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泣き虫ジョッシュと惨劇の館/7

【"CRYBABY JOSH" in the slaughter house】
【CHAPTER/07: CROWD ROCKER】

《ある男の回想・モノローグ》
俺は外の世界に憧れていた。居留地を飛び出してもう数十年は経つだろう。
ベトナム戦争のモノクロ写真を見たのが、全ての始まりだった。
俺が世界中の戦場を飛び回っている間、旧友は少しずつ姿を消していった。
自殺した奴、飲酒運転で事故死した奴、軍隊で上官を撃ち殺した奴……。
この国で俺たち先住民が、誇りを失わず真っ当に生きていくのは難しい。
そして俺はいつの間にか、故郷の同胞たちとは別種の人間になったようだ。
金持ちのために回ってるこの国で、名誉と端金を求めるクソみてぇな日常。
俺は理想を追い求める代償に、故郷の魂と誇りを失ってしまったらしい。
自分が何を望んで記者になったのか……俺はもう思い出せない。

―――――01―――――

RING, RING, RING! RING, RING, RING! 黒電話がベルを鳴らす!
「フン、黒幕から電話だぜ。誰が出る?」
「正気か!? 電話に出るなんて絶対ヤバいぜ、早いとこずらかろう!」
マックスの悠長な問いに、ナレクは大袈裟な手振りで言葉を返す。
RING, RING, RING! RING, RING, RING! 電話のベルが鳴り続ける!
――ガチャン! マックスはおもむろに手を伸ばし、受話器を取り上げた。

大口を開き、何事か怒鳴ろうとしたナレクを、マックスが視線で黙らせた。
「――やっと出たか”女王”、どこをほっつき歩いていた? 緊急事態だ!」
神経質そうな男のしゃがれ声が、受話器の向こうで早口にまくしたてる。
「――時間が無いから手短に言おう。引っ越しだ、今すぐに。心が痛むが、君の家族は連れて行けない。執念深い猟犬ども……”ReF”に嗅ぎつけられた。奴らは餓鬼(ハンガー)を殺す処刑人……忌まわしき”我々”の仇敵」

ハンガー……あの怪物の名前か? そして怪物を殺す組織……R・E・F
男が咳払いした。無関係な人間が聞いているとは、夢にも思わぬ様子だ。
「――いいか”女王”、奴らは手強い。”我々”とは別の意味で専門家なのだ。餓鬼を殺す、という意味においてはな。今すぐここを引き払うべきだ。君の怒りはもっともだが、私は君を失いたくない。”女王”……私の最高傑作
男は言葉を途切れさせると、何かに気付いたようにハッと息を呑んだ。

―――――02―――――

監視室の男は、カメラ映像の一つを注視。廊下を歩く、”女王”の姿!
「――”女王”ッ!? 部屋に居たのではッ!? お前は一体誰だッ!?」
「バレちまっちゃ仕方ねぇな。俺はインディアンで、酔っ払いで、記者さ
「――もはや時間切れかッ! ”女王”は惜しいが、已むを得まいッ!」
「色々と興味深い話をどうも。おかげで面白い記事が書けそうだぜ」
「――残念だ。この廃墟はもうじき、爆薬で跡形もなく吹き飛ぶのだッ!

「――フハーッハッハハハ! 餓鬼もろとも吹き飛び、死ぬがいい!」
ガチャリ! ツー、ツー、ツー。スピーカーのビープ音が空しく響く。
マックスは頭を振って受話器を戻すと、カメラを構え……FLASH!
殺し屋が来るってよ。電話の男が言うには、この廃墟は自爆するそうだ」
自爆!? 嫌だ、嫌だ、嫌だッ、冗談だろッ!? 今すぐ逃げようぜ!
「状況が変わったな。一か八かだ、玄関のドアをぶち破るしかねぇ!」

GROOOOOW……GROOOOOW……
病室の入り口から響く、餓鬼の呻き声! 異形が灯火に引き寄せられる!
「畜生、長居しすぎたんだ! 袋小路だぞ!」
「相手は一人、出口は真正面! ジョッシュ、火を消せ! 突破するぜ!」
――パチリ。ジッポー消火! 暗闇に浮かぶ、怪物の恐ろしい輪郭!
ジョッシュは手探りで、カービン銃を再装填し、餓鬼を目がけて構えた!

―――――03―――――

BLAM! BLAM! BLAAAAAM! BLAM! BLAM! BLAAAAAM!
ウォーキングファイア! 銃弾が殺到し、餓鬼がぎこちないダンスを踊る!
銃撃、そして再装填! 黒色火薬の硝煙が、噎せ返らんばかりに充満!
ア――ッ!? 弾が、ピストルの弾が切れた――ッ!?
「ナレク! だから、リボルバーを持てって言ったんだよッ!」
ジョッシュが片手で抜いたリボルバーを、ナレクが奪い取るように掴んだ!

「みんな、聞いてくれ! あいつの弱点は心臓だ! 心臓を狙うんだ!」
BLAAAAAM! ジョッシュが叫び、カービン銃が反動で仰け反る!
GROOOOOW!?
心臓破壊! 超自然の青い炎! 餓鬼が仰向けに崩れ落ちる!
先陣を切るマックスが、銃に弾を詰めながら、ドアの向こうを窺い見た。
ナレクは銀色のリボルバーを握りしめ、涙と鼻水を垂れ流して震える!

「シルヴィア、ついて来てるかいッ!?」
ジョッシュの呼び声に、シルヴィアが背後からの当て身で答えた。
「……ねぇ……どこへ行くの……?」
「さぁ、どこかな。行き先が天国にならないことを、願ってるけどね!」
ガシャッ、キーン! ジョッシュは苦笑し、カービン銃を排莢!
片手でポケットを探るも、残弾は僅か! 寒気が背筋を這い上がる!

―――――04―――――

マックスが頷き、ナレク、ジョッシュ、シルヴィアの順番で部屋を出る。
「クソッ、耳が痛ェ。鼓膜が破れたんじゃねえのか!?」
「生きてる証拠だぜ、ナレク。痛いだけなら死ぬよっかマシだろ!」
キャア―――――ッ!?
女の絶叫! そして迫りくる足音! 暗闇の向こうから駆け寄る人影!
「おいまさか、こんな時に! ヤバいぜ……あいつはもしかして!」

赤毛の女! 水平二連銃を腰だめに、鬼気迫る顔で全力疾走!
「マジかよ、ショットガン!? 一体どこで拾いやがったッ!?」
qwえrtyういおpッ! あsdfghjklッ!
意味をなさぬ喚き声! CLICK! CLICK! 発砲……しかし空撃ち!
ア゛―――――ッ!? 死゛ッ!?
ナレク絶叫! 腰を抜かしてリボルバーを放り出す!

「そこで止まれ! それ以上近づいたら、ぶっ放すぞッ!」
マックスとジョッシュが、赤毛の女に油断なく銃口を構えて対峙!
「そこをどいてッ! どきなさいッ! あいつが、あいつが来るッ!」
シルヴィアがジョッシュの肩越しに、闇の向こうを窺って双眸を細めた。
カツン、コツン、カツン、コツン……俄かな静寂を破る、足音!
怖がらなくていいのよ! あなたも家族になれるわ……きっと!

―――――05―――――

廃墟に朗々と響く声! 音高い足音! 闇夜に揺らめくイヴニングドレス!
長い黒髪! 生々しい火傷と縫合痕! その姿はおぞましくも美しい!
「クソッ、最悪だぜ……”女王”様のお出ましってワケだ」
「あらあら、貴方たち。みんなして集まって、一体どうしたというの?」
キャア―――――ッ!? 嫌、嫌だッ、来ないでぇッ!
赤毛の女は背後を振り向き、絶叫して尻餅! 必死に這いずって逃亡!

「……シルヴィア。どうして貴方がそこに居るの? ……シルヴィアッ!
”女王”がシルヴィアを見咎め、ゆっくりとした足取りで歩み寄る!
外に出てはいけないと言ったはずよ! どうして分かってくれないの!
月明かりで女の双眸が閃き、ジョッシュを憎々しげに睨み据える!
赤毛の女が床を這いずる先で、銀色に煌めくリボルバー!
「――見つけた! 拳銃! 私の銃! ……これがあればッ!」

”女王”は息を震わせると、一歩、二歩と追い詰めるよう歩み寄った。
あなたは私の大事な妹。幸せにできるのは私だけ……誰にも渡さない!
赤毛の女はショットガンを放り出し、銀色のリボルバーを掴み取る!
カチリ! 撃鉄を起こして振り返り、歩み寄る”女王”に照準した!
「このッ……このクソ売女ッ! 死ね―――――ッ!!!!!
BLAM! BLAM! BLAM! BLAM! BLAM! CLICK! CLICK!

―――――06―――――

踊る硝煙! ”女王”の手足や胴体に着弾! ドレスが裂け、血飛沫が迸る!
ヒャア―――――ッ!
赤毛の女が絶叫し、弾切れのリボルバーを空撃ちし続ける!
”女王”は……倒れない! 少しふらついただけで、事も無げに顔を上げた!
そんな物が私に効くと思って? 大人しく運命を受け入れるのよ!
「ジョッシュ、やるしかねぇ! ありったけ撃ちまくるぜ!」

さぁ、遠慮することないのよ! あなたたちも、家族に!
BLAM!
 切り詰め銃発砲! 女の額に着弾するも、効果は無い!
BLAAAAAM! カービン銃発砲! 胸の下に着弾! 女が吹き飛んだ!
女は床を転がると、乾いた嘲笑と共に、やがてゆっくりと身を起こす!
何度やっても無駄よ! 私は殺せない! 大人しく家族になるのよ!
「お断りだねッ! 家では女房子供が、帰りを待ってるんだッ!」

ジョッシュとマックスは、呼吸を荒げて銃を再装填!
BLAAAAAM! BLAM! BLAM! BLAAAAAM! BLAM! BLAM!
容赦なく撃ちまくる! 女は笑いながらよろめき、吹き飛ぶ!
しかし、その姿がボロボロの血みどろになってもなお……立ち上がる!
「畜生、どうなってやる!? あいつ、不死身かよッ!?」
その姿は人間でも、餓鬼と呼ばれた怪物めいて、銃弾を意に介さない!

―――――07―――――

ア―――――ッ! 嫌だ、嫌だ、嫌だ! 死にたくないッ!
ナレク叫ぶ! 視線の先には、彼と同じように腰を抜かした、赤毛の女!
打ち捨てられた水平二連式ショットガン! ポケットの中には散弾!
ナレクは生唾を飲み込むと、震える手で水平二連銃を掴み取る!
「へたり込んでる場合か、ナレク! この臆病者がッ!」
マックスの罵声に舌打ちし、ナレクは銃の薬室を開放、散弾を装填した!

「俺は、俺は、俺はッ……臆病者じゃ、ねぇ―――――ッ!
BLAAAAAM! BLAAAAAM! 散弾の連射が”女王”を吹き飛ばす!
「ハァーッ、ハァーッ! どうだ、近親相姦の売女め!」
ナレクはショットガンを抱え、腰をついたまま叫ぶ!
”女王”は床に転げたまま、ビクリビクリと痙攣! 起き上がらない!
「なんてこった……お手柄だナレク! 今の内に逃げるぜ!」

ジョッシュはナレクに駆け寄り、手を差し伸べて引き起こす!
「弾を持ってたのかい、ナレク? おかげで助かったよ!」
「ハハァッ! 俺のこと見直しただろ? やる時ゃやるんだ、俺はよ!」
BTOOOOOM! BTOOOOOM! BTOOOOOM!
連鎖する爆発! 鳴動する廃墟! あちらこちらで瓦礫が崩落!
キャア―――――ッ!? 爆発! 爆発! 何なのよ一体!

―――――08―――――

「説明してる暇はねぇ! そこのアマ! 死にたくなければ一緒に来い!」
マックスが切り詰め銃に再装填しながら、女に駆け寄って手を伸ばす!
赤毛の女は唇をわななかせ、訳も解らずマックスの手を掴んだ!
「急ごう、シルヴィア。このままじゃ僕たち、仲良くあの世行きだ!」
シルヴィアは現実感の無い面持ちで、ジョッシュに頷きかけた。
BTOOOOOM! BTOOOOOM! 無数の爆発! 生存者たちは駆ける!

GROOOOOW……
階段の前に餓鬼! 名状しがたき黒い身体で、行く手に立ち塞がる!
「クソがッ! そこを退けェ――ッ!」
BLAM! BLAAAAAM! BLAM! BLAAAAAM!
銃弾殺到! 怪物が倒れるが、死亡を確認している暇は無い!
一行は這いずる怪物の横を駆け抜け、列をなして階段を駆け下りる!

玄関ホール! 散乱する瓦礫の間を縫って、5人が観音扉に急ぐ!
ガチャリ、ガチャガチャ! ドアは相変わらず施錠されたままだ!
「時間がねぇ。ナレク、手前のショットガンでドアをぶっ壊せ!」
「ハハァッ、来たぜ! ようやく見せ場ってわけだな、任せろ!」
ナレクは水平二連銃の空薬莢を苛立しげに取り出し、再装填!
クソッたれブリーチングだ! お前ら下がってな、ぶちかますぜ!

―――――09―――――

左右のドアノブの間、閂がかかっていると思しき部分に照準!
BLAAAAAM! BLAAAAAM! 木屑が派手に舞い、重厚なドアが鳴動!
「やったぜ! これで俺たち、外に――」
ガチャリ、ガチャガチャ! 赤毛の女がドアを揺らすも、ビクともしない!
クソ――ッ! 何でよ――ッ!? 何で開かないのよ――ッ!?
CLAAAAASH! 盛大な破壊音! 廃墟が崩れかけているのだ!

GROOOOOW……ワタシノ、カゾク……ニガサ、ナイワ……GROOOOOW
身体を引きずり、よろめきながら、”女王”が呻き、迫り来る!
「おいおいマジかよッ! いい加減に諦めろよ、くたばり損ないがッ!」
マックス狼狽! ジョッシュにアイコンタクトし、銃を構えた!
GROOOOOW……GROOOOOW……GROOOOOW……GROOOOOW……
無情! 戦慄! ”女王”の背後に従えるように、無数の餓鬼が襲来!

ウギャア―――――ッ! デッドエンドだッ! 死にたくなーいッ!
「ワーオ。これって、ヤベェよな……ジョッシュ」
ジョッシュは皮肉笑いで頷き返し、ポケットの弾薬を掴み取った。
「そこのお姉さん! 弾だ、受け取れ! そのリボルバーに使える!」
「もういいわよ! 弾なんか貰って……今更どうしろっていうのよ!」
赤毛の女が叫び、リボルバーを恨みがましく、ジョッシュに投擲!

―――――10―――――

シルヴィアは眼前にカービン銃を突き出され、首を傾げた。
「済まない、ちょっと持ってて……早くッ!」
ジョッシュはカービン銃を押し付けると、リボルバーを拾い上げる。
銃身を引き出し、排莢! カチン、チャキッ――カラコロカラコロッ。
ジョッシュは鬼気迫る表情で、リボルバーを組み直して再装填!
ゲートを開き、弾薬を1発ずつ押し込む! もどかしいほどに遅い!

BLAM! BLAM! BLAM! 刻々と迫る怪物たちに、マックスが発砲!
BLAAAAAM! BLAAAAAM! ナレクも口角泡を飛ばし、撃ちまくる!
ジョッシュは装填し終えたリボルバーを、赤毛の女に突き出した!
「銃を取れよ……早くッ! 死にたくないんだろ、簡単に諦めるなよ!」
「もういいの。私が悪かったの……私たち、みんなここで死ぬんだわッ!」
ジョッシュは歯噛みして激怒! 赤毛の女の頬を平手打ちした!

「いい加減にしろ! 自分だけ被害者ぶるなよ! 僕だって、僕だって!」
ウワ――ッ! お前ら、お前ら全員死んじまえ――ッ!
赤毛の女はフリークアウト! その場にしゃがみ込み、泣き叫ぶ!
「女なんか放っとけ、ジョッシュ! 手前もさっさと加勢しやがれッ!」
マックスが切り詰め銃に弾を装填し、やけっぱちに叫ぶ!
「クソッ……クソックソックソッ、畜生ッ! 何で僕がこんな目にッ!」

―――――11―――――

ジョッシュは拳銃を懐に差し、シルヴィアからカービン銃を受け取った!
シルヴィアが赤毛の女の隣に座ると、女の腕がシルヴィアを抱き寄せた。
ウゥ――ッ! ヤダ――ッ! 死にたくないよ――ッ!
BLAAAAAM! ジョッシュ発砲! 先頭の”女王”を吹き飛ばす!
”女王”は怪物の群中で大股開きに倒れると、ふらふらと起き上がった!
BLAM! BLAAAAAM! BLAM! BLAM! BLAAAAAAM! BLAM!

「クソーッ、クソーッ! 弾切れだ! ショットガンの弾が無ェッ!」
「ナレク、リボルバーを使え!」
「クソッたれ、意味あんのかよッ!? どの道もうおしまいだッ!」
ナレクは放られたリボルバーを手にして、餓鬼の群れに突きつけた!
「くどいぜッ! くたばる最後の瞬間まで、諦めるんじゃねぇよッ!」
BLAM! BLAM! BLAAAAAM! BLAM! BLAM! BLAAAAAM!

ドンドンドン! ドンドンドン! 背後でドアが、激しく打ち鳴らされる!
「――生存者かッ!? 誰か中に居るのか!? 誰か答えろッ!」
イヤ――ッ! 死にたくな――い! 誰か、誰か助けて――ッ!
「――オーライ、レイディー! ドアを吹っ飛ばすから、離れてろ!」
「ブリーチング! ブリーチング! ブリーチング!」
CRA――TOOOOOM!!!!!


"CRYBABY JOSH" in the slaughter house
CHAPTER/07: CROWD ROCKER
TO BE CONTINUED…

※おことわり※
この物語はフィクションであり、実在する地名、人名、商品名及び出来事、その他の一切は、実際のものとは関係がありません。

From: slaughtercult
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