[TechCrunch Disrupt 2023紹介シリーズ] AI投資からみるAI事業の未来
TechCrunch Disrupt 2023で行われた最も興味深い議論を紹介する本シリーズの第一回目となるこの記事では、サンフランシスコに拠点を置くベンチャー企業であるBenchmarkのジェネラルパートナーMiles Grimshaw 氏とSequoia CapitalのパートナーであるSonya Huang氏、そしてGreylockにてジェネラルパートナーとして活躍するSaam Motamedi氏の3人により繰り広げられた、AI投資に関するディスカッションをご紹介します。OpenAIが300億ドルの市場価値を持ち、Tropicが副次的市場で500億と驚異的な数字を出す中、今回の議論の焦点となった「AI企業は過大評価されている?」や「消費者が果たした役割」、「AIに対する規制」などに対する彼らのスタンスからAIの今後を見ていきましょう。
<AI企業は過大評価されている?>
ディスカッション開始後すぐに出された質問は、OpenAIが300億ドルの資金を調達し、二次市場で25%増加した資金と合計すると、およそ770億ドルを調達しているとなる現在、AI企業は果たして過大に評価されすぎているのかどうかというものでした。Sequoia CapitalのパートナーであるSonya Huang氏は、OpenAIはAI分野の先駆者としての重要性を果たしたことから、必要以上に高い評価はされていないと意見を出したのに対し、GreylockのジェネラルパートナーであるSaam Motamedi氏は、OpenAIの資金調達の特殊な点は金額ではなく、多くの消費者を魅了させたプロダクトが可能にした資金調達の速さであり、今後は耐久性の強いプロダクトを作ることのできなかった多くのソフトウェア企業が利益を失っていくだろうと話しました。
OpenAIに投資をできなかったことを悔やんでいるかと聞かれたBenchmarkのジェネラルパートナーであるMiles Grimshaw 氏は、Benchmarkが取り扱うには規模が既に大きかったことと、OpenAIが当初は非営利組織であったことから視野に置いていなかったと説明しました。これに加え、他のパネリストの意見同様、AI分野でこのレベルの競争が行われ、イノベーションが日々続いていることは市場全体にとって大変有益であり、より高機能なアプリケーション開発に繋がるとのコメントも残しました。
<基盤モデルを超えたエリアでのAI投資の可能性>
Saam Motamedi氏の「多くの消費者を魅了させたことが成功へと繋がった」とのコメントの延長線で、ディスカッションは基盤モデル以外のAI領域でのさまざまな投資機会を探る話しに移りました。AIエリアの投資には、基盤モデルへの投資、インフラストラクチャーへの投資、そしてアプリケーションへの投資の3つの異なるレイヤーがあると説明し、パネリストにはどのエリアでの投資機会が今後大きくなるかという質問が投げられました。Saam Motamedi氏は、 新規参入のチャンスが広がっているという点で、どのレイヤーも貴重な投資となると話し、特にアプリケーションレイヤーにおいては、サイバーセキュリティなどさまざまなドメインでユーザーエクスペリエンスと生産性を向上させる点で高い潜在能力があると意見しました。またインフラストラクチャーのレイヤーに関しては、ディベロッパーにとっては大変有効なものであるが、実際に使用しスケール化するためには沢山のツールを作る必要がある点でスタートアップの参入機会が広いと述べています。
<AIスタートアップにおける戦略的投資家>
多くのAIスタートアップが参入を試みる中、戦略的企業の役割が減少している、重要なのはコンピュテーション機能であり、ベンチャー企業からの助けは必要ないなどの意見が世間で出ていることについても意見を求められました。これに対し、Miles Grimshaw 氏とSonya Huang氏は、共に「戦略的企業やベンチャー企業の役割が変わることはない」と答えています。クラウドビジネスを既に持っている戦略的企業は、基盤モデルがコンピューテーションに膨大な時間を費やすことに気づき、自社のクラウドにおいて独自のコンピューテーションを使用したいと考えているため、これを実現するためには今まで通りのエコシステムの中で、戦略的企業とベンチャー企業がそれぞれの強みを生かす必要があると話しました。中でもMiles Grimshaw 氏は、仮想通貨がテクノロジーばかりにフォーカスし、ビジネスの土台を築くことを怠ってしまったことから招いた失敗を教訓とし、過去と比べよりビジネス構築が重要となっている昨今においては、ベンチャー企業の役割は減少することはないとコメントを残しました。
<コパイロットとしてのAIとビジネスモデル>
次にパネリストは、ベンチャー企業から見るAI事業の戦略の話題に移りました。このトピックでは、ベンチャー企業の役割で強い意見を示したMiles Grimshaw 氏から、AIの成長をビジネスの視点から見ると、AIをコパイロットとして活用するビジネスモデルはスタートアップには不向きであり、大企業には向いているビジネスモデルあるとの話が出され、AIの真の強みはユーザーエクスペリエンスを魔法のように変えることのできるコンピュテーション能力だと話しました。
<AI規制の重要性>
そして最後の質問として出されたのは、規制の面から見て、AI投資に対する不安はあるかというものでした。GreylockのSaam Motamedi氏は、トレーニングをさせるデータセットに関する規制、公平さや品質の高さに関する規制など、より広範囲で使用される前に解決すべき課題は多くあり、このような状態を助けるためのスタートアップが必要だと述べました。またOpenAIのようなシリコンバレー出身のオープンソース・ソフトウェアは、多くのディベロッパーを通してカスタマイズされたソリューションを提供することに貢献しているため、このような状況を阻害する規制は行うべきでないとも話しました。
今回はTechCrunch Disrupt 2023にて行われたディスカッションを通して、AI投資を米国西海岸の投資家がどのよう見ているのかお届けしました。AIが多様なセクターを再構築し続ける中、米国現地のテック業界の様々な意見を日本にも届けるため、今後もTechCrunch Disrupt 2023の情報を発信していきます。次回はイベントの目玉であるStartup Battlefield のファイナルの中身をご紹介するので、フォローを忘れずに!
著者名:ホールドストック絵里花
役職:ビジネスコンサルタント
所属組織:スカイライト・アメリカ(Skylight America Inc.)
略歴:米国で修士を取得後、現地日系企業とAWSでの就労を経て、学生時代にリサーチャーとしてインターンを行っていたSkylight Americaに参画。米国企業と日本企業での過去の勤務経験を活かし、バイリンガルなコンサルタントとして活動。
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