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テクニカル分析との上手な付き合い方 〜テクニカル分析で消耗しないためには〜

 今回のnoteは、テクニカル分析をどのように使えばトレードで勝てるかという観点に加えて、どうしたらトレードで負けないか、もしくはどうしたらトレードで精神を無駄に消耗しないかという観点でも役に立てて頂けるかと思います。
 難易度は、初級から中級に足を突っ込み始めたくらいのレベルを想定しています。

 テクニカル分析を勉強したらトレードで勝てるようになったという人も多いと思いますが、以下のような人も結構いるのではないかと思います。

テクニカル分析を少し勉強したら上手くいってお金が増えた
 ↓
しばらくは順調だったのに急にダメになってお金が減ってしまった
 ↓
勉強が足りないと思って有料の教材なんかも買ってもっと頑張って勉強してみた
 ↓
一瞬うまく行ってめっちゃお金が増えた。
 ↓
と思ったけど、うまく行ったのは一瞬で結局は増えたお金を溶かしてしまった。
 ↓
勉強が足りないからもっと勉強しなきゃ。でも結構勉強してるはずなのに。。。
 ↓
テクニカル分析でお金増やしてる人がいるんだから、やっぱり勉強不足だな。
 ↓
もう少し高い教材買ったり、有料サロン入ったりしなきゃだな!!

 私も以前はこのような状況(高額教材や有料サロンまでは行きませんでしたが)にハマっていました。テクニカル分析でこのような状況になって消耗してしまっている場合、もっと勉強しなければと考えてしまうことが多いと思いますが、もっと勉強したところでおそらく勝てるようにはなりません

  私は基本的には価格チャートに線を引かないタイプです。それは超絶に難易度が高くて私のような凡人にはライントレードで継続的に利益を出すのは難しいと思っているからです。

 それらしい線を引くのはそんなに難しくはないと思っているのですが、引いた線がサポートやレジスタンスとして効いたなと思うことがあまりありません。自分に線を引くセンスが無いのが一番の理由なのですが、私と同じように感じている人も結構多いのではと思います。

 では、どうしてライントレードは難しいのか、さらにはテクニカル分析を駆使しても継続的に利益を出すのが難しいのは何故なのかを、統計学的な視点に立って切り込んでみたいと思います。

 実は、テクニカル分析には全般的にちょっと厄介なクセがあると私は思っているのですが、そのクセの性質を理解していないことがうまくいかない一番の原因だと考えています。テクニカル分析を駆使してお金をたくさん増やしている人は、おそらくこのクセの性質をよく理解していて、テクニカル分析と上手く付き合っているのだと思っています。

 このnoteでは、ライントレードの難しさについて触れながら、そのテクニカル分析の厄介なクセに向き合い、そのクセを攻略するヒントについて説明していこうと思います。

 以下のような方々にもお勧めです。

・テクニカル分析をそこそこ勉強してみたがコツコツドカンになってしまう。
・テクニカル分析で少しは利益を出しているが、もう少し利益を出したい。

・正直どうしてテクニカル分析が効くのかよくわからずに売買指標としている。

 今回は、テクニカル分析と上手く付き合っている(と私が勝手に思っている)人の一人、壇上さん(@lasthopelonger)にも全体の内容をレビューして頂きました。内容を充実させるために貴重なご意見を頂き大変感謝しております。

 このnoteに書かれてあることが、テクニカル分析と付き合うためのコツを掴むきっかけになればと願っています。

  ※本noteの内容に関する注意事項
 予告なく内容をアップデートすることがあります。
 正確性に十分な注意を払って執筆しましたが、厳密な正確性を犠牲にして分かりやすく表現することを優先している部分や、筆者の経験や考察に基づいた私見も含まれるため、不十分な内容や不正確な内容が含まれている可能性は否定できません。
 本noteの内容だけでトレードで必ず勝てるようになることを保証するものではありません。その点をあらかじめご了承頂けますよう、宜しくお願いいたします。
 反響が良ければ、内容を追加したり更新していきたいと思いますので、もし本noteを気に入って頂けましたら、いいねやRTなどして頂けますと幸いです。

ライントレードが難しい理由

 まず、細かい話に入る前に下記の価格チャートを見てください。

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 少し古いデータですが、この価格チャートは2021年5月11日00:00〜5月13日11:59の2.5日分のBTCUSD(Binance Futures)1分足の終値をグラフにプロットしたものです。横軸一目盛りが12時間になります。

 トレンドラインを引くのは苦手なので、おそらく上手い人から見たらツッコミどころ満載だと思いますが、ご容赦ください。まあ、なんとか及第点で引けてるかと思いますが、いかがでしょうか。

 最初の下落チャンネルを上にブレークした後に上昇トレンドに転換。その後、上昇トレンドを下にブレークして再度下落トレンド入りか、もしくはサポートラインで耐えてレンジ相場入りかなという局面です。

はい、これ全部ウソです!!

 すみません、ちょっと嫌らしい導入だったかもしれませんが、ライントレードに対して持っているイメージを一度壊して頂きたかったので、ちょっと嫌らしい導入にしました。お許しください🙇‍♂️

 では、この価格チャートは何かというと、何でもありません。エクセルのRAND関数で発生させた乱数で作った人工チャートです。

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 RAND関数は0〜1の数値を一定の割合で発生させる乱数発生関数です。発生した乱数は下記のような連続一様分布になっていて、正規分布にもなっていないので統計学的に有意な傾向が出ることもありません。

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 このように統計学的にもほとんど意味を持たないデータを使って作ったランダムなチャートにも、見た目ではそれらしいトレンドラインが引けてしまいます。

効くトレンドラインと効かないトレンドライン
 つまり、これは何を意味しているかと言うと、意味のあるトレンドラインと意味の無いトレンドラインを見た目だけで判断するのは非常に難しいと言うことです。(上のランダムチャートを見抜けた人はライントレードのセンスがあると思います)

 これがまさにライントレードが難しい理由だと考えています。また、OHLC(始高安終の四本値)データに基づいて作られているテクニカル系のインジケーターも同様の理由で、意味のあるシグナルと意味のないシグナルを見分けるのは難しいと考えられます。このような理由で、ライントレードに限らずテクニカル分析だけに頼るトレードは非常に難しいというのが私の意見です。

 念のために明確にしておきますが、テクニカル分析は意味がないと言っているのではなく、ボリンジャーバンドの2σを超えたから買いだ!とか、中長期移動平均線がデッドクロスしたから売りだ!とか、そのような単純な考え方でテクニカル分析を使ってもトレードに勝つのは非常に難しいということを言いたいです。テクニカル分析との付き合い方には気をつける必要があるのではないかでしょうか?というのが私の言いたいことになります。

 それでは、テクニカル分析とどのように付き合えば良いのかを、次の章以降で考えていきたいと思います。

 なお、このnoteを書く際に、簡易的な検証のために使ったエクセルシートを有料記事部分でダウンロードできるようにしていますので、パラメータを変えたりして遊んでいただくと、感覚的にも理解を深めることができると思います。

マーケットの価格変動メカニズム

 テクニカル分析とどのように付き合えば良いのかを考える前に、マーケットの価格変動のメカニズムと、テクニカル分析の仕組みについて、基本的なことを改めて整理してみたいと思います。

 ビットコインなどのマーケットの価格が変動する要因には様々な要因があるため、そのメカニズムについて詳細かつ正確な分析をするのは非常に難しいと考えられます。

 単純に考えれば、買いたい人と売りたい人がいて、買いたい価格と売りたい価格が一致すれば売買が成立してマーケット価格が確定します。例えば、ここでビットコインを買いたい人がいたとして、現在価格よりもう少し安い価格で買いたいなと気が変わってしまい、買いたい価格が下がったとします。もし、その下がった価格で売りたい人が現れれば、売買が成立してその価格がマーケット価格となり、価格が変動(この場合は価格が下落)します。

 これがマーケット価格が変動する仕組みです。価格チャートに張り付いているとマーケットの価格変動に何らかの規則性があるように錯覚してしまうことがあるかもしれませんが、多くのトレーダーの売買行動の変化によって価格が変動していることを忘れてはいけません。

・ランダムウォーク理論

 相場変動のメカニズムについて考えるときに、まず初めに理解しておく必要があると言っていいくらい重要なのがランダムウォーク理論です。

 (特にマーケットが成熟した)相場の変動はブラウン運動に従うという考え方です。ブラウン運動というのは、液体や気体中を浮遊する微粒子が、不規則に運動する現象のことを言います。例えば、タバコの煙が部屋に広がっていく状況を思い浮かべるとイメージしやすいと思います。

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 ミクロで考えるとタバコの煙は目に見えないくらい小さな微粒子の集まりですが、この煙の微粒子の一つ一つが空気中の無数の分子(酸素や窒素など)に不規則にぶつかりあいながら空気中に広がっていきます。(下記の黒い粒が空気中の分子で、黄色いボールが煙の微粒子と考えて頂くとイメージしやすいと思います)

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 双方ともに天文学的な数の微粒子と分子のぶつかりあいですので、微粒子ひとつひとつがどのように動くかを正確に予測することはほぼ不可能です。また、煙がどのように形を変えながら空気中を広がっていくのかも、たとえ風のない室内であったとしても正確に予測するのはほとんど不可能です。

 マーケットの価格変動も同様で、無数のトレーダーが様々な時間軸で目的も異なるバラバラの売買行動を行なっており、一つ一つの売買行動(注文から約定)を追っていくことはほぼ不可能です。煙の広がりを予測するのと同様に、マーケット価格がどのように変動していくのかを正確に予測することが非常に難しいということも容易に想像ができると思います。

 このように、ランダムウォークというその名前からもなんとなく想像がつくと思いますが、ざっくり簡単に言ってしまうと「相場は予測のできない不規則な変動をする」という考え方がランダムウォーク理論になります。

 ただ、このランダムウォーク理論にはいくつかの前提条件があります。実際のマーケットではこれらの前提条件が完全に満たされないこともあって、常にランダムウォーク理論に従っているわけでないということも考慮する必要があります。

・カオス理論

 次に重要なのがカオス理論です。カオスというと混沌としている様子や、ごじゃごじゃしているような状況を思い浮かべると思いますが、カオス理論はそのイメージとは少し違います。
 カオス理論は「周期性のない不規則な変動をする力学的で複雑な運動や現象を扱う理論」のことを指します。ちょっと何を言っているかわかりませんね笑。少し噛み砕いて説明するとすれば「ほんの僅かな違いが最終的には全く違う結果になってしまうような現象を扱う理論」と考えて頂くともう少しイメージしやすいかと思います。

 例えば、天気予報を例にして考えてみるとイメージしやすいと思います。下のグラフは気象庁が公表している天気予報の的中率の推移を示したものです。翌日の予報に比べて3日〜7日後の予報の的中率が低くなっていることがわかります。(とても興味深いことに、IT技術が劇的に進歩したであろう1995年〜2010年の約15年間でも的中率は若干良くなっている程度です。)

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  ↑出典:Newton別冊『統計と確率 改訂版』P61

 これは、天気予報の仕組みとカオス理論で説明がつきます。天気予報は、現在の気象状態を予報モデルにインプットしてシミュレーションを走らせ、将来の気象状態を計算することで実現しています。このように、現在の気象状態から例えば1時間後の気象状態を計算で予測することができます。同じようにして、その1時間後の気象状態から更に1時間後の気象状態が計算できます。このような方法で、1日後の天気予報、3日後の天気予報、一週間後の天気予報を実現しています。

 このように将来の状態を予測するということは、あるインプット条件に基づいて計算した結果を、さらに次の計算のインプット条件にして計算するということを繰り返すことで実現しています。そこで、もし最初のインプットに何らかの誤りや誤差が含まれていると、計算を繰り返していくことでその誤りや誤差が増幅されていきます。そうすると、数回の計算であればそのような誤りや誤差は無視できるかもしれませんが、数百回、数千回、数万回というように回数を重ねて計算をしていくと誤りや誤差は無視できないほど大きくなってしまいます。

 最初の誤差のように小さな違いが、処理を繰り返していくうちに増幅されて、無視できないほど大きな差になってしまうというのが、まさにカオス理論が示している現象です。この増幅されていくメカニズムは一般的に複雑なため、どのように増幅されていくのかを理論的に解明することは難しく、最終的な状態を予測することはほぼ不可能です。

 天気予報と同じような理由で、マーケットの価格変動はトレーダーの売買行動の僅かな違いで、大きな価格変動につながるとも考えられています。このようにマーケットの価格変動について分析する上で、カオス理論はランダムウォーク理論に並んで非常に重要な考え方になることが理解頂けると思います。

ランダムウォーク理論とカオス理論に関する参考文献
 マーケットの価格変動を分析・予測するためには、確率論や統計学の基礎と、ランダムウォーク理論とカオス理論について理解することが必要です。もう少し深掘りして勉強してみたい方のために良さそうな文献を紹介します。

・テクニカル分析は統計学がベースになっています。統計学に関して基本的な知識を手っ取り早く身につけたい方におすすめの1冊です。 

・ランダムウォーク理論やカオス理論についてもう少し詳しく理解したい方におすすめの2冊です。

マーケットはランダムウォークなのか?

 マーケットの価格変動はランダムウォークなのか、そうではないのかという議論がかなり以前からありますが、これは未だに意見が分かれている難しい問題です。ですので、私が自分なりに検証して考えた個人的な見解に基づいて、進めて行きたいと思います。

 私自身は、マーケット価格の変動はランダムウォーク的な挙動と、トレンドのような何らかの傾向を持つ挙動が混在していると考えています。

 何故、そのように考えるのか。統計学的なアプローチで考えてみるとイメージしやすいと思います。まずは統計学の基本となる正規分布について、そしてマーケットの価格変動について考察する際に重要なべき分布について概要を説明したいと思います。

・正規分布

 多くの自然現象は正規分布に従うと考えられています。例えば身長や体重の分布は正規分布になると言われています。正規分布は下記のような山型をした分布をしています。

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 正規分布は、多数の確率変数による分布が重なることで正規分布になると考えられています。数学的には中心極限定理により証明されます。興味のある方は調べていただくと理解が深まると思いますが、数学が苦手の方のために簡単に解説します。

 わかりやすい例としては、サイコロを何回も振った場合です。1つのサイコロを1000回振った場合に出た目の数をカウントすると下記のような分布になります。

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 理論的にはどの目も出る確率は同じなので、平均するとどの目も167回(=1000÷6)ずつくらいの分布(連続一様分布)になっています。

 では、2個のサイコロを振って出た目を足すというのを1000回繰り返したらどうなるでしょうか。その結果をヒストグラムにすると下記のような分布になります。

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 サイコロ1個の時とは違って山型の分布になりました。

 では、サイコロを3個、5個、10個と増やしていくとどうなるでしょうか。

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 このようにサイコロの数を増やしていくと、だんだん綺麗な山型になっていき正規分布に収束していきます。

 つまり、正規分布は多数の確率分布が重ね合わさってできていることになります。もし正規分布で表すことができる現象があれば、それは様々な分布を持つ現象が多数集まった結果として生じている現象であると考えることができます。これが中心極限定理が証明しようとしている現象です。

 様々な確率分布をもつ現象が多数集まるとどうして上図のような正規分布に収束していくのか、何となくキツネにつままれた感じがするかもしれませんが、以下のイラストを見て頂くとさらにイメージしやすいと思います。

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  ↑出典:Newton別冊『統計と確率 改訂版』P18-19

 このようにパチンコ玉がピンに当たって色々なルートを通って最後は仕切られた箱に落ちて行く現象を考えると、色々な確率の事象を何回も重ねると最終的には正規分布のような山型の分布に分かれていくというイメージがつきやすいと思います。

自然現象が正規分布に従うのは何故か?
 例えば、人間の身長の分布は正規分布に従うと言われていますが、身長に差が出るのは、遺伝、栄養摂取状況、運動状況、睡眠時間、ストレス、健康状態、姿勢、気象条件(日照時間、気温、湿度)等々、数えきれない多くの要因によるものだと考えられます。つまり、このような多数の要因の確率の分布が重なった結果が人間の身長の分布になっていると考えれば、その分布が正規分布になっていることをイメージしやすいと思います。

マーケットの価格変動も正規分布に従うのか?
 ビットコイン等のマーケットの価格変動についても同様の考え方ができそうです。様々な要因によるトレーダーの無数の売買行動によってマーケット価格が変動していることを考えると、基本的にはマーケットの価格変動も正規分布に従うのではと予想できそうです。しかし、実は単純に正規分布に従うという簡単なものではないとも考えられていて、その点については後にもう少し詳しく触れたいと思います。

・べき分布

 べき分布は、正規分布と比べてあまり聞かない分布かもしれません。ただ、意外にも身近な現象の多くがべき分布に従った挙動をしていると考えられています。下記のような形の分布をしています。

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 ロングテールという言葉を聞いたことがあると思いますが、これはべき分布がベースとなっている考え方です。頻度が非常に少ない事象が幅広く起こるという現象を示す分布です。

 べき分布の特徴は、いわゆるロングテールの部分(上図の黄色の部分)の頻度は全体の5%程度ですが、ロングテールの部分の数値を足し合わせた数が全体の数値を足し合わせた数の大部分を占めるところにあります。

 ちょっと言葉で説明するのが難しいのですが、例えばガラスのコップが割れた時の例を考えるとわかりやすいです。ほとんどの破片が砂つぶみたいに細かく砕けてしまっているので、破片の大きさが上位5%くらいの破片を集めるだけで元のガラスのコップをほぼ再現できてしまいます。

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 このような大きな衝撃が加えられて不可逆的な変化を起こすような現象は、べき分布に従うことが多いと言われています。

 例えば、べき分布に従った挙動をすると考えられる身近な現象には以下のようなものがあります。

自然現象
 地震の大きさと発生頻度
 ガラスが割れた時の破片の大きさの分布
 山火事の延焼面積と発生頻度
経済現象
 株価・為替・仮想通貨などの市場価格の変動
 所得・純資産の分布
社会現象
 ウェブサイトのアクセス数分布
 論文の数と引用された回数の関係
 書籍の売上部数の分布

 このように意外にも、身近な現象の多くがべき分布に従った挙動をしていると考えられています。

 マーケットの価格変動についても、べき分布に従う部分があると言われています。例えば、日足レベルで考えれば、ブラックマンデーやリーマンショック、コロナショックなど、大きなインパクトによって(短中期的に)不可逆的な規模や勢いで価格変動が生じることがあると考えると、イメージがつきやすいと思います。

 下記のローソクチャートは、2020年3月のコロナショック前後のBTCUSD相場(日足チャート)ですが、通常時には有り得ないような値幅で下落している(黄色丸部分)のが分かります。

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正規分布とべき分布の違い
 下記のように、正規分布とべき分布を重ねてみるとその違いがわかりやすいと思います。正規分布とべき分布はいずれも同じような山型をしていますが、べき分布の方が少し尖っていて(赤丸部分)、裾野の部分が長くなっている(青丸部分)のがわかります。

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 これは何を意味しているかというと、べき分布に従っている現象の方がバラツキが小さいのですが、規模が極端に大きいまたは極端に小さい事象の起こる確率が正規分布のように無視できないことを示しています。 

 テクニカル分析に忠実に従ってトレードをするとコツコツドカンのようになることが多いように感じるというのは、まさにこれが原因です。

マーケットは正規分布に従うのか?

 正規分布とべき分布についてだいぶ理解が深まったと思いますので、マーケットの価格変動は、どのような分布になっているのかを改めて考えてみたいと思います。

 下のグラフはBTCUSD(1時間足、2021/05/07-07/22)の暴落率をヒストグラムにしたものです。山型の形をした意外と綺麗な分布になっています。

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 では、これは正規分布になっているのでしょうか。わかりやすいように正規分布の形を重ねてみます。

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 このように重ねてみると正規分布とは少し違った形になっているのがわかります。「正規分布とべき分布の違い」の項でも触れましたが、暴落率のヒストグラムの方が尖っていて、裾野の部分で時々小さな柱が立っているのがわかります。

 これは一見、綺麗な山型の分布をしているので正規分布のようにも見えなくもないのですが、分布の一部は正規分布とはかけ離れた形をしており、べき分布に従って価格が変動している性質もあることがわかります。

 特に裾野の部分で時々立っている小さな柱は無視できません。例えば、暴落率4.2%の価格変動は、正規分布に従っていれば約1,800回中で約0.0003回程度しか発生しませんが、実際は2回も発生しています。これは、暴落率が正規分布に従って発生していると思って何らかの売買インジケーターを作ろうとする時に大きな問題を引き起こします。
 正規分布に従っていれば、このような暴落率の価格変動が起こる確率は約0.000016%(約616万回に1回)でほぼ起こり得ませんので、このような大きな変動は起こらないものとしてインジケーターを作ってもほとんど問題ありません。
 しかし、実際には約0.11%の確率(約1,800回に2回)で発生しています。これは、1時間足で考えれば約1ヶ月に1回も起こる頻度です。さらに、暴落率±3%以上の変動で考えれば、おおよそ1日1回以上の割合で発生することになります。
 テクニカル分析の結果に基づいて忠実にトレードをするとコツコツドカンでやられてしまうことが多いように感じるのは、まさにこれが原因です。

マーケットは正規分布に従う時とべき分布に従うときがある
 繰り返しになりますが、マーケットの価格は、多くのトレーダーの様々な売買行動が集まった結果として変動すると考えられます。そのように考えると、マーケットの価格変動はランダムウォーク理論に従うとも考えられます。

 一方で、マーケットの価格変動メカニズムは非常に複雑であるため、価格変動のトリガーとなる要因が僅かに違っているだけで、その違いが増幅されて大きな結果の違いを生じさせてしまいます。このようなカオス理論的なマーケットの性質が時に大きな価格変動を生じさせます。
 このような大きな変動が発生した時には、多くのトレーダーがこの動きについて行こうとして売買が一方向に集中しやすくなります。トレーダーの売買行動が一方向に偏ることで、マーケットの価格変動がランダムウォーク理論から逸脱するような歪んだ挙動になることがあります。
 実際のマーケットでこのような事象が起きていることが、暴落率のロングテールの部分で柱が立っている理由と考えられます。

 なお、このような大きな価格変動は、カオス理論によって特段の理由もなく引き起こされることもありますが、一時的なファンダメンタル(要人発言など)がトリガーとなって発生するケースもあることを留意する必要があります。

 このように考えると、BTCUSDの暴落率が正確な正規分布でなく、ランダムウォーク的な挙動(正規分布)と、何らかのトレンドが生じているような挙動(べき分布のロングテール部分)が混在しているような分布となっていることにもある程度納得できると思います。  

 ここからは、テクニカル分析のクセについてさらに深掘りして、そのクセを活かしてトレードをするには、どのように考えれば良いのかについて触れていきたいと思います。

テクニカル分析はどうして期待を裏切るのか?

 ここまで、マーケットの価格変動は、正規分布とべき分布の両方の性質を持っているだろうという考え方について整理してきました。また、同様にランダムウォーク的な挙動とランダムウォークではない明確なトレンドを形成するような挙動をする時が混在しているだろうことも整理してきました。

 一方で、現在の金融工学はマーケットの価格変動が正規分布に従った挙動であることを前提に理論が組み立てられています。金融工学の考え方をベースにしたテクニカル分析も、相場が正規分布に従った挙動をすることが前提となっています。

 従って、テクニカル分析は相場が正規分布に沿った挙動をしている時には有効と考えられますが、相場がべき分布に沿った(正規分布から外れた)挙動をしている時にはテクニカル分析はそのままでは通用しないと考えるのが合理的です。

 テクニカル指標の意味をあまり深く考えないで、売買シグナルが出た時は上昇しやすいとか、もしくは下落しやすいというようなシンプルな考え方でトレードをしていうという方も結構多いのではないかと思います。

 テクニカル分析のみに頼ったトレードをしていると、なぜかコツコツドカンになることが多いと思いますが、その理由はまさにこれです。つまり、正規分布に沿った挙動をしている時はコツコツで利益が出ますが、相場がべき分布に沿った(正規分布から外れた)挙動をし始めると、正規分布では想定されない大きな値動きによりドカンと大きな損失が出てしまうというわけです。 

 それでは、次の章では、コツコツドカンにならないように、もう少し具体的にどのようにすれば良いのかについて考えていきたいと思います。

 毎度恐れ入りますが、今回のnoteも妻や子供にブーブー言われながらも、結構丁寧に書き上げたということもありまして、これ以降は有料記事とさせてください🙇‍♂️
 もし、ここまで読んでいただいて少しでもお役にたてているようでしたら、10文字あたり約1円の投げ銭と思って購入していただけると大変ありがたいです。妻と子供の機嫌を取るために使わせて頂きたいと思います。笑

■ 有料記事の目次 ■
テクニカル分析とどのように付き合えば良いか
 ・テクニカル分析が効く時と効かない時
 ・正規分布に従う相場とべき分布に従う相場を見分ける
 ・テクニカル分析とうまく付き合っていくためのポイント
・移動平均線
  ・移動平均線とは
  ・移動平均線によるトレードの優位性
  ・移動平均線との付き合い方(案)
・ボリンジャーバンド
  ・ボリンジャーバンドとは
  ・ボリンジャーバンドは逆張りと順張りどちらに向いているか
  ・ボリンジャーバンドとの付き合い方(案)
・MACD

  ・MACDとは
  ・MACDによるトレードの優位性
  ・MACDとの付き合い方(案)
まとめ
参考資料
 ・このnoteで検証に使った計算シート(エクエルファイル・ダウンロード)
 ・bybit BTCUSDチャートの過去データ(エクセルファイル・ダウンロード)
 ・参考文献
 ・参考note


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