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ERROR FREE 世界のトップ企業がこぞって採用したMIT博士のミスを減らす秘訣
本書は、30年以上にわたるヒューマンエラー研究に基づき、エラーフリー思考とエラーフリー・メソッドを紹介する実践的な入門書です。ヒューマンエラーの3タイプ(知識型、規則型、スキル型)を分析し、単一脆弱点の概念を用いて、個人や企業における成功と失敗の要因を解説しています。 歴史上の事例や企業の失敗例を豊富に挙げ、エラーフリー思考を日常生活や企業経営に適用することで、幸せと成功を導く方法を提示しています。
エラーフリー思考
著者である邱強氏は、MITの専門家チームと共に30年以上にわたりヒューマンエラーと設備の不具合について研究を行い、その結果として「エラーフリー思考」という独自のメソッドを開発しました。
この思考法は、エラーを積極的に防ぐべきものとして捉えることを強調しています。 エラーフリー思考には、以下の4つの重要な命題があります。
人間は誰でもエラーを犯す可能性がある。
すべてのエラーは防ぐことができる。
エラーにはさまざまな発生源と形式があり、それに応じた解決策がある。
組織の全員が、エラーフリーで仕事を進める方法と、エラーフリーの社内システムを構築する方法を知る必要がある。
エラーの種類
知識型エラー
意思決定における誤り。以下5つのマインドセットが原因となる。
妄信 : 権威者や情報源を無条件に信じ、その真偽を検証しないため、誤った情報に基づいて意思決定をしてしまう。
うぬぼれ : 自分の能力を過信し、準備不足のまま困難な課題に挑むため、失敗する可能性が高くなる。
自分の無知を自覚していない: 自分に必要な知識が不足していることに気づかず、新たな知識の習得を怠るため、適切な判断ができなくなる。
過去への執着 : 過去の経験や成功体験にとらわれ、変化する状況に対応できないため、時代遅れの考え方や方法に固執してしまう。
二者択一の決定モデル: 選択肢を2つに限定し、その中から「好き嫌い」で選んでしまうため、最適な選択肢を見逃す可能性が高くなる。
知識型エラーを防止するためには、以下の方法が有効です。
情報チェックセンターの設置: 意思決定に影響を与える可能性のある情報について、そのソースや信憑性をチェックする専門チームを設ける。
エラー検証センターの設置: 過去の意思決定を検証し、エラーの原因を分析するチームを設ける。
知識探求システムの構築: 従業員が必要な知識を容易に得られるような仕組みを作る。 たとえば、社内データベースの構築、専門家へのアクセス手段の提供、研修制度の充実などが考えられます。
多様な意見を積極的に取り入れる: 異なる背景や考え方を持つ人材をチームに集め、活発な議論を促進する。
意思決定プロセスを標準化する: 意思決定を行う際に、考慮すべき項目や手順を明確に定義し、チェックリストなどを活用することで、見落としや誤りを防ぐ。
仮説を検証する: 意思決定を行う前に、その前提となる仮説が正しいかどうかを検証する。 データ分析、市場調査、専門家への意見聴取などを行う。
規則型エラー
規則型エラーは、明確に定義された標準作業手順(標準作業フロー)が存在するにもかかわらず、従業員がその手順を守らないために起こるエラーです。 企業の業績は、標準作業フローに対する違反率と密接に関係しており、優れた標準作業フローを備え、規則違反率の低い企業が業績が良いという相関が見られます。
規則型エラーを効果的に防止するためには、以下の3つのポイントが重要です。
人間の能力に見合った標準作業フローを作成する: 複雑すぎる手順や、曖昧な表現を含む手順は、従業員の負担を増やし、規則違反を誘発する可能性があります。 注意力の限界を考慮し、誰もが理解しやすく、実行しやすい手順を作成することが重要です。
従業員が規則を破る理由を理解する: 規則違反には、意図的な違反と意図しない違反の2種類があります。 意図的な違反は、罰則の強化やルールの見直しによって抑止できますが、意図しない違反は、システムや仕組みの改善によって解決する必要があります。
規則違反の誘惑を減らし、規則遵守の文化を醸成する: 誘惑の多い環境では、規則違反が発生しやすくなります。 規則遵守を促進するような企業文化を築き、従業員の意識改革を促すことが重要です。
スキル型エラー
スキル型エラーは、知識やルールは理解しているものの、不注意や集中力の欠如によって起こるエラーです。このタイプのエラーは、他の2つのエラータイプ(知識型エラー、規則型エラー)に比べて発生率は低いですが、重大な事故や損害を引き起こす可能性があります。
スキル型エラーは、人間の注意力の限界と密接に関係しています。 人間の注意力は限られており、一度に処理できる情報量やタスクの数には限りがあります。 注意力が分散したり、疲労したりすると、ミスを起こしやすくなります。
スキル型エラーを防ぐためには、人間の注意力の限界を理解し、注意力を維持・回復するための対策を講じることが重要です。
標準作業フローの改善: 人間の注意力の限界を考慮した、シンプルで分かりやすい手順を作成する。
作業環境の改善: 疲労やストレスを軽減するための、適切な照明、温度、湿度、騒音レベルなどを整える。
休憩時間の確保: 定期的な休憩時間を設定し、疲労回復を促す。
作業時間管理: 長時間労働を避け、過度の集中力を要する作業時間を制限する。
チェック体制の強化: ダブルチェックや相互確認など、ミスを防ぐためのチェック体制を導入する。
単一脆弱点
単一脆弱点とは
1つの箇所が故障すると、システム全体が機能しなくなる、あるいは重大な損害を引き起こす可能性のあるポイントです。
単一脆弱点という概念は、最初に機械設計の分野で登場しました。機械の設計においては、脆弱性を補うためのバックアップ策を準備します。たとえば、蓄電部品であるコンデンサーを設備に組み込めば、バッテリーが切れても回復するまでのあいだ、設備を稼働させることができます。バッテリーはこの設備における脆弱点なので、コンデンサーという保護システムを別途設置するのです。
単一脆弱点の例:
米中貿易戦争で米国から制裁対象とされたファーウェイ:ファーウェイのスマートフォンとタブレット端末に搭載されていたOSはすべてアンドロイドシステムだったが、これが彼らの最大の単一脆弱点で、案の定、自主開発したOSの消費者テストが終わる前にアンドロイドシステムを搭載できなくなるという事態に陥った。そのため同社はスマートフォンとタブレットの出荷停止という危機に直面した。CEOの任じん正せい非ひが直ちに独自のOSの開発を急がせなんとか事なきを得たからよかったようなものの、危ない状況に陥りかけた。
福島第一原子力発電所事故: 巨大津波により、防潮堤を越える海水が発電所に浸水し、電源喪失が発生しました。津波に対する備えの不十分さが単一脆弱点となり、深刻な事故に繋がりました。
単一脆弱点の見極め方
単一脆弱点の定義は簡単ですが、実際にどこに単一脆弱点があるのかを見極めるのは容易ではありません。一般的には3つの方法で単一脆弱点を見つけることができます。
仮説の検証: ある仮説が正しいと仮定した場合、それが覆されるような状況や条件を洗い出し、その対策を検討することで、単一脆弱点を見つけることができる。
歴史の分析: 過去の失敗事例から、どのような単一脆弱点が原因で問題が発生したのかを分析し、自社のシステムに同様の脆弱点がないかを確認します。
他社の成功事例の分析: 成功企業の戦略やシステムを分析し、彼らがどのように単一脆弱点を回避しているのかを学び、自社に適用できる対策を検討する。
単一脆弱点への対策
単一脆弱点への対策として、以下の2つの方法が考えられます。
単一脆弱点の解消: 根本的な解決策として、単一脆弱点そのものを取り除く、あるいは複数のシステムを導入することで、1つのシステムが故障しても他のシステムで機能を代替できるようにする。
保護層の設計: 単一脆弱点の解消が難しい場合、エラーが発生した場合の影響を最小限に抑えるための、ハードウェアやソフトウェアによる保護層を設計する。 例えば、警告システム、バックアップシステム、フェールセーフ機構などが考えられる。
エラーフリーを実現するための方法
エラーフリーを実現するためには、個人レベルと組織レベルの両面からのアプローチが必要です。
個人レベルでのエラーフリー実現
エラーフリー思考を身につけるためには、まず自分がどのような状況でエラーを犯しやすくなるのかを理解する必要があります。
そしてエラーを誘発するマインドセットに陥らないよう、自己分析を行い、客観的な視点を持つように心がけることが重要です。
また、常に新しい知識や情報を吸収し、過去の経験にとらわれずに柔軟な思考を養うことも大切です。
組織レベルでのエラーフリー実現
標準作業フローの確立と遵守: 業務プロセスを標準化し、誰もが同じ手順で作業できるようにすることで、規則型エラーを減らすことができる。
単一脆弱点の発見と保護層の設計: 組織全体のシステムやプロセスにおける単一脆弱点を洗い出し、適切な保護層を設計することで、重大なエラーのリスクを軽減することができる。
従業員のパフォーマンスについての根本原因分析: エラーが発生した場合、その根本原因を徹底的に分析し、再発防止策を講じることで、同様のエラーの発生を防ぐことができる。
組織とフローについての根本原因分析: 組織の制度やフローに潜むエラーの原因を分析し、改善することで、組織全体をエラーフリー化することができる。
エラーフリーの横断的原因分析: さまざまな部門や組織で発生するエラーを横断的に分析することで、共通の原因や傾向を把握し、組織全体で効果的な対策を講じることができる。
エラー情報の共有と報奨制度: エラー情報を組織全体で共有し、エラーを減らすための取り組みを奨励することで、エラーフリー文化を醸成することができる。
率先垂範: リーダー自身がエラーフリー思考を実践し、周囲に良い影響を与える。
ビジョンと目標の共有: 組織全体でエラーフリーを目指すことの重要性を明確に伝え、共通の目標として認識させる。
教育とトレーニング: エラーフリーに関する知識やスキルを習得するための研修や教育プログラムを提供する。
コミュニケーション: エラーに関する情報共有を促進し、オープンな議論ができる環境を作る。
評価と報酬: エラーフリーの取り組みを適切に評価し、報奨制度を導入することで、モチベーションを高める。
エラーを隠さず、共有する: エラーを責めるのではなく、そこから学ぶ姿勢を育む。
改善を継続する: エラーフリーはゴールではなく、常に改善を続けるプロセスであるという意識を持つ。
全員参加: リーダーから現場の従業員まで、全員がエラーフリーに責任を持つ。
エラーフリー思考は、一朝一夕に身につくものではありません。 しかし、意識的に努力を続けることで、誰でも習得することができます。 重要なのは、「エラーは起こるもの」という前提に立ち、エラーを恐れるのではなく、そこから学ぶ姿勢を持つことです。
また、エラーフリー文化を組織に根付かせるためには、根気と時間がかかります。組織全体で継続的に努力することで、エラーを減らし、より安全で効率的な組織を構築することができるでしょう。