対極の二人
対極と言っても敵対する二人ではありません。
全く違う世界に生きた二人の渡世人、座頭市と木枯らし紋次郎の話です。
2020年、新作の時代劇も作られる事も無く、もはや化石と化する時代劇。
時代劇ファンの私には寂しい限りです。
たまにBSで一話限りのスペシャル版とかやってますが、なんかピンと来ません。と言うのも、時代劇の役者がいないからです。
昨夜は、TV版新・座頭市を放送していましたが、エンディングの10分ほどしか見れませんでした。しかし、10分の間にヤクザを30人ほど切り殺す、勝新さんの切れ味鋭い殺陣を見る事ができだだけでも満足です。
時代劇と言えばやはり殺陣ですね。
殺陣のうまい人いや、うまかった人はたくさんいますが、私の好きなのは座頭市と木枯らし紋次郎です。
座頭市の殺陣は綺麗だとは思いませんが、精密に打ち合わせされた洗練さを感じます。座頭市は刀を扱う者としては珍しい、下手使いですが、座頭市の殺陣シーンは狭くて窮屈な空間での殺陣が多いように感じます。
そして、その狭い空間では下手と言うのがものすごく効果的で、上から振り下ろすのでは邪魔になるところが、下手だと実にスムーズに、そしてコンパクトに刀を振り回せるのです。さらに市の場合、片手で刀を持っているので胸元に刀を引き付け、コンパクトにそして、自らも回転しながら刀を振り回す事ができます。狭い場所での殺陣は市の独壇場と言った感じですね。ヤクザ者を見事に切って行く姿は、見ていて実に気持ち良いです。
方や木枯らし紋次郎ですが、紋次郎の殺陣は、殺陣と言うにはかなり醜い動きです。いや、醜いと言うのはリアルだと言う事で,私は大大好き好きなんです。醜いと言うのはどういう事かと言うと、座頭市や桃太郎侍、暴れん坊将軍のように、打ち合わせたように綺麗に刀を合わすのではなく、相手の刀を避けようと、もう必死。死に物狂いで刀を合わせる。逃げ腰で、倒れ込みながら、仰向けになりながら、川の中を走り廻り、泥だらけになりながら、もがくように刀を合わせて相手を切って行きます。それも一殺ではなく、空振り、切り損ねを繰り返しながら相手を倒すのです。普段の寡黙でクールな紋次郎とは別人のように刀を振り回す。まさに振り回していると言う感じで、ちゃんとした剣の修行などした事のない渡世人と言う感じが良く表れています。実際真剣を握っての切り合いなんてそんな感じなのかも知れません。桃太郎さんのような美しい殺陣なんて返って不自然でリアルさが無いように思えますね。
話がちょっと逸れますが、新選組の隊長の近藤勇。有名な人ですけど、近藤さんは道場での稽古や試合ではからっきし弱かった。でも、真剣での勝負にはめっぽう強かったと言う話があります。強くなるには道場の稽古が大事なのは判りますが、命を掛けた勝負では稽古での強さは宛てにはならないと言う事でしょうね。近藤さんは剣の腕はさほど強くなくても、真剣勝負と言う、命がけの勝負で真価を発揮する、いわゆる度胸が良かったと言う事なのでしょう。
座頭市と木枯らし紋次郎。どちらも誰の世話にもならず、他人との関わり合いを避けて生きる一匹狼の渡世人。生き方は似ていても、剣のタイプは全く違う二人の話でした。
「お前さんがた、あっしを御切りなさるつもりですかぁ・・・そりゃあやめといた方がようごさいますよ。」座頭市
「あっしには関わり合いのねーこって」木枯らし紋次郎
「・・・ねーこってござんす」紋次郎はござんすとは言いません。(笑)