虚しくなる法律
建築の世界は、大きくは計画・設計・施工という分野に分かれますが、どの分野においても、建築基準法がついて回ります。当然ですが、建築に携わる上で、法に明るい事は絶対に有利なわけで、
法第何条 第何項 第何号 の但し書きに明記されている、故に合法なんです。なーんて行政に対して言えた時は、自分は橋下徹か?織田裕二か?なんて思ったりする事が、1年に1回くらいはあるでしょうか。
しかし、この法令が適用されるとコストがかかる、施主に法令で決まっていますから、と説明しても「なんでそんな事しなきゃいけない?」と一蹴されるのは日を見るよりも明らか。何か緩和措置、代替措置は無いか?と苦しむ事の方が圧倒的に多いものです。
悩んだ末に苦労してようやく完成。しばらくして様子を覗いてみると・・
え? 自分は何の為に悩んだのか?法律とは一体何なのか?と空虚な気持ちになる事がしばしばあります。
一昨日、取引先の現場監督から電話で、防火区画についての質問がありました。私の設計した現場の事ではなかったので、
そんなの知らないよ、設計者に聞いてよ、何で自分に質問してくるかなぁ?と無視しても良かったのですが、持ちつ持たれつの関係も大切なので、ベテランなのにこんな事も知らないのか?と思いながら教えてあげました。
そして今日、ホームセンターへ買い物に行った時の事です。
陳列棚の商品を順番に見て行くと、途中で邪魔な鉄製の柱に出くわしました。上を見上げると、その柱はシャッターのガイドレールになっています。
ああ、防火区画の防火シャッターね。昨日の電話で防火区画の件で喋ったばかりだったので、また防火区画か、防火区画つながり、続くね、と思いました。
まあ、専門分野なので、瞬時に防火区画を形成する防火シャッターである事は解ったのですが、暇だったし、どういう具合に防火区画が形成されているか見てみるべーと思い、区画をたどっていくと、なるほどこんな具合の区画ね、と思いきや、ダメダメ区画なのです。区画はちゃんと形成されていますが、全く防火区画の機能を持っていないのです。
どういう事がと言いますと・・・
本来防火シャッターと言う物は、火災報知器が熱、または煙を感知し、自動的に火災報知器の非常ペルが鳴り、同時に防火シャッターも煙の拡散を防ぐために自動的に閉まります。煙(熱)感知連動シャッターと言います。
ですから、シャッターが下りる部分には物を置いてはいけません。物があるとシャッターが閉まり切らず、隙間から煙が流れてしまって、防火区画の意味をなさなくなってしまいます。
ところが、そのホームセンターはこともあろうか、シャッターに対して直角方向に、シャッターの閉鎖を阻むように陳列棚が配置してあるのです。これでは全く防火区画の意味がないのです。
大型店舗なので当然完了検査も受けてるだろうし、平面計画の段階で防火区画の位置と陳列棚が干渉しないように計画されていたはずです。私も完成してから何回も行ってますが、模様替え等でレイアウトを変えた様子もありません。
防火区画については、確認申請の審査段階でもうるさく言われる部分で、実際の現場でも守られている事が多いのですが、今日初めて気が付いて驚きました。
しかし、
防火区画なんて、火災さえ起きなければ無用な物ですし、通報(垂れこみ)でもない限りは現状でもおとがめはないでしょう。でも、万が一火災が発生し、犠牲者でも出すような事があれば、店側の責任は極めて大きいと言えます。
それに、物品販売業を営む店舗は3年毎に1度、定期報告書の提出義務があります。有資格者によって対象項目をチェックし、報告書を提出しているはずですが、もし、現状をマル適(合格)として提出しているとしたら虚偽の報告になります。
それから、消防局に関しては、定期的に立入り検査をしたり、抜打ちで検査に来る事とかもあります。ただし、火災報知設備までが消防の管轄で、連動しているとは言え、シャッターは建築側の設備なので、注意と建築指導課へ伝えて置く、程度で直接のおとがめはありません。縦割り行政と言うか、縄張り厳守意識と言うか、まあそのおかげで助かっている部分も多いのですけどね。
という事で、法を守って設計をし、安全のために作った高額な防火区画であっても、使用者にその意識が無ければ無用の長物です。防火区画と陳列棚の不干渉を考え、効率の良い避難方向とルートを考え、工事コストを考える。そんな設計者の苦労なんて、ハイハーイ皆さん、今日は陳列棚の配置を変えるよ~、と言う店長の一言で実にもろく崩れ去るのです。
トホホです・・・・
余談ですが・・・
以前歌舞伎町かどこかの雑居ビル火災で、防火ドアの前に品物が置いてあり、防火ドアが作動しなかった。という出来事がありました。
普段は壁に埋まるように設置してある鉄製の大きなドアですが、火災の時に火災報知と連動して、閉まるようになっています。ですから、防火ドアの前には荷物など障害物は絶対においてはいけません。それなのに、ああそれなのに、なんと!いつも行く消防局の防火ドアの前に何が入っているか知りませんが、ダンボール箱が山積みされている事がありました。
これは見逃せない、そう思って消防局の予防課の担当者に注意したのですが、担当者は一時的に置いていただけですぐどかすつもりだった、と照れ笑いしながら訳の分からない釈明をしてました。
そんな態度の消防局員に対して、頭に来た私は、
貴様!何笑ってんだよ、消防ともあろう組織がそんな事で良いのか!
と言ってやりたかったのですが、いつも協議と相談している人なので、ああ、そういう事もありますよね~、と気持ちの悪い愛想笑いをして、消防局を後にしました。そんな不甲斐無い自分です。
店側