魔法少女分遣隊「ラヂカル・バニー」vsウナギ星人vsイタチ怪人 #AKBDC2023 #ppslgr
このお話は、以下の記事を協賛しています。
蒸し暑い八月の午後。アーケード通りの対面通行道路に面した、商業ビル一階の真新しい日本食レストラン『世紀末はるまげ丼』。使用するウナギは100%日本産の完全養殖ウナギでSDGs対応、養殖業者直送により提供価格をリーズナブル価格に抑えつつ、モダンな店構えで若者層も狙った話題の店。
さすれば、彼が行かない理由は無い。
「聖戦の時間だ……」
午後の陽光を背に、都市の蜃気楼の向こうから現れる一人の男。筋肉質な身体を清朝末期風の服で装い、武骨な軍用サングラスで目元を覆って不敵な笑みを浮かべた男。聖戦とは何か? 彼は危険なジハーディストなのか?
自動引き戸が開かれ、戦士は一人死地に赴く。紫の和風な制服で武装した店員が、力強い眼差しの下に表面上にこやかな笑みを浮かべ対峙する。
「いらっしゃいませようこそ。何名様ご利用ですか?」
「あ、一名です」
戦士は見た目に寄らぬシャイな反応で答えた。彼の名はホイズゥ。普段は危険なパルプ小説を執筆するパルプスリンガーにして、ウナギ殲滅のために暗躍する聖戦士『ウナギ喰らい』の一員だ。因みに構成員は彼一名である。
店員の紫の背中には緊張感が漲っていた。できる。ホイズゥは何も言わず先導に従い、窓際の四人掛けのテーブルに一人着席した。ソファの通路側に腰を下ろすのは、危険が迫ったら直ぐ逃げられるようにするためだ。一流の戦士は、無防備な食事時にも注意を欠かさない。そこが死地なら猶更だ。
「ここは既にウナギの寝床の中……いつ危険が訪れるとも知れない」
「ご注文は?」
「あ、ロイヤル松うな丼で」
ホイズゥはメニューを見ずに即答した。物見遊山の気分で、入店してからのんびりお品書きを見定めるヤツは、テーブルの影から現れたイール戦士に噛まれて死ぬ。店員は真顔になり、両者の間に緊張感が張り詰めた。
「ロイヤル松うな丼ですね。サイドメニューはお付けしますか?」
「いえ結構です」
「お飲み物はいかがですか?」
「結構です」
無用なサイドメニューに気を逸らす者は二流だ。一流のウナギ喰らいならウナギとの戦に集中し、戦闘力を温存すべし。ホイズゥは素早く決断した。
「注文を確認します。ロイヤル松うな丼お一つ。以上でよろしいですか?」
「結構です」
「それでは暫くお待ちください……ヤツらが待ち受けているとも知らずに」
「なにッ」
店員の意味深な返答にホイズゥが気色ばんで問い返すも、応答はなし。
「来るなら来い……俺一人だって、やってやるさ」
ホイズゥは懐から封筒を取り出しつつ呟いた。宛名にはルーン文字に似た難解なエルフ文字が並び、家系の紋章を捺印した封蝋で綴じられている。
ごとり。視界の端から手が伸び、封筒の前に急須が置かれた。ホイズゥが一瞥を向けると、店員が暗黒微笑でこちらを見遣り、踵を返して立ち去る。
「ごゆっくりどうぞ……精々ここを生きて出られるよう祈るんだな……」
「フン……」
去り際に言い残された嘲うような言葉を、ホイズゥは軽くあしらった。
ホイズゥはサングラスを外し卓上に横たえ、封筒を開くと、時代がかったセピア色の羊皮紙を取り出す。羽ペンで記された達筆のエルフ語、その横にフリガナめいて記された、漢字仮名交じりの流暢な日本語。王子の直筆だ。
『親愛なる我が友へ 眉目秀麗にして高貴なるエルフの王子は、とあるTVのクイズショーに優勝して旅行チケットを手に入れました。お前がこの手紙を読んでいる頃、俺は最高級の水上リゾートホテルでホットなベイブと危険な火遊びに興じているだろう。どうだ悔しいか。暫く帰りません 敬具』
ホイズゥは羊皮紙を丁寧に折りたたんで封筒に戻し、封筒を懐に納めると湯呑に茶を注ぎ、喉を潤した。エルフの王子は彼のイマジナリーフレンドの一人だが、独立した肉体と独立した自我を持ち、自己の判断で勝手気ままに動くことができる。ホイズゥには何人かのイマジナリーフレンドがいる。
「……イマジナリーフレンドが全員バカンスってそんなの有り得るかよ?」
ホイズゥは両手で湯呑を捧げ持ち、憮然と呟いた。冷房の効いた室内から見える外界は、滾った空気がメラメラと揺らめき、とぐろを巻いていた。
「オーッホホホ! 見なさいチヨコ、このアポカリプス三倍松うな丼を!」
「壮観ですねユリお嬢様。ちゃんと食べ切れます? お残しは駄目ですよ」
「ちょ、ユリって呼ばないでよ! 今の私は天城グロリアなの!」
パーティションで区切られた隣のテーブルから、甲高い女子と落ち着いた大人の女性の声の掛け合いが聞こえる。ウナギとの聖戦の時を心静かに待つホイズゥが一瞥すると、人影がパーティション一杯に両手を広げて見せた。
「いつも言ってるでしょう貴方! お嬢様はマインドセットが大事なの!」
「ユリお嬢様。そういうの、大人になったら凄く恥ずかしくなりますよ」
「あー聞こえませんわ~。誰が何と言おうと私はグロリアですの」
「そうやって無理にお嬢様言葉を取り繕って気取るのも、正直痛いですよ」
ワオ。正論パンチ。ホイズゥは何だかいたたまれない気持ちになった。
「何のこれしき。他人の意見に迎合するようではお嬢様は務まりませんわ」
「五歳の昔から相変わらず強情ですね」
「む、昔の話は蒸し返さないでくださる!?」
「ホラ、早く食べないと冷めちゃいますよ」
「分かっているわ、今食べようとしていたところよ!」
高飛車なお嬢様は淫靡な音を立てて鰻丼を頬張り、官能的に呻いた。
「う~~~ん、美味し~~~いですわぁ~~~。絶妙な焼き加減でホロホロ解れゆくウナギの身に絡んだ甘辛いタレのしっとりとしたマリアージュ!」
「フフフ。美味しいですか、ユリお嬢様」
「グロリアと言っているでしょう、チヨコ」
お嬢様は冷静に突っ込むと、一つ官能的な咳払いをこぼす。
「今度はレンとアヤメとスミレ、あとセンパイも一緒に連れて来なきゃね」
「どう考えても、キンカさんがこの並びに相応しいとは思えませんが」
「何を言っているの! センパイは凄いのよ! 留年三回、飲酒喫煙賭博に交通違反、不法侵入のパパラッチ撮影で補導十三回、バイクも車もプロ級に運転できるし、お酒を一リットル飲んでも真っ直ぐ歩けるんですのよ!」
「キンカさんって何でまだ退学させられてないんですか?」
「学園理事長だかのスキャンダルの証拠を握っていると専らの噂ね!」
「絶対まともな大人にならないな……いつか殺されるんじゃないですか」
「センパイは殺しても死にませんわ多分! これバニーズ全員の総意よ!」
「えぇ……」
伝説の先輩の武勇伝をパーティション越しに聞き、ホイズゥは学生時代に思いを巡らせた。地元最強の先輩の噂は、誰しも耳に覚えがあるものだ……いやでもよく考えたら、そんな犯罪のデパートみたいな知り合いいねーわ。
「お待たせしました、ロイヤル松うな丼です」
ホイズゥの前に紫服の店員が現れ、漆塗りの大きな蓋付き丼を差し出す。
「あ、ありがとうございます」
神々しい。閉ざされた器から殺気が漂っている。これは本気で戦わないと殺られる。ホイズゥは居住まいを正して両手を合わせ、蓋に手を伸ばす。
「……そしてさようなら」
暗黒微笑で踵を返す店員の去り際の一言をホイズゥは聞き逃さなかった。
「なにッ」
しかし彼の手は、既にロイヤル松うな丼の蓋を開こうとしている。黄金の光が丼の隙間から漏れ、そして……シーッ! 閃光の中より、細長い身体がバネ仕掛けめいて飛び出し、鋭く突き出された! 狙いはホイズゥの喉だ!
「見えたッ!」
ホイズゥの動体視力が危機を察知し、咄嗟に身体の軸線をずらして襲撃を間一髪で躱す! カウンターで突き出した左手が、襲撃者を掴み取った!
「シーッ!」
活きたウナギだ! 凶暴な歯を剥き出し、血に飢えた顔でホイズゥの喉を噛み千切ろうと全身をくねらせる! 身体表面がヌルヌルして掴み辛い!
「成る程どうりでな! 蒲焼きにしては元気過ぎると思ったぜ!」
ホイズゥは悪態交じりに右手を閃かし、懐から黒塗りの折り畳みナイフを取り出しワンハンドオープン! コールドスチールのAK47ナイフだ。武骨なグリップが強固なロック機構で刃を受け止め、活きウナギを切りつける!
「シーッ!?」
強靭な船舶係留ロープをも切り裂く特殊合金のブレードが、活きウナギの丸々太った喉首を一刀両断! ウナギの首が宙を舞い、テーブルに落ちる!
「止めだ!」
残ったウナギ胴体が左手からツルンと転び出て、お盆の上に滑り落ちると粘液を撒き散らした。ホイズゥの右手が、折り畳みナイフを順手から逆手に持ち替え、未だ身動きを続けるウナギの首めがけて振り下ろした。ウナギの脳幹をスコッと刃で貫き、テーブルの天板に突き刺さるまで押し込んだ。
「SHIT……左手がヌルヌルするぜ! 気色悪い!」
ホイズゥはテーブルのお手拭きを取ろうと左手を伸ばす。その時、鰻丼の蓋が跳ね除けられ、隠れていた第二第三の活きウナギ刺客が飛び出した!
「ウワッまだいたのか!」
ホイズゥは咄嗟に左手で喉首を庇いインターセプト! 活きウナギの顎が中華服の袖口に一匹二匹と食いつくも、ホイズゥは手首に力を込めて筋肉でウナギの歯の侵入を拒む! ホイズゥは右手のナイフをテーブルから抜いて逆手のまま立て続けに振るい、ウナギの首を切断! ウナギたちは首と体を切り離されてもなお、強靭な生命力でホイズゥの手首に食らいつき続けた!
「ウワッ、殺したのにまだ離れねえし気持ち悪!」
ヤスリめいた歯が手首を傷つけ、ウナギ毒タンパク質が痛みをもたらす!
「ククク……初撃は何とかやり過ごしたようだな……」
いつの間にか、腕組みして傍らに立ち戦闘を眺めていた紫服の店員たち!
「しかしヤツらは所詮鉄砲玉……」
「これから生み出されるイール闘争に貴様は生き残れるかな?」
「本性を現したな、ウナギ星人めッ! 貴様らの正体はお見通しだぞッ!」
ホイズゥの叫びに応じて、店員たちが一斉に制服を脱ぎ捨てる! そこに立っていたのは、おお……細長い胴体にヌルヌルの粘液を湛え直立しているウナギ星人! ウナギなのに手足が生えている! 何と冒涜的な光景か!
「ウナギ喰らいめ……貴様がこれから戦うのは我々ではない……ッ!」
「なにッ!?」
「ここがどこだか貴様は解っているのか……!?」
「恐れ、そして慄け……!」
「貴様はすでに包囲されている……!」
店内の所々で叫び声が上がった! パーティションで隔てた隣席からも!
「ユ、ユリお嬢様!?」
ウナギ星人たちは粘液交じりの湿った哄笑を上げ、ホイズゥを指差す!
「行けッ、僕たちよ! ウナギ喰らいを殲滅するのだ!」
木材を叩きつけるような踏み切り音の直後、パーティションを蹴り飛ばし人影が躍りかかる! ホイズゥは飛び込み前転で通路に回避! 振り返るとツインドリルを垂らした高飛車女子校生・ユリが、セーラー服で空手を構え臨戦態勢! その口からは、活きウナギがアンテナめいて飛び出していた!
「あわわわわ、どうしようどうしよう……ユリお嬢様が……」
傍らでは黒いエプロンドレスのメイド・チヨコが、両手を口に当て狼狽。
「まさか……!?」
ホイズゥは咄嗟に周囲を振り返る。店内の客と言う客は、ほぼ全て口から活きウナギを吐いて、ウナギ星人のコントロール下に置かれていた。
「ヤバいな……」
目を逸らした次の瞬間、ユリの鋭い空手キックが襲い来る! ホイズゥが咄嗟に左手でガードすると、手首に残っていたウナギ頭が靴で押し潰されて汚い汁が飛んだ。ホイズゥはナイフを順手に持ち替え、ユリの顔から伸びたウナギめがけて突き! ユリは身軽に跳躍してナイフの間合から逃れる!
「おいおい強いな! こいつら全部、正気に戻せってか!?」
「いけません! ユリお嬢様! 正気に戻ってください!」
着地したユリの背後から、チヨコが覚悟を決めた顔で手を伸ばし、ユリの両腕を捉えた! 羽交い絞めにされたユリは虚ろな目で振り返り、チヨコのスカートに蹴りを放つも、チヨコはガッチリ両腕で確保したまま放さない!
「チ、ヨ、コ……」
ユリの口がゴポゴポと泡を吐き、掠れるような声で呟いた。注意が逸れて筋肉が弛緩する瞬間を、見逃すホイズゥではなかった。素早く踏み込む!
「そのまま放すなよ!」
「ユリ! いいえ、グロリア! お嬢様の中のお嬢様になるんでしょう!」
「チ、ヨ、コ……」
ウナギアンテナが身をよじり、背後のチヨコに食らいつこうと危険な顎を開いた時、駆け付けたホイズゥのナイフが一閃! 首を切り落とす!
「間に合えッ!」
ホイズゥの左手が、ユリの口からウナギアンテナの胴体部を引き抜く!
「ゴボッ、ゴバァ、ゲボォォォッ!」
排水溝のように汚い音を撒き散らし、ユリが膝から崩れ落ちる。
「……ハッ!? ウナギを食べていたら急に意識が!? 一体何が!?」
「ユリお嬢様ああああッ!」
「あらあらチヨコ。そんなに慌ててどうしたゲボォゴボォ! オエ……」
抱擁するユリとチヨコに、ホイズゥは思わず目頭が熱くなる。
「全く、いいコンビだぜお前ら!」
ホイズゥはナイフの刃を服の袖で拭い、次の闘いに備えた。
「何だか良く分かりませんけど、世界の危機ですわね! 変身よチヨコ!」
「エッ私もですか」
「当たり前でしょう!」
冷静に問い返すチヨコにユリが食い気味で答えた。
「義を見てせざるは勇無きなり! 力を持つ者が虐げられた弱者を前にして見て見ぬふりするのは、ノブレス・オブリージュに反しますことよ!」
「わーん私もう来週で三十二歳なのに! 魔法少女って年じゃないのに!」
「年なんてどうでもいいのよ! さっさと腹を括って準備なさい!」
ホイズゥが訝しげな顔で振り返ると、ユリが左手を宙に掲げた。
「チェンジ! セット!」
ウサギのデザインがあしらわれた、イカつくもポップな腕時計だ。少女の右手が腕時計のベゼルを半回転させると、文字盤から放たれる超自然の光!
「きええええい! ムーンフェイズ!」
ユリの横で、チヨコも同じ意匠の腕時計を操作した。二人は光に包まれて着衣が弾け飛び、暗色の密着ボディスーツを構成! スーツの上には原色の金属ともセラミックともつかぬ不思議な質感の装甲板が、競泳水着を模した形で胴体に蒸着! グローブ、ブーツ、ヘッドギア! 頭頂部から突き出た二本のウサ耳アンテナ! それは例えるならバニー戦闘スーツである!
「燃える闘魂! ラヂカル・バニーズ、ファイア・リリー! ですわ!」
「ラヂカル・バニーズ、スカンク・リリー……この口上要りますかね……」
「要るに決まってるでしょうッ!」
「何でそんな力強いの……」
女子校生は深紅のバニースーツ姿で傲然と仁王立ち、メイドさんは漆黒のバニースーツ姿で赤面して自分の体を抱く。ホイズゥは呆気に取られた。
「ウワ……何じゃこりゃ……」
「何だと!? ラヂカル・バニーズ!? 貴様ら一体何者だ!」
隠れていたウナギ星人たちが再び現れると、バニースーツ戦士に問うた。
「聞いて驚き見て驚け! 私たち、月の使者ウサギ星人から謎の最先端技術ムーンマテリアルの力を授かりました、言わば魔法少女でございますの!」
「あーもうヤダこんなカッコ恥ずかしい! 早く終わらせましょう!」
「あら、結構似合ってますわよ?」
「やめてええええッ!」
チヨコ改めスカンク・リリーは赤面したまま黒い魔法ステッキを振るって飛び出す。攻撃の延長線上に居たホイズゥは跳躍回避し、拳を振り上げた。
「おい危ねぇだろ! 俺は正気の人間だぞ!」
「ひゃあああごめんなさあああい! でもなるだけ見ないでええええ!」
大人の女性がバニースーツ姿で狼狽える姿を見て、ホイズゥの心に潜んだ嗜虐心が刺激され、何らかの新しい扉を開けそうになるが押し留めた。
「ええい、何をしている我が僕たち! ゆけえ! 敵を押し潰せ!」
変身パートの終わりを見計らったように、敵が一斉攻撃を仕掛ける。
「口から出たウナギを狙え! 分かってると思うが、人間は狙うなよ!」
「あら、随分と簡単に言ってくれますこと!」
ユリ改めファイア・リリーは不敵な笑みで、赤い魔法ステッキを手にして飛び出す! 赤い魔力オーラが充填され、ステッキが炎熱ソードに変化。
「ムーンメイス、ドラゴンクロー! 暴力ですわ! オラァ!」
明らかに堅気のものではない動きで高熱の剣が振るわれ、一般人と思しき会社員男性の口から飛び出すウナギの首を、一太刀で焼き切り切断した。
「食べ物の恨みは恐ろしいですわよ! 蒲焼きにして差し上げますわ!」
ファイア・リリーの片手が、男の口からウナギアンテナを引きずり出すと炎熱ソードで唐竹割り。高熱でブスブスと脂が焼け、黒焦げとなった。
「かくなる上はああああ! オラアアアア、ムーンメイスウウウ!」
スカンク・リリーも黒い魔法ステッキをスイングし、ウサギと月の意匠を組み合わせた殺傷力の高いメイス頭部で、ウナギの頭を的確に叩き潰す。
「ウワ……こっちの魔法少女は肉体派なんだな……正直ちょっと引くわ」
呟くホイズゥに二人の制服OLが駆け寄り、波状のコンビネーション攻撃を仕掛けた。ホイズゥは折り畳みナイフを握り直すと、ウナギを慎重に狙った突き! OLたちはナイフの間合のギリギリ外側で、ホイズゥの腕を取ろうと手足を伸ばす。攻めあぐねる間に一人のOLが側面に回り込んできた!
「ウオッ!?」
お洒落ロングネイルの二本指が迫る! 目突きだ! ホイズゥが反射的にバックステップで躱すと、OLはもう一歩踏み込み五本指の目突きジャブ!
「目ばっか狙ってきやがるな! 殺意が高いぜ!」
開いた左手で目突きを捌くも、OLが手を引っ込める方が早い! その間に側面へ別OLが近寄り掴みを試みる! ホイズゥは右手のナイフを薙ぎ払って牽制し、正面のOLに踏み込んで左拳のジャブ連打! 彼女が下がった瞬間に軸足を払って体勢を崩し、ウナギが上を向いた瞬間に右ナイフの横薙ぎ!
「やったぜ」
ウナギの首が飛び、喜ぶ間もなく側面OLの飛び後ろ回し蹴り。ホイズゥはギリギリ右腕で庇って被害軽減するも、頭に振動が伝わり弾き飛ばされる。
「ギエーッ!?」
折り畳みナイフがどこかへ吹っ飛んだ! 尻餅をつくホイズゥに、休息を与えぬOLの両足パンプス踏みつけ! 咄嗟にホイズゥは、左手に握っていたウナギ胴体を投げつける! 跳び蹴りOLの口から飛び出たウナギアンテナに衝突して視界を遮り、蹴りの軌道がブレる! 床に突き立つOLのパンプスをホイズゥは躱すと、両腕で脚に組み付き関節に力をかけて床へ引き倒した!
「シーッ!」
「悪く思うなよ!」
うつぶせのOLにホイズゥが乗り、マウントの体勢! 振り回される彼女の右手を掴み、腕関節を極める! OLの口から伸びるウナギが潜望鏡のように背後を振り返り、怪しく光る眼がホイズゥを睨む。彼の右手が宙を掴んだ。
「やっべ、そういやナイフ落としてたわ……!」
ホイズゥが舌打ちし、右手で懐を探る。両手の塞がったホイズゥの喉首を食らわんと、大口を開けたウナギがカタパルトじみて全身に力を込めた!
「ゲッサムベイビイイイイーッ!」
その時、黒い魔法ステッキが大上段から振り下ろされ、ウナギ脳髄粉砕!
「……ナイス! お姐さん!」
黒バニー姿のチヨコ……スカンク・リリーだ! ホイズゥがウナギ胴体を引きずり出して掲げ呼びかけると、はにかみながらサムズアップで応える!
「ハァ、ハァ……名誉挽回です!」
そう言って毅然と踵を返す彼女のバニー尻を見送ると、ホイズゥは懐から黒塗りのシースナイフ、エマーソンCQC7を四苦八苦しながら引き抜いた。
「こいつ、引っかかって全然出てこなかったぞ!」
悪態の直後、フロアの向こうから折り畳みナイフが滑って寄越される!
「殿方、それ落とされたんじゃなくて?」
赤バニー姿のユリ……ファイア・リリーが振り上げたおみ足を下ろしつつ優雅に告げると、今度はホイズゥがサムズアップする番だ。
「ありがとよ!」
ホイズゥの礼に、ファイア・リリーは真っ赤なドリルヘアーをファサッと掻き揚げる仕草で応え、駆け寄る二人のウナギ首を炎熱ソードで捌き切る!
「オーッホッホッホホホホ! 温い! 温すぎますわあああ!」
フロア奥、二階へ続く階段から、ズドドドドと大量の足音! 新手だ!
「おいおいおい、とんだ人気店じゃねえか!」
ホイズゥは右の順手でシースナイフ、左の逆手で折り畳みナイフを握ってバネ仕掛けのように上体を起こす。スカンク・リリーがファイア・リリーに目配せすると、黒い魔法ステッキが光に包まれ、暴徒鎮圧ガス銃に変形!
「ムーンメイス! スカンクワークス! ではちょっと失礼!」
ボムンッ! ガス弾が白い尾を曳いて低速で射出され、ウナギに操られた群衆の中央に着弾! 生体の特に粘膜に作用する、催涙ガスが散布された!
「ウワッ、地味に効くデバフ攻撃じゃん!」
ホイズゥが呟くと同時に、群衆の行軍スピードが急減速! ウナギたちは苦しんで身を捩り、新鮮な空気を求めて宙に伸びる! ゾンビめいた行軍!
「エ? つかあそこに突っ込むの? 俺ガスマスク持ってないんだけど?」
「まだまだ戦い足りませんわあああああ!」
「ッシャオラアアアッ! とっとと殲滅スッゾオラアアアッ!」
二の足を踏むホイズゥを余所に、魔法少女と魔法お姐さんが吶喊!
「オーッホホホホホ! カ・イ・カ・ンですわああッ!」
「ゲッサム! ゲッサム! ゲッサアアアアム! アッハハハア!」
唖然と立ち尽くすホイズゥの両側面から、ウナギ操縦された老人と若者が同時攻撃! ホイズゥは左の老人を逆手のスラッシュで瞬時に牽制し、右の若者の飛び蹴りを、蹴りで応じて靴底で止め、ボディブローで弾き飛ばす!
「同時攻撃してくんなや! 一人ずつかかって来いって!」
左の老人が両手の五指を開いて、フェイント交じりに突き出しつつ近づく様子に、逆手突きの牽制を数発入れつつ、右の若者を横目で確認。復帰までもう数十秒かかりそうだ。それを隙と見た老人が、両腕を広げタックル!
「ああもう、年なんだから無茶すんな!」
駆け寄る老人の軸足の着地に蹴りを被せて体勢を崩し、がら空きの脇腹に左拳のフック! 間近で鎌首をもたげるウナギの首を右手ナイフで切断!
「取り敢えず一人!」
直後、イノシシめいた低空タックルで迫る若者を躱して足払い! 派手に転んだ若者が復帰する暇を与えず、背中に馬乗りになりウナギを串刺し!
「二人目! 俺もやるじゃん!」
ホイズゥと魔法少女、魔法お姐さんたちの活躍により、ウナギ操縦暴徒が見る間に無力化されていく! ウナギ星人たちは後退って慄いた!
「ぐぬぬ……!」
「なぜだ……!」
「やはり人間は惰弱、か……!」
「だがしかし、奴らは確実に力を弱めている!」
「些かの誤算はあったが、最後は我々ウナギ星人の勝利だ!」
カウンター奥の厨房から高みの見物を決め込む彼ら、そこに迫る足音!
「スカンク・ワークス!」
ボムン。催涙ガス弾が厨房に投げ込まれ、ウナギ星人たちが蒼褪める!
「「「「グワーッ!? 苦しいッ!?」」」」
彼らの眼前に、切断ウナギ胴体が投げ込まれてビタンビタンと跳ねた。
「次はお前らがこうなる番だ……邪悪なるウナギ星人どもめ」
「あらら~? ひょっとしてもうお仕舞いかしら~? ぷぷぷ、ざ~こ♡」
「何ジロジロ見てんだオラァッ! ラァッ! 変態野郎オラァッ!」
ホイズゥ、ファイア・リリー、そしてスカンク・リリーの三人が、白煙の向こうから悠然と現れ、ウナギ星人の逃げ場を塞ぐように厨房の前に立つ。
「ゲボッ、ゴッホゴッホ、これで勝ったと思うなよ人間……!」
「ムーンメイス、ドラゴンブレス!」
ファイア・リリーの魔法ステッキが光を放ち、携帯型火炎放射器に変形!
「なにッ!」
「生きたまま焼き殺す気か!?」
「お前には人の心が無いのか!?」
ファーッと火炎を吐く姿に恐れを成したウナギ星人たちが、口々に喚く!
「私、まだ蒲焼きを食べてませんの」
ファイア・リリーを前に、スカンク・リリーとホイズゥが目を見合わす。
「どう思います?」
「まぁ、厨房だからいんじゃね? 焼いても」
「死んだウナギだけがいいウナギですわあああ!」
ファーッ! ドラゴンブレスが獄炎じみた水平火炎放射!
「「「「グワーッ!?」」」」
ウナギ星人たちは直立不動で獄炎に焼かれ、黒焦げで崩れ落ちた。
「フフフ……クックク……オーホッホホホ! また勝ってしまいましたわ!」
「さすがです、お嬢様」
「お姐さんも結構頑張ってましたよ」
「アハハ、そうですか」
勝ち誇るファイア・リリーと、はにかむスカンク・リリーの手が腕時計のベゼルを操作し、ゼロ位置に押し戻して変身解除。元の女子高生とメイドの姿に戻った。ホイズゥは溜め息がちに二本のナイフを懐に仕舞う。
「あーえっと……お兄さん、ところで連中は一体何だったんですか?」
「あ、奴らはウナギ星人と言って……何れこの世から殲滅すべき原罪です」
「良く分かんない人たちですね」
「貴方たちにとっては、恐らく取るに足らない敵だと思います」
ホイズゥは彼女らの蛮行を思い出しつつ言った。多分間違ってはいない。
「何はともあれ、折角のお食事が台無しになってしまいましたわ。どこかで口直しをしたいわね。そちらの殿方も、ご一緒したければ結構ですわよ?」
「ウワッ、二次元ではたまに見るけど実際言われたら嫌なやーつ!」
ちょっとイラッとしたホイズゥに、メイドのチヨコが歩み寄って耳打ち。
「あれはお嬢様の照れ隠しで、本当は一緒にお食事したいと誘っています」
「コラ! チヨコ、何を人の気持ちを勝手に代弁しているの!」
「じゃあロイヤルホストの一ポンドステーキとかどうすか」
「奢りで食えそうな雰囲気と見るや、ステーキを勧めるのはあくどいな」
「ロイヤルホストですって? ロイヤルなお嬢様に相応しそうな場所ね?」
「ユリお嬢様、ロイヤルホストはファミリーレストランです」
「構いませんことよぉ! 庶民の暮らしを知るのもお嬢様の務め!」
「それじゃまあ、ロイホでもどこでも行こうじゃない」
「オーッホホホホ! 今日は私の奢りですわ! お父様に感謝するのね!」
「お父様に?」
「まあ、お金出してるのは実質お父上なので……」
談笑しながら、死屍累々のフロアを横切って店を出ようとした時。
「危ねぇ、ガールズ!」
窓の外から突っ込んで来る車を見て、咄嗟にホイズゥが二人の前に出る。
ズコオオオオオオオッ! 漆黒のプリウスミサイルが、店の外壁と窓枠を破壊しながらダイナミック入店! ホイズゥが腰を抜かす間もなく、後から純白のファンシーな装甲車が突っ込み、玉突きでプリウスを押し潰した!
「センパイ!?」
ユリが驚く声。装甲車が光に包まれて消滅し、四人の女子高生が出現!
「いってー。センパイ、もうちょっとちゃんと運転できねんスか?」
ショートカットで長身のスポーツ女子、月ヶ瀬レン。
「イタチ怪人、ちゃんと死んだかしら?」
三つ編みメガネの委員長、北条アヤメ。
「ひゃああああ。もう事故は懲り懲りだよぉ……」
ぽっちゃりで気弱なロングヘアーの下級生、香坂スミレ。
「ゴーメンゴメンみんな。これも世界平和のためだからぁ! なんつって」
ヘラヘラと笑う大人びたスレンダー上級生、楊金花……通称センパイ。
彼女らの眼前で潰れたプリウスが、高出力バッテリーのショートを起こし見る間に白煙が立ち込め、直後に爆発! 車の破片が滅茶苦茶に飛び散る。
「ウワッ! 危ねぇッ!」
思わず顔を両手でガードしたホイズゥは、その向こうで立ち込める粉塵をかき分け、茶色で胴長のモコモコ毛皮を湛えた人型物体を目にして驚く。
「グオオオオッ!」
「ラヂカル・バニーズめ……無茶苦茶しおって!」
「やはりウサギはこの世から殲滅すべし!」
ホイズゥの隣で、天城ユリがニタァ……と邪悪な笑みを浮かべて、悠然と歩み出て女子高生たちの輪の中に加わる。五人の腕には、例の変身腕時計。
「フフフ……一難去ってまた一難……乙女の心の休まる暇もないですわね」
「あれ、ところでユリっぺ、どうしてこんな所に?」
「な、何か気のせいか、お店の中がもう滅茶苦茶な気がするけど……」
「みんな、今は目の前の敵に集中しましょう。危険だわ」
「じゃあまあ、チャチャっと殺っちゃいますか」
金花がニヤケ笑いで両手を組み、ぐっと前に伸ばして骨を鳴らした。
「「「「「チェンジセット! ムーンフェイズ!」」」」」
【魔法少女分遣隊「ラヂカル・バニー」vsウナギ星人vsイタチ怪人】
【続かない……多分】
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