ち、ドア横に貼りつく。
デクスが大仰に片手を振り上げると、2人が同時にドアを開いた。
部屋に踏み込む! ジョッシュはライフルを腰だめに構え、後に続いた!
埃の舞う室内に、人影はない。ただ静寂だけがそこにはあった。
「バカ、遅いんだよ。ビビってもたついてると、死ぬぞ」
窓から月明かりの射す寝室で、クラウがクリアリングを終えて毒づいた。
2人が寝室を出ると、デクスとアシュリンも書斎を出て、空振りを示した。
――――――――――
L字廊下を左に折れると、左手に部屋が2つ。右手側にはバルコニー。
原野を一望できるバルコニーには、枯れた植木鉢が幾つかあるだけだった。
再び2人ずつの2組に分かれ、2つの部屋へ同時に踏み込む。
小さなベッド。戸棚の上には賞状とトロフィー。薄汚れた玩具が少々。
クラウとジョッシュは、埃の舞い踊る室内に油断なく銃口を構えた。
……が、やはり空振り。クラウは舌打ちし、手振りで部屋を出るよう示す。
片目の外れかけたクマ人形が、2人の狼藉を咎めるように片隅で見ていた。
「何か見つかったか?」
「ガラクタの他には、何も。殆ど物置同然だな……しかし、埃だらけだ」
クラウが銃の装填を確認しつつ訊くと、デクスが咳き込みながら頭を振る。
「生活の形跡すらないけど。寝泊りも1階で済ませてたんじゃないかしら」
「名探偵の意見に、俺も賛成だね。1階をもう一度くまなく調べよう」
デクスがアシュリンの肩を叩いて言うと、床板の軋む音がどこかで響いた。
「隠し部屋があるんじゃないかな。屋根裏部屋とか……」
「シッ!」
階段の途中でクラウが足を止め、肩越しに振り返って口に指を立て、睨む。
ジョッシュは肩を竦めて口を噤むと、銃を下段に構えて再び歩き出す。
「気を抜くな。誰かいるぞ。どこかに隠れてる。用心しろ」
小声で警告するクラウに合わせ、ジョッシュの背中をアシュリンが突いた。
(いきおい屋根裏部屋と言ってはみたものの……あったら報告するよな)
名探偵には程遠いなと心中呟き、ジョッシュは再びリビングに歩み入る。
空気の流れを感じた。窓のカーテンがそよいでいた。風が、吹いていた。
誰が窓を開けた? と言わんばかりに、クラウが一同を鋭く見渡す。
ジョッシュ、アシュリン、デクス。3人は互いを見ながら頭を振った。
4人は十字に陣形を組み、互いの背を庇い合いながらリビングを見回す。
いっそライトで照らせばいいんだ。ジョッシュが口に出す勇気はなかった。
カツン。踏み出したスニーカーの靴底に、彼は微かな違和感を覚える。
立ち止まった。立ち止まって、考える。おかしいと感じたのは、なぜだ?
左から回り込んできたアシュリンが、彼とぶつかって声を上げた。
「ちょっと! 何ボケッと突っ立ってるのよ、このうすのろ!」
「そうだ! 屋根裏部屋じゃない……地下室だ!」
「ハァ、何ですって?」
ジョッシュは戸惑うアシュリンを左手で押し退け、その場に膝を突いた。
kar98の銃尾で周囲の床を小突き、反響音を確かめる。
ジョッシュは左手で床板を手探り、微かな切れ目を指で捉えて確信した。
……だから、始めからライトで照らせば良かったんだ。
ジョッシュが無言で一同を見渡すと、皆が銃の安全装置を確かめ、頷いた。
ギギィ、ギィ……。床と同化した蓋が引き開けられ、暗闇が姿を現す。
クラウにアシュリン、デクスの3人が油断なく銃を構え、襲撃に備えた。
反応なし。背後の窓で、カーテンが風に揺られてカタカタと鳴った。
「どうする?」
「行くだろ」
「だよな」
短い会話と共に、クラウは閃光弾、デクスは数本のサイリュームを抜いた。
クラウが閃光弾の安全ピンを抜くと、微塵の躊躇も無く穴倉へ放り込む。
ジョッシュが咄嗟に、入口の蓋を閉じた。――KBAM!
「こいつを折って、暗い場所に投げろ! よし、突っ込むぞ!」
4人はサイリュームを折って蛍光色を点し、地下室への階段を駆け下りる!
――――――――――
直管電球のミニチュアめいたサイリュームが、地下室の至る所に放られる。
蛍光色が黴臭い暗闇を侵蝕し、凝った空気を蛍火めいて朧気に照らした。
アシュリンの投げたサイリュームが放物線を描き、男の額で跳ね返る。
半裸の男が、地下空間の中央で、ボロボロの革ソファに座していた。
「あァ?」
中肉中背の中年男・ジェイソンは、屈んでサイリュームを拾い上げた。
錠剤ボトルが投げ捨てられて転がり、右手のリボルバーが鈍い銀色に輝く。
「……あぁ」
サイリュームを拾って一瞥すると、直ぐに興味を無くして背後に放った。
ソファに座り直すジェイソンの背後を、サイリュームが照らし……。
ガギャンガギャンガギャンガギャン!
「「「「「GROOOOOW!」」」」」
閉じ込められた鉄格子を揺らし、唸るそれらは……無数の黒い人型・餓鬼!
「ジェイソン・パウエルだな。監禁および殺人の容疑で貴様を逮捕する!」
「銃を捨てろ! 抵抗しても無駄よ、大人しく投降しなさい!」
デクスの発言に触発され、アシュリンがそれらしい台詞をアドリブで叫ぶ。
「銃か命、捨てるのは2つに1つだ。3つ数えるから、好きに選びな!」
「「「「「GROOOOOW!」」」」」
ジョッシュはそれらしい台詞が思い浮かばなかったので、沈黙を貫いた。
「いち……ッ!」
「殺しは正直、2人目で飽きちまったよ。それからはただの惰性だった」
「懺悔は取調室で刑事にでもするのね! 銃を捨てなさいッ!」
「だがこれでいい。俺の人生、所詮はこの程度が関の山だと自覚してるよ」
「おい、何をブツブツ言ってやがる。ヤクでもキメてんのか?」
「に……ッ!」
ジェイソンはおもむろに銀のリボルバーを動かすと、銃口を口に咥えた。
「俺のしみったれた価値の無い人生の中で、一つ興味深い神秘を発見した」
「妙な考えは止めて! 聞いてるの!? 銃を捨てなさい!」
「死人の蘇りは最後の審判を待つ必要があるが、あれには裏技があるんだ」
「ジェイソン・パウエル! 最後の警告だ! 武器を捨てろ、今すぐに!」
「”教授”と名乗る男……彼は神秘の探究者だ。どこで会ったかはもう忘れた」
ジョッシュは脈絡も無く、インディアンの記者・マックスを思い出した。
「それはコールタールより暗い、純粋の黒。秘蹟とは正にあれのことだ!」
ジェイソンは銃口を口に咥えたまま、瞳を輝かせて恍惚と叫ぶ!
「……さん……ッ!」
「誓うよ、私は神の存在を信じる。アーメン」
BLAM,ZGTOOOOM!
ジェイソンのリボルバーが頭蓋を砕き、クラウのライフルが心臓を貫いた!
金の弾頭がジェイソンを貫き、貫通弾が鉄格子に飛び込んで餓鬼に直撃!
「GROOOOOW!?」
超自然の青い炎と共に、餓鬼の脇腹に大穴が開いた! だが死んでいない!
「こいつ……餓鬼じゃないぞ!?」
ジェイソンの亡骸から力が抜け、手にしたリボルバーがこぼれ落ちる。
――BEEP,BTOOOOOM!
次の瞬間、唖然とする4人の背後で爆発音! 遠隔起動型の爆薬だ!
「しまった、地下室の入り口が!」
「「「「「GROOOOW!」」」」」
CLAAAAASH! 餓鬼たちが鉄格子を薙ぎ倒し、4人に迫る!
「ハンッ、逃がす気は無いってことかい。上等だよッ!」
――――――――――
ZGTOOOOM,ZGTOOOOOM! 大口径銃2挺が同時に発砲!
先んじて歩み出た餓鬼2体の心臓を貫き、青い炎と共に一撃必殺!
デクスがライフルのレバーを弾き、クラウがダブルライフルを2つに折る!
メルケル銃のエジェクターが、2本の空薬莢を宙に弾き飛ばした!
「やるしかないってワケね!」
アシュリンが青褪めた顔で気丈に叫び、ライフルの照準を餓鬼に合わせた!
ジョッシュは土壇場に追い込まれ、自分でも驚くほどに心静かだった。
ライフルを肩付けすると、歩み寄る餓鬼の胸を狙って、引き金を絞る!
BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!ZGTOOOOM!
デクスのもう1発が、もう1体の餓鬼を射殺!
アシュリンとジョッシュは7.92mm弾を連射するが、即死には至らず!
クラウが9.3mm弾を2発同時に装填し、遊底を閉じて銃を構える!
「ああもう、キリがない! くたばりやがれえ――ッ!」
BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!
興奮したアシュリンは、モグラ叩きめいて狙いを彷徨わせ、あちこち乱射!
違う。それじゃ駄目だ。僕たちの銃だと、それでは殺せない。
銃を撃ち尽くしたジョッシュは、予備の弾薬クリップを銃に押し込んだ。
ZGTOOOOM,ZGTOOOOM!
クラウとデクスの銃が2体を殺すが、生き残りがじりじりと距離を詰める!
「何で死なないのよ、もうッ!」
アシュリンが声を震わせ、弾切れの銃に手荒くクリップを押し込んだ。
ジョッシュはボルトを操作してクリップを弾くと、銃を構えて前進した。
「おい馬鹿、血迷ったか! 近づくんじゃない!」
狼狽したデクスの叫びにも構わず、ジョッシュは一体に的を絞って撃つ!
BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!
何発か狙いが逸れつつ、被弾した餓鬼が仰向けに倒れる! しかし弾切れ!
「危ないッ!」
斜め前の餓鬼が、手近なジョッシュに狙いを変えて迫り来る!
ジョッシュは懐からCz52ピストルを抜き、腰だめに構えた!
BLA,BLA,BLA,BLA,BLAM!ZGTOOOOM!
速射で足の動きが鈍った餓鬼に、クラウの追撃が止めを刺し、青く炎上!
「バカが、死にたいのかッ! ジョッシュ、一旦退けッ!」
聞く耳持たず! ジョッシュは拳銃を納め、ライフルを再装填した。
「GROOOOW……」
BLAM! 起き上がろうとする餓鬼の胸に一撃! が、死なず!
「GROOOOW!?」
背中を打ちつけ、悶え苦しむ餓鬼! BLAM! もう1発……まだだ!
「GROO……」
BLAM! 3発目を撃ち込んだ次の瞬間、心臓から爆発的な青い奔流!
ジョッシュは無感情にボルトを動かすと、次の標的を探して銃を構えた。
BLAM!ZGTOOOOM,ZGTOOOOM!BLAM!BLAM!
彼はフルメタルジャケットのラストで、マーチを歌う光景を思い出した。
ジョッシュは何かに憑りつかれたように、手近な餓鬼を銃で狙い、撃つ!
BLAM!BLAM! ライフルの弾が切れると、腰のピストルを抜いた。
BLA,BLA,BLA,BLAM! 今度はピストルが弾切れだ!
――――――――――
「GROOOOW!」
餓鬼は虚ろな双眸でジョッシュを見つめ、大口を開いて両手を伸ばす!
ジョッシュはピストルを捨て、弾切れのライフルを楯めいて構えた!
「GROGROGROGROOOOW!」
餓鬼が掴みかかり、油めいた黒い液体を撒き散らし、獣めいて咆哮した!
「ジョ――ッシュ!」
アシュリンの悲鳴を他所にジョッシュは笑い、力任せに餓鬼と押し合う!
ZGTOOOOM! デクスが駆け寄り、他の1体を射殺!
「ジョッシュ、このケツ穴野郎! クソッ、手が付けられねぇ!」
お前の力はその程度か! そっちがやらないなら、こっちがやるぞ!
ジョッシュは自分でも信じられない程の力で、餓鬼を力任せに突き飛ばす!
そして弾薬クリップを取り出し、弾切れのライフルを再装填!
「GROOOOW……」
BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!
起き上がりかけた餓鬼に、畳みかけるように銃撃して射殺! 青く炎上!
ZGTOOOOM! クラウが最後の1体を射殺し、ジョッシュを一瞥。
デクスが額に青筋を浮かべ、ジョッシュを力任せに殴り飛ばした!
「いい加減にしろ、ジョッシュ! 正気に戻れ!」
ジョッシュは尻餅をつきつつ、青く燃える餓鬼を見て、綺麗だなと思った。
「僕は正気だよ。正気も正気さ。頭の奥がキンキンに冷えてるんだ」
足りないのは正気じゃなくて……銃の威力の方だ。
4人は餓鬼の殲滅を終え、逃げ道を探して地下室から地上に這い上がった。
ジョッシュは無謀な行動の制裁で、クラウとデクスにしこたま殴られた。
「ハァッ、ハァッ。全く、よもやこいつがレザーフェイスだったとはな!」
「ジェイソンだろ」
闇の原野で失神したジョッシュを見下ろし、クラウが欠伸交じりに言った。
「どっちでも構わんさ! どっちにしろイカれてる!」
「ああ、思いのほかな」
「あんな無茶して、生きてるのが不思議なくらいだ!」
クラウは口角を上げると、仰向けに横たわるジョッシュを靴先で小突いた。
「愚痴は帰ってから聞いてやる。こいつを車に積み込むから、手伝え」
デクスは不服そうな顔で口を噤み、ジョッシュの両足を掴んで持ち上げる。
アシュリンが引き攣った表情で、ハマーの後部ドアを開いた。
ジョッシュが後部座席に荷物めいて投げ込まれ、ドアが閉ざされる。
「あら、ジョッシュ。もう戻ったの? 思ったより早かったわね」
「あぁ、母さん。『面接』は受けたけど、結果が出るまで暫くかかるって」
「あらそう。無職で自由の身だからって、余り遊び歩いちゃ駄目よ」
「分かってるよ。僕だって、いつまでも子供じゃないんだから」
初仕事の2日後には、ジョッシュはシカゴの実家に居た。
冷却期間という名の強制送還だ。だが、ジョッシュは既に肚を決めていた。
銃が必要だ。強力な銃が。特に拳銃が大事だ。生半可な物ではいけない。
ジョッシュは銃金庫を開き、祖父と父親から受け継いだ銃を眺める。
漆黒のS&Wリボルバーを取り出した。鈍重なNフレームの4インチ銃身。
口径44マグナム、モデル29マウンテン・ガン。ラバーグリップ付き。
悪くない。一撃必殺とはいかないし、使いこなすには練習も必要だが。
そうだ、例の弾も作らなきゃ。餓鬼を殺す……純金の弾頭。
【断片: スリーピング・ドッグ 終わり】
【CLYBABY JOSH:断片…… 終わり?】
From: slaughtercult
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