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アメリカの新興アウトドア企業Cotopaxi~地元のエコシステムを理解したマーケで成功~

前回の記事「アメリカの隠れたインフルエンサー大国〜ユタ州ソルトレイクシティ〜」では、ユタ州独特のマーケティングスタイルを中心に、州の3大ビジネス「テック」、「アントレプレナーシップ」、「インフルエンシング」を紹介しました。今回は、その中でも「アントレプレナーシップ」にフォーカスを置き、近年で最も成功したと言っても過言ではない地元スタートアップCotopaxi(アウトドアアパレル・ギア企業)が、今では有名大型百貨店に置いてもらえるようになった経緯を含めたマーケ戦略をお見せしたいと思います。CotopaxiのCEO出身大学に通って得た情報も盛り込んでいるので、米国進出を考えているアパレル企業やライフスタイル系ビジネスの参考に必ずなるとお約束します。


米国アウトドア業界の基本情報

ユタ州のアウトドア企業Cotopaxi(コトパクシ)に話をうつす前に、まず米国全体での傾向をお話したいと思います。アウトドアアパレル市場の規模は、2022年に157億米ドルと評価され、2023年から2032年の間に年平均成長率(CAGR)が5.5%以上に達すると予測されています。また近年では、ハイキングから都市型ウェアに至るまで、さまざまな活動や環境にシームレスに移行できる多機能アウトドア衣料の需要が増加しているというトレンドがあります。

アウトドア・ギアやビジネスといっても様々な切り方があるとは思いますが、アメリカのアウトドア商品販売店には、一般的にColumbia Sportswear Company(オレゴン州ポートランド)やREI(ワシントン州ケント)、YETI Holdings, Inc.(テキサス州オースティン)、Patagonia(カリフォルニア州ベンチュラ)、Backcountry(ユタ州パークシティ)などが挙げられます。このように並べてみると、やはりアウトドア業界は明らかにMountain States及び西海岸で強いことが分かります。新興アウトドア・ギアやアパレルのブランド会社でもこの傾向は強く、豊かな自然の風景、山岳地帯、国立公園、アウトドアレクリエーションで知られるMountain States及び西海岸の州で多くのスタートアップが生まれる傾向があります。


メジャーな米国アウトドアブランドの本社マップ
シアトルにあるREIのフラグシップ・ストア   出典:REI

ゴールドラッシュの中で誕生したCotopaxi

マーケット全体を見ても決して参入が簡単な市場でないにも関わらず、時代と地理的特徴を生かして成功をしたアウトドア商品企業Cotopaxiのバックグラウンドを紹介したいと思います。

Cotopaxiは、持続可能な素材を使用し、社会的責任を重視した製品を提供するアウトドア用品のブランドとして知られており、バックパックや衣類、アクセサリーなど、さまざまな高品質のアウトドア・アイテムを製造しています。また、Cotopaxiは社会的影響を重視し、利益の一部を貧困層の支援や教育プログラムに寄付するなど、社会貢献活動にも力を入れています。

カーボン・ニュートラル企業に認定されているCotopaxi 出典:Cotopaxi

2014年に設立されたCotopaxiのFounderデービス・スミス氏の経歴を見ると、自身の人生経験を通してどのようにビジネスモデルを作ったのかが見えてきます。デイビス・スミスはユタ州で生まれましたが、4歳の時にモルモン教徒である父の仕事のためドミニカ共和国に移住しました。その際に目の当たりにした極度の貧困地がその後のビジネスモラルに影響を与えた話しています。BYU(ブリガムヤング)大学時代、スミス氏は貧困を軽減を目標とする起業家に触発され、さまざまなキャリアパスを探求しました。2003年に卒業した後、従兄弟と一緒にオンラインでビリヤード台を販売するビジネスを始め、すぐに利益を上げましたが、人生の目的とビジネスの在り方に違和感を感じ、ハーバード・ビジネススクールに入学しました。

ビジネススクール在学中、スミス氏はブラジルでのベビー用品のeコマース小売業にも成功しましたが、ビジネスを離れ更なる探求を行った後、社会的影響と持続可能性に焦点を当てたCotopaxi(エクアドルの火山にちなんで名付けられた)を設立。初めは1人だった会社も、今では300人の従業員を持ち、売り上げ1億ドルを生み出す会社までに成長しています。

Cotopaxiのブランド要素

Cotopaxiの会社の特徴として、現代のトレンドを掴んで1つ、もしかすると2つ上を行ったブランドのコンセプトを作り上げたというところがあります。以下はCotopaxiが競合者との差を作るためにコアに置いている6つの要素になります。

  1. サステナビリティと倫理への取り組み:持続可能な素材の使用と厳格な倫理基準の遵守に力を入れています。これには、公正な労働慣行の確保と環境への影響の最小化が含まれます。Cotopaxiは2010年代後半から出現し始めたCertified B Corporationの一社として登録されており、「B Impact Score」と呼ばれるスコアも毎年自社の最高値を記録し続けています。

  2. 「Gear for Good」哲学: 「Gear for Good」というモットーの下、機能的で耐久性のある製品を提供し、世界にポジティブな影響を与えることに専念。

  3. 社会的影響イニシアチブ: 利益の一部を様々な社会問題に捧げることにより、貧困の軽減やコミュニティ開発の支援などに注力しています。

  4. カラフルでユニークな製品デザイン: Cotopaxiの製品は、その鮮やかな色とユニークなデザインで知られており、アウトドアギア店舗でも消費者の目が勝手に行ってしまいます。

  5. Cotopaxi基金: 自社の基金を通じて、非営利パートナーに助成金や寄付を行っており、これらは人間の状況を改善することに焦点を当てています。

  6. 製品の終生保証: 高品質な製品に対する自信を示し、顧客満足と持続可能な実践を促進。

このように、社会参加やサステナビリティを数値化することで、向上し続けることへの決意を表明し、グリーンウォッシングを見透かすことのできるようになった若者人口のサポートをエンジンに、年上の世代にも魅力を発信していったことが分かります。

Cotopaxiのマーケ戦略

ブランドのコンセプトを出したところで、「そんなの普通に沢山あるのでは?」と思った方もいらっしゃるかもしれません。ここからは、ユタ州に在住し、CEOの通った大学を卒業したからこそ見えたマーケ戦略4つをご紹介します。

BYU大学のキャンパスストアで売られているCotopaxi商品           出典:BYU Store
  1. 無料の歩く宣伝の大量生産:Cotopaxiは、自社の目玉商品である目につく色のバックパックに学校や会社のロゴを入れれるようにし、街中を歩く学生やサラリーマンを自社の広告塔にしました。また会社設立後の数年間は、購入ごとに会社のステッカーを無料で配布し、「グラノーラ・ガール」の好きなステンレス水筒に貼ってもらうことにも成功しました。このようにして、自社のプロダクトの特徴と一番最初に食いつく顧客セグメントの特徴を理解し、ローコストのアドバタイズメントを短期間で作ることに成功したのです。

  2. 経済情勢に影響されにくい仕組みを確立:パンデミック中、多くのアウトドア企業がサプライチェーンによる材料の調達に苦戦しました。Cotopaxiは、会社の初期成長期にパンデミックが起きたにも関わらず、リサイクルされた需要の低い材料を使っていたため、他社のようにサプライチェーンからの影響を直接受けることがありませんでした。ユタ州では、自然がたくさんあるため、隔離中の州民がお金をつぎ込むのに最適であったこともあり、この期間に競合アウトドア製品会社と差をつけることができました。それだけでなく、パンデミックが終わると、即座にトラベル系のラインナップを増やし、既にロイヤリティの高いリピーターに「全部揃えたい欲」を出してもらい、追加の購入してもらうというサイクルも作ることにも成功しました。

  3. 信念を貫き通す:このお話はCEO自身から直接聞いたものなので、ウェブ上には残っていない情報になりますが、Cotopaxiが波に乗り始めた頃、米国大手の若者アパレルブランドであるUrban Outfittersからコラボ・ラインナップのオファーを頂いたそうです。Urban Outfittersからオファーをもらうというのは、米国アパレル界では最高で最大のチャンスだったにも関わらず、また成長初期段階で売り上げ増加が非常に重要な時期であったにも関わらず、自社の「サステナビリティ」と「社会への貢献」というコアの部分を貫き通すためにオファーを断りました。

  4. 供給の大きいリソースを存分に使う:前回の記事でも紹介をしたように、ユタ州にはライフスタイル系のコンテンツを作り出すことのできるタレントが多くいます。Cotopaxiは、そのような環境に小さな頃から影響されて育った地元の学生をインターンとして雇い、イマドキな写真撮の影やSNSコンテンツの運用を安く行うことができました。また、モルモン教会で育った若者のコミュニティ作りの上手さを最大限に活用し、24時間のアドベンチャーレース「Questival」も継続的に開催したりすることで、会社設立当初でバジェットが少ない中でもベストなヒューマンキャピタルを得ることができたのです。

2019年に実施されたQuestivalの様子   出典:Salt Lake Magazine

今回は、その土地のエコシステムや地元民の特徴を理解して、ローコストで最大の効果・リターンを得る方法をCotopaxiを例に出して紹介をしましたが、このようなトピックで気になるものがありましたら、是非コメントにて受け付けたいと思います。次回の「Silicon Slopes Summit」にフォーカスをした記事もお楽しみに。

トップ画像 出典:Business Insider

著者名:ホールドストック絵里花
役職:ビジネスコンサルタント
所属組織:スカイライト・アメリカ(Skylight America Inc.)
略歴:米国で修士を取得後、現地日系企業とAWSでの就労を経て、学生時代にリサーチャーとしてインターンを行っていたSkylight Americaに参画。米国企業と日本企業での過去の勤務経験を活かし、バイリンガルなコンサルタントとして活動。
    

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