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シアトルでアマゾンから解雇されるまで〜20代米国現地採用で厳しい現実をサバイバルする物語〜


世界で一番大きな企業で働くリスクとは何でしょうか。

アメリカのテック企業で働く人にとって、前年とは一転し、2023年は石橋を叩くような年となりました。履歴書を提出し、オンラインテストを受け、電話面接を受けて、5人との個別面接(各面接官と1時間ずつ)を経てもらった最終オファーが、日本と比べアメリカでは大して重みのないものであることを多くの人が実感しました。

前回は、シアトルがあるワシントン州の隠れたもう一つの都市、ベルビューを紹介しましたが、今回は、アマゾンの聖地であるシアトルで働くとは、どういうことなのかを2023年を振り返りながらご紹介したいと思います。

一度入る機会のあったアマゾン・スフィアの中 出典:Herald Net

アマゾンの秘密兵器

私が入っていたチームは、Amazonのアマゾンウェブサービス(AWS)人事部の中に配置されており、毎年およそ1万人以上の求人スポットを世界各国に存在するデータセンターやオフィスのために埋めなければならないAWSの専属リクルーティング・チームをサポートために、リクルーティング・コンサルティングチーム(Global Talent Intelligence)のコンサルタントとして働いていました。

自身が所属していたアジアチームの他に、AWSにはヨーロッパ・アフリカチーム、南米チーム、そして一番大きい北米チームがあり、全体でおよそ20〜25人の第二言語を話せる社員が所属、全体を統括するマネージャーは米国小売業界最大手のウォルマートから長い交渉の末に引き抜かれた方でした。

この「Talent Intelligence」チームが行なっている業務は社内でも極秘レベルのものが多く、多岐に渡った業務を日々行っていました。メインの業務としては、

1)ライバル企業であるGoogleやMicrosoft、Salesforceの社員数やチーム構成をモニタリングして優秀な社員を引き抜くための戦略立てを行い、トップに報告。

2)AWSのデータセンター建設候補地に、自社が求めるスキルをもった人材が十分に存在するか、ありとあらゆるデータを駆使して割り出し、人事・ビジネス・採用マネージャーにプレゼンを実施。

3)AWSが若くて優秀な人材を常にキープできるよう、各国の大学の傾向をデータ化し、キャンパスリクルーターが新しい関係を大学と構築できるようサポート。

4)優秀なAWS社員を失わないよう、データや社内外のインタビューを通して会社が始めるべき取り組みや止めるべきことなどの提案プレゼンをビジネスマネージャーのトップにプレゼン。AWS代表の長崎さんにも対面ミーティングでお会いする機会がありました。

5)AWSのリクルーターが埋めるのに苦労しているポジションの条件の見直しや候補者のリストアップ。

優秀な人材を高スピードで採用そして失う大手テック企業には、上記のような業務をこなす隠れたチームが実は存在していたのです。

世界各国にデータセンタを建設するAWS 出典:Data Center Knowledge

シアトル全体が静まった2023年の1月18日の朝

AWSに就職し、慌ただしい一年を終えて初めての冬季長期休暇を終えた後、私の所属していたアジアチームのマネージャー(シンガポール在住の中国人)がミーティングを行わなくなり、Slack上でも非常に静かになりました。今振り返ると、元々マイクロソフトで長年リクルーターとして勤務しており、社内外の多くの人と繋がりを持っていた私のマネージャーは解雇(レイオフ)されることを予測し、既に転職活動を始めていたのだと思います。

2023年1月の1週目に比較的小規模な集団解雇が行われた後、他テック大手企業でも大量解雇が始まり、AWS社内でも徐々に過去最大の大量解雇が噂されるようになりました。AWS人事部外の世界各国の知り合いや、シアトル在住Google勤めのアメリカ人と繋がりがあったため、密な連絡を行っていましたが、誰も業務には集中できず、AWS社内の通常ミーティングの多くがキャンセルされ始めていました。

シアトルのマイクロソフトとアマゾン社員同士でミーム化した映画 出典:IMDb

トム・ハンクスとメグ・ライアンの「Sleepless in Seattle」が現実化したのは、1月18日(水曜日)の太陽がで始めた頃でした。直属のチームメンバーがシンガポールに在住していた私は、時差の関係で先に解雇通知を受け取ったチームメンバーから、17日にお別れのメールを受け取っていました。解雇通知を受け取ると、数時間で会社提供のパソコンやシステムに入れなくなるため、別れの挨拶は簡単で短いものになり、米国の社員も解雇に備えて、万が一のために必要なファイルのダウンロードを行っていました。

世界各国に社員を持つAWSで働き、多くの人が日頃からリモートで世界の裏側と繋がることに慣れている社員は、17日頃から秘密のSlackチームを作り、どの部門がレイオフされているか、どのようなサポートパッケージ(解雇後の金銭的サポートなど)が提供されるのか、ビザで米国勤務している人同士での情報共有、場を和ませるためのmeme(ミーム)やジョークなどが飛び交っていました。

18日の朝2時の時点で私以外のチームメンバーが全員解雇されたことを受けて、非常に心細くなっていた私は、同じくTalent Intelligence コンサルタントとして働いていたアマゾン側の同年代の女性とSlackで繋がり、朝の8時に解雇通知メールを受け取るまで、分単位でメッセージを交わしていました。スタンフォード大学を卒業しアマゾンに就職した優秀な彼女は、私のAWSのチームメンバーが解雇されるまで、自身も解雇される可能性が高いこと知らず、非常に怖がっている様子でした。

バウンスバックできるか

解雇通知メールを受け取る3時間前から、パソコンの整理やレジュメのアップデートを行っていた私は、メールを受け取った瞬間にLinkedInに解雇されたことを知らせる投稿をアップロードし、準備していたレジュメを現地企業や日系リクルーターに大量に送信し始めました。メール通知のみは残酷だと世間から批判を受けやすいため、18日朝11時ごろにAWS人事部からのズーム面談がスケジュールされましたが、頭は既にムーブオンしており、何百人とも会わなければならない人事部の方も私もエモーションレスの5分の面談となりました。

解雇後にはPCとバッジの返却を郵送で行う 出典:Amazon EU

シアトルの大手テック企業の大量解雇の影響で、委託事業を受けていたテック企業や直接関係のないインダストリーまでインパクトを受け始めていたシアトルでは、第二言語を持たないタレントは転職困難者となり、私の知り合いで優秀な同僚も、同レベルのポジションで同額の給料、同エリアでの勤務ができる仕事を探すことに大変苦労していました。

幸いネットワークが強いAWSの社員からで助け励まされ、日英バイリンガル、大学院卒業というレジュメを生かし、AWS時代よりも高い条件のオファーを2月中旬時点で5つの会社から頂くことができました。また、金銭面においても、アマゾンから3月18日まで通常通りの給与額、医療保険、解雇手当ボーナスが提供され、消化できなかった休暇も給与として支払われたため、心配せずに過ごすことができました。シアトルへは2022年12月中旬にテキサス州から引っ越したため、1ヶ月内での解雇は精神的イメージが大きかったですが、転職活動を通して、多くの現地人や日本人とネットワーク作りをする良い機会となりました。

オファー=安定ではないアメリカ


就職後1ヶ月後に2度出張したAWS Japan目黒オフィス  出典:Daijob.com

AWS日本で定期的に一緒に働いていた社員の方から慰めのメッセージをもらうたびに、「日本で採用されていたら、こんなことにならなかったのかな」とふと思うこともありましたが、これがアメリカの現実です。ビジネスを拡大するには労働力を追加するというリスクが必要ですが、ビジネスを縮小する決定も解雇するというリスクが伴います。企業が柔軟に成長できる環境作りと引き換えに、アメリカ企業は社員のロイヤリティに頼れないことをしっているため、会社と社員のダイナミック作りを労力をかけます。こんなところに日本企業と米国企業の大きな違いが生まれる一つのファクターが落ちているのではないでしょうか。

著者名:ホールドストック絵里花
役職:ビジネスコンサルタント
所属組織:スカイライト・アメリカ(Skylight America Inc.)
略歴:米国で修士を取得後、現地日系企業とAWSでの就労を経て、学生時代にリサーチャーとしてインターンを行っていたSkylight Americaに参画。米国企業と日本企業での過去の勤務経験を活かし、バイリンガルなコンサルタントとして活動。

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