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比べず、とらわれず、生きる

本書は禅の教えを解説したもので、過去や未来にとらわれず「今」を精一杯生きることの大切さを説いています。不安や悩みは心の産物であり、執着を手放し、他者と比較せず、ありのままの自分を肯定することで、心の平穏と幸福を得られると主張しています。

すべては自分の心から現れている

「すべては自分の心から現れている」という考え方は、禅の教えの「一切唯心造」という禅語に由来するものです。 この禅語は、この世に起こるすべての出来事や現象は、自分の心の在り方によって作り出されていることを意味しています。

著者は、私たちは生きていく中で様々な不安や心配事を抱えるものですが、それらはまだ起こってもいない未来に対する心の反応であり、実体のないものであると指摘しています。そして、「今」という時間に集中し、目の前のことに一生懸命に取り組むことによって、不安や心配事に心を乱されることなく、穏やかな心を保つことができると説いています。

誰も、何も、もってはいない

「誰も、何も、もってはいない」という言葉は、禅の教えの「本来無一物」という禅語をわかりやすく表現したものです。 この禅語は、人はこの世に生まれるときには何も持たず、死んでいくときも何も持っていくことはできないという真理を説いています。 私たちは、生きていく中で様々なものを手に入れますが、それらはすべて一時的なものであり、永遠に自分のものになるわけではありません。

著者は、人は一度手に入れたものを手放したくないという執着心を持つようになり、その結果、物を失うことへの不安や恐怖にさいなまれるようになると指摘しています。 そして、物への執着を捨てることによって、心は自由になり、真の豊かさを得ることができると説いています。

「本来無一物」の考え方は、物質的なものだけでなく、地位や名誉、人間関係など、あらゆるものに対して当てはまります。 私たちは、これらのものに執着することで、かえって心を束縛され、苦しみを生み出すことになります。

人は言葉によってつながっている

愛語とは、愛情のこもった言葉遣いのこと。優しい言葉をかけることによって、人との関係はより温かく、深いものになっていくと著者は述べています。

笑顔で「おはよう」と挨拶を交わすという単純な行為が、その日一日を良い日に変え、人間関係を円滑にする力を持っています。また、感謝の気持ちを伝える「ありがとう」という言葉は、魔法の言葉です。「ありがとう」という言葉は、相手への感謝の気持ちを表すだけでなく、自分自身の心も温かくしてくれる力を持っています。

一方、言葉は使い方を誤ると、相手を傷つけ、関係を壊してしまう危険性も孕んでいます。

「和顔愛語」優しい言葉で人に接することで、私たちは言葉の持つ力を最大限に活かし、より良い人間関係を築き、温かい社会を創造していくことができます。

人生の道のりは、同じことの繰り返し

この書では、「安閑無事」という禅語を引用し、変わらぬ日常の中にこそ、真の幸せが宿っていると説いています。

安閑無事:安らかで平穏な状態。 心配事なく、静かに暮らすことができる日々。

著者は、毎日同じような出来事が繰り返される日常を「褻(け)」と表現し、特別な日である「晴れ」と対比させています。

私たちは、どうしても「晴れ」のような刺激的な日々を求めがちですが、人生の大半は「褻」のような、淡々とした日常の積み重ねで成り立っています。しかし、著者は、「褻」「ほんわかとした幸せ」 が存在すると指摘しています。

  • 毎日同じような食事を作るにしても、昨日より今日の方が上手に作れるように工夫する。

  • 掃除や洗濯も、昨日より今日の方が綺麗になるように心がける。

このように、「同じことの繰り返し」の中に「成長」を見出し、「昨日より今日の方が少しでも良い自分になる」という意識を持つことで、日常は輝きを増し、心の充実感へと繋がっていくのです。

心の強さとは、苦しみに背を向けないこと

人生には逆境がつきものであり、放っておいて逃れられるような苦しみがあるとすれば、それは、ほんとうの苦しみとは言えない。逃れようのない苦しみに襲われたときには、立ち向かっていくしか方法はないのです。

●悲しみに打ちひしがれるときには、涙が枯れるまで泣くこと
●苦難に直面したときには、逃げずに立ち向かうこと。

そして、その過程で「生かされていることへの感謝」や「心の成長」を実感することが、心の強さに繋がるのです。

「悲しみを紛らわすことなどしなくてもいい。無理をして元気に振る舞う必要などありません。ただただ悲しみを受け止めて、思う存分涙を流してほしい。我を忘れるように泣きわめくこと。これもまた悲しみに立ち向かう術なのです。深い悲しみが癒えることなどありません。生きている限り涙が枯れることなどない。それでも、悲しみの海を漂ただよっていれば、必ず掴つかまるものが見つかる。悲しみに沈んでしまわないように、心を支えてくれる何かが見つかる。心の強さが、形を変えてその人の前に現われるものだと私は信じています。」

最後に

本書は、禅の教えを通して、現代社会に生きる人々が直面する様々な悩みや不安に、どのように向き合っていくべきかを具体的に示しています。

  • 他人との比較や物質への執着から心を解放し、自分自身を見つめ直し、今を大切に生きること。

  • 人間関係においては、言葉の大切さ、多面的な視点、先入観を捨てること、素直な自己表現を強調しています。

  • また、日常の繰り返しの中に幸せを見出し、苦しみや悲しみからも学び、成長の糧としていくこと。

これらの教えは、時代を超えて普遍的な価値を持ち、現代社会を生きる私たちにとっても、多くの示唆を与えてくれるものです。


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