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Photo by
voice_watanabe
コンビニ
自衛隊における新隊員としての一年間は、外への憧れが強かった。休みの日や夜は、残留と呼ばれる営内待機が多かったし、外出許可を得て駐屯地から出たとしても、遅刻が怖くてどこか落ち着かなかった。遅れれば、一月の外出禁止である。何よりも恐ろしいものだった。
また、食べ物の好き嫌いが多かった私は、営内の食堂で出される食事に楽しみが見いだせなかった。今でこそ、なんでも食べるようになっているが、若かった当時はとにかく脂っこいものが食べたくて仕方ないのであるが、私のいた駐屯地では、どういうわけか、肉類が少なかったのである。PXにあるカップラーメンをロッカーに買いだめし、腹を空かせた同期と融通しあって生活していたのは、おそらく誰もが通る道だったのだろう。最上階の部屋から、ちょうど真下の同期の部屋に、カップラーメンを落として渡す以外、頭を使えばいいものを、班長に見つからない方法といえば、それくらいしか思いつかなかったのであった。
配属された駐屯地の場所が、幸い町のそばにあったから、自転車で外出していく先に、コンビニやファストフード店があった。そこの空気の自由さといったらない。様々な商品があり、雑誌が置かれ、音楽が流れている。普段の生活にはないものが煌びやかな店内に並んでいる。入隊する前には当たり前に見てきたことが、急にそういった世界と距離をとったものだから、たまに外出してくると、別の国に住んでいるのかと思うほどだった。
きっと、隊員として長く居れば、そんな感覚は失せていっただろう。私は一年間で職を辞したから、あの日々の不自由さと、退職して営門を抜けた後の不安さ、急に感じた背負うもののない肩の軽さは、時々顔を覗かせて、私を呆然とさせるのである。
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