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『ポテトサラダ』

Tさんには長年付き合った彼女がいた。結局、家柄の違いやらで泣く泣く別れて5年ほど経った頃の事。

会社帰りの、自宅最寄りの駅。「反対側のホームに、彼女そっくりな人を見掛けたんです」

一瞬声を掛けようかとも思ったが、咄嗟には上手く声が出なかった。そうこうするうちに反対側のホームに電車が来て、その女の人は見えなくなってしまった。

「彼女は地元で銀行マンと結婚したって聞いていたし。こんな所にいるはずがないって思って」

先の見えない自分の将来と残業続きで疲れた身体が、幻覚を見させたのかもしれない。そう思いながら、Tさんはいつものようにスーパーで半額になった惣菜を物色していた。

「普段は弁当買って終わりなんですが、その日はポテトサラダが目に入って」

半額でもないのにTさんは買い物かごに入れた。交際中、彼女が良く作ってくれたのがポテトサラダだったから。

「家に帰って、ぼんやりテレビのニュース見ながら食べてたんです、ポテトサラダ」

食べている途中、喉に何かが引っ掛かる感じがしてTさんは嘔吐(えず)いた。

右手の親指と人差し指を口の中に入れ探ると、何かが指先に当たった。それをゆっくり引っ張ると、口から長い黒髪が現れた。

80センチを超える長い髪の毛。

直感的にTさんは別れた彼女のものだと思ったそうだ。


「それから一月後ぐらいですかね。彼女が死んだって聞いたのは」

詳しいことはカンベンしてください、そう言ってTさんは鼻を啜った。


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