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Markdownに詳しい方への補足:本連載におけるem要素とstrong要素の扱い

(この記事は形式上有料ノート(投げ銭)としていますが、内容はすべて無料でお読みいただけます。やや主観的な記事のため投げ銭は特に不要です。)

以下は、すでにMarkdownやマークアップ記法に詳しい方への補足です。興味のある方のみお読みください。

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本連載ではMarkdown記法の説明において、「テキスト」によるマークアップを「太字にする」と称しています。

実際には、多くのMarkdown処理系において、これはHTMLのstrong要素「<strong>テキスト</strong>」に対応します。
そのため、HTMLに詳しい方からは「これは太字と呼ぶべきでない」というご指摘があろうかと思われます。

MarkdownとHTMLの対応は、多くのMarkdown処理系では次のような対応となっています。

- Markdown「*テキスト*」→HTMLのem要素「<em>テキスト</em>」
- Markdown「**テキスト**」→HTMLのstrong要素「<strong>テキスト</strong>」

(ただし、段落や他の要素の有無によって、その解釈は厳密には違います。具体的には babelmark III にてご確認ください)

MDNにおけるem要素とstrong要素の説明

MDNによれば、em要素については次のような説明があります。

HTML <em> 要素は、強調されたテキストを示します。
 (中略)
通常、この要素は斜体で表示されます。しかしながら、単に斜体のスタイルを適用するために用いるべきではなく、そのような目的のためには <i> 要素あるいは CSS のスタイリングを使用してください。
 (中略)
<em> タグはその内容物を強調することを表す一方、<i> タグはセマンティックな意味を表さずに映画や書籍の名称、外国語、あるいは用語の定義を参照する語句といったテキストを通常の文から抜き出すことを意味します。

em 要素 - HTML | MDN

一方、strong要素については次の説明があります。

HTML <strong> 要素は重要なテキストを表します。ほとんどのブラウザーのデフォルトスタイルでは、太字で描画するように指定されています。
(中略)
HTML5 では strong 要素は「重要」、em 要素は「強調」を表すよう、セマンティクスが明確に分離されています。Emphasis は文の意味合いを変えるために使用される ("I *love* carrots" と "I love *carrots*") のに対して、Strong は文の一部分に重要性を与えるために使用されます (例: "**Warning!** This is **very dangerous**.")

strong 要素 - HTML | MDN

(また、HTML Standard 日本語訳 4.5 テキストレベルセマンティックスにてより詳細な説明と具体例があります)

つまり、HTMLにおけるem要素のセマンティクスは「強調」であり、strong要素のセマンティクスは「重要性」とされます。

私の理解では、前者は「文脈上で意味合いを変えたい語」「声や読み上げにおける強いアクセントを与えたい語」に、後者は「警告のように見逃してはならない語」に使うものだと思っています。(これに関しては、私の理解が不足しているので補足いただければ幸いです)

たとえば、日本語の例文「私はプリンを食べました。」を考えましょう。

- 誰がプリンを食べたか分からないときに、「私」を強調したいとき
    - 「<em>私は</em>プリンを食べました」
    - 自然な日本語では「<em>私が</em>プリンを食べました」のほうがベター
- 私が何を食べたかが論点になっているときに、「プリン」を強調したいとき
    - 「私は<em>プリン</em>を食べました」
- 某○ot PepperのCM風に「た・べ・ま・し・た!」と強調したいとき
    - 「私はプリンを<em>食べました</em>」
- プリンを食べたかどうかで喧嘩になっているときに、喧嘩を終わらせる決定的な証言をしたいとき(重要性)
    - 「<strong>私はプリンを食べました</strong>」

問題

本連載における目標の1つは、「内容とスタイルの分離」という概念を読者に理解してもらうことです。
この記事をご覧になっている方の興味も、まさにこの「内容とスタイルの分離」にあろうかと思います。

しかしながら、本連載における最終目標は「用途・方言・処理系が多様なMarkdownを、読者(ユーザ)が各々の用途で実践的に利用できること」としています。

この2つの目標の間で、いくつかの問題点が発生します。

- 問題1: あるMarkdown記法に対して、HTML処理系がデフォルトで規定するセマンティクスと、日本語組版におけるセマンティクスが食い違う
- 問題2: Markdownで原稿を書く任意の筆者自身が、マークアップに対して適切なスタイルを定義することは事実上難しい

問題1については、特にem要素で問題となります。

多くのHTML処理系(ブラウザ)では、em要素はデフォルトで斜体としてレンダリングされます。
しかし、伝統的な日本語組版では、そもそもかな漢字に斜体を使うことはありません。(注)
出版においては「明朝体に対するゴシック体の使用」「ウェイトの変更(いわゆる太字)」「圏点」「傍線」などで強調を表現することが多いと思われます。

(注)2018/04/09追記。「いわゆる」伝統的な和文組版としておきます。「伝統的」が何を指すかは曖昧であり、少なくとも近代の文化であるためです。また私のこの記述は「一般的な和文フォントには斜め文字が用意されていない」(引用『デジタルテキスト編集必携』(翔泳社)p.68)という意味で書きました。写植機では光学的に斜め文字を組むことも可能なため、「斜体が和文組版で一切使われない(使われるべきでない)」というのは言い過ぎでした。

また、スクリーンリーダーにおける実装においては、そもそもem要素とstrong要素を区別できない場合が多いようです。

参考: アクセシビリティ・サポーテッド(AS)情報:H49-1

問題2は、本連載における想定読者のレベルを配慮した「妥協」です。

この想定読者は次のとおりです。

- ブログの運営者(WYSIWYGエディタを使用)
- テキスト中心の執筆をする人(小説家・ライターなど)
- メールやMS Officeのごく基本的な機能のみが使えるビジネスパーソン
- MS Wordによって論文が書ける人文系・社会科学系の学生・研究者

このような読者に対して、次のように仮定するのが妥当だと思われます。

- CSS
    - 自力で書けない
    - 豊富なスクリーンショットを用いてコピペを指示すれば、なんとか設定はできる
- MS Word
    - 見た目上の装飾機能は知っている
    - スタイル機能は知らない

このような仮定で、たとえば「日本語組版として適切になるようなCSSを設定してください」と指示したい場合を考えます。

1つの処理系であれば(たとえば「はてなブログにCSSを設定する」)、スクリーンショットを丁寧に撮って説明すれば、
ブログの運営者向けはおそらく理解ができると思われます。

しかし、本連載で扱うMarkdownの用途は特に決めていません。
「用途・方言・処理系が多様なMarkdownを、読者(ユーザ)が各々の用途で実践的に利用できること」が、本連載の最終目標です。

したがって「処理系のセマンティクスがおかしいので読者各自で修正してください」という指示を、多種多様な処理系に対して書くことは現実的でないでしょう。
(たとえば書籍版の付録として、セマンティクスを正しくするためのCSSコード例を付けることは可能でしょう。それも「いちいち設定方法は説明しない」というスタンスになるかと思われます)

なにより、あくまでもMarkdownは「シンプルに使う」「気軽に書く」ための道具だと思います。このような詳細な議論を読者に完全に理解してもらうことは、私は望みません。
この議論を読者に提示できるタイミングは、Markdownの基礎を十分に理解できた後(つまり本連載の内容をひととおり理解できた後)でも遅くないと思います。

本連載における「強調」「太字」の方針

結論として、本連載では次のような方針をとります。

- 「**テキスト**」(HTMLのstrong要素に対応)を「太字にする」という意味で紹介する
- 「*テキスト*」(HTMLのem要素に対応)は原則として(少なくとも初期段階では)取り上げない

理由は次のとおりです。

- 日本語を用いた日常的・事務的な用途で、「太字は重要性を意味する」と暗黙に仮定しても問題ないと思われる
    - 「強調(em要素)」と「重要性(strong要素)」を区別する必要性は少なく、多くの場面では「重要性」のみが提示できればよい
    - 単純なMarkdownのみで(HTMLを使わず)、スタイルのみでセマンティクスのない「太字(b要素)」を表現することはかえって困難である
- スクリーンリーダーで文章を読ませる場合を考慮しても、マークアップ上の視覚的な太字がstrong要素のセマンティクスと矛盾することはあまりないと思われる
- 多くの処理系(ブラウザ)のデフォルトでは、em要素は斜体としてレンダリングされる。しかし伝統的な日本語組版で、かな漢字に対して斜体を使うことはない
- 「内容とスタイルの分離」原則については、これから紹介するMarkdown記法に制限を加えれば、実用上十分に達成できると思われる

なお、本連載は小説や人文系論文を書く人も対象とするので、文学表現・専門的表現として文字装飾を行うためのマークアップを紹介する場合もあります。
特に欧文を書く用途について、em要素を紹介するかもしれません。

最後に

以上のことに異論・反論はあると思われます。コメント欄またはTwitter (@sky_y)にて受け付けます。

(ただし、複雑な議論になる場合は、ブログ等で意見を整理した上でリンクをお送りください)

(藤原 惟)

※ 以上で終わりです。これより下にテキストなどはありません。

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