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TechCrunch Disruptが選んだシリコンバレー注目の次世代エネルギーテック

テックの聖地シリコンバレーで毎年開催されるTechCrunch Disrupt では、200以上のスタートアップが最高のアイデアと技術の称号をかけて、Startup Battlefieldで戦います。参加社のラインナップを見るだけでも、シリコンバレーでどのようなトレンドが起きているのか確認することができるこのイベントですが、今回はStartup Battlefieldで準優勝を勝ち取ったエネルギーテック系スタートアップをご紹介します。

<2023年の準優勝社は誰?>

今年の準優勝に輝いたのは、マサチューセッツ工科大学の博士課程の学生Daniel Stack氏とカリフォルニア大学バークレー校の博士課程の学生Joey Kabel氏の2人により立ち上げられたElectrified Thermal Solutionsでした。

Electrified Thermal SolutionsのCEO&Co-founder 出典:TechCrunch

Electrified Thermal Solutionsは、「サーマルバッテリー」と呼ばれるものを開発している2021年に設立されたスタートアップ。サーマルバッテリーは、その名の通り、通常の電池と類似した特徴を持ち合わせており、産業向けにオンデマンド再生可能な熱を提するためのテクノロジーとなっています。昼間は風力タービンや太陽光パネルからのクリーンエネルギーを使用して充電し、十分な光がない、もしくは天候が悪いためにクリーンエネルギーを得られない時には、Electrified Thermal Solutionsのサーマルバッテリーである「ブリック」が代わりに熱を放出します。

Techcrunch Startup Battlefieldの約一年前、 2022年7月20日には初の資金調達ラウンドで450万ドルを確保したことを発表しており、初期段階の気候技術革新に資金を提供するベンチャーキャピタルファームであるClean Energy Venturesと、人類最大の課題と機会にフォーカスをしているベンチャーファームであるStarlight Venturesの共同リードで行われ、Grantham Foundationも参加をしました。Electrified Thermal Solutionsは、この資金を活用して、主力製品であるJoule HiveTMを世界有数の大手産業企業に提供するために、コアチームの拡大と製品開発の加速に力を入れると発表していました。

<プロダクトの何すごい?>

2023年Startup Battlefiled 200でプレゼンを行うElectrified Thermal Solutions 出典:TechCrunch

マサチューセッツ工科大学で7年の開発を経て誕生したプロダクトをもつElectrified Thermal Solutionsは、産業用の熱を電化するために耐火レンガを再発明しています。重工業のエリアでは現在、電力だけでなく熱源においても化石燃料に多く頼ってしまっているのが現実です。特に鋼鉄やセメントなどを製造するために必要な高温の熱を生成するための技術開発は非常に難しく、成功したとしてもコストの高いものとされていました。そのため、多くのインダストリーでは水素が代替案として出されていますが、高温かつ膨大な量を必要とする重工業には不向きな対策案とされていました。

そこでElectrified Thermal Solutionsは、サーマルバッテリーと呼ばれるプロダクトを開発。太陽が輝き、風が吹き、電力が安価なとき、サーマルバッテリーはリチウムイオンバッテリーと同様な仕組みで充電し、太陽が沈んだり風が弱まると、電気ではなく熱エネルギーとしてそのエネルギーを放出するというシステムになっています。多くの使い道が想定されますが、主には鉄鋼工場、ガラス工場、化学工場、セメント工場に向けてマーケティングされています。

このテクノロジを使用して生成される熱のコストは、水素の3倍以上安いと言われていますが、アメリカの一部の地域では、天然ガスから作られる熱よりもまだ高コストとなっています。しかし、テキサスやミッドウェストのように風力と太陽光発電が広く普及しており、卸売り電力価格がしばしばゼロまたはマイナスになる場所では、サーマルバッテリーにより作られた熱源は天然ガスよりも安価となります。

<準優勝社ピッチに対する審査員の反応>

TechCrunchにて編集長を務めるMatt Burns氏の司会により進行されたファイナルピッチでは、下記の6人が審査員として参加をしました。

  1. Mamoon Hamid:ベンチャーキャピタルファームのKleiner Perkinsのマネージングメンバー兼ジェネラルパートナーを務める。

  2. Mar Hershenson:Pear VCの共同創業者兼マネージングパートナー。2021年にはForbesのMidas Listで29位にランクイン。

  3. Charles Hudson:ベンチャーキャピタルファームであるPrecursor Venturesの創設者兼マネージングパートナー。

  4. Marissa Mayer (Sunshine):2012年から2017年までYahooのCEO(最高経営責任者)として務める。

  5. Matthew Panzarino :10年以上にわたりTechCrunchの編集長を務める。以前は、The Next Webでニュースエディターおよびマネージングエディターを務めていました。

  6. Dana Settle :Greycroftの共同設立者およびパートナーであり、過去にはLehman Brothersでアナリストを務めていました。

2023年 Startup Battlefield 200 の審判の方々 出版:TechCrunch

最初に手を挙げたのは、TechCrunchの編集長Matthew Panzarino氏でした。Panzarino氏から、理想の顧客像を聞かれた創業者Daniel Stack氏は、国際的な大規模企業であると答えました。多くの大規模グローバル企業は様々な規制に対処する必要があり、シンプルかつ最安のソリューションを探しているため、Electrified Thermal Solutionsのプロダクトを売り込むのに最適であるようです。

審査員の中でも一番今回のピッチに興味を示していたのは、ニューヨークに拠点を置くベンチャーキャピタル会社の共同設立者であるDana Settle氏でした。他のメソッドと比較して本当に安価なソリューションとなるのか疑心暗鬼なSettle氏に対し、創業者Stack氏は、米国内のどの地域で使用されるかにより安価であるか否かが決まると述べました。風力や太陽光を味方見つけることのできるテキサスや、ウィスコンシンやアイオワなどの中西部など米国の大きな割合を占めるエリアで安価で提供できると説明しています。そのため、風力や太陽光が今後更に普及に比例するようにして提供価格が低くなるとも付け足しました。

過去にYahooのCEOとして務めていたMarissa Mayer氏からは、Electrified Thermal Solutionsのプロダクトであるサーマルバッテリーに使用される「ブリック」に関する質問が投げられました。創業者Stack氏の説明によると、市販もされている耐火レンガを、独自で開発をした「秘密のソース」を使用して電気伝導性を持たせているとのことでした。また熱を生成してから、熱を使用する場所への移動時間に熱を失うことがないよう、二つのポイントを近くさせる必要があるとも述べています。

Electrified Thermal Solutionsのプロダクト 出典:TechCrunch

<クリーンテックの今後>
クリーンテックはTechCrunchイベントでも近年とくに注目が集まっている分野であり、Startup Battlefieldでは過去に75社(米国外イベントも含む)が参加をしているカテゴリーとなっています。特に2022年にクリーンテックのMinerva Lithiumが優勝をし、2023年度も同じカテゴリーからElectrified Thermal Solutionsが準優勝をしたことにより、市場の期待が高まっていることの表れと解釈することもできます。

Electrified Thermal Solutionsは、TechCrunch Startup Battlefieldにて準優勝を取ったのち、各種メディアで取り上げられており、多くの産業でサステナビリティの重要性が叫ばれている中、今後さらに需要が高くなることが予想されます。こちらのブログ「”S” Sense (エッセンス)」では、引き続きシリコンバレーを中心に米国のホットなスタートアップ情報を本場からお届けするので、フォローをお忘れなく!

トップ画像の出典:TechCrunch


著者名:ホールドストック絵里花
役職:ビジネスコンサルタント
所属組織:スカイライト・アメリカ(Skylight America Inc.)
略歴:米国で修士を取得後、現地日系企業とAWSでの就労を経て、学生時代にリサーチャーとしてインターンを行っていたSkylight Americaに参画。米国企業と日本企業での過去の勤務経験を活かし、バイリンガルなコンサルタントとして活動。

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