2021/11/14 秋晴れの昼下がり

集中が切れ、ふ、と読みかけていた小説から顔を上げた。
窓から射し込む光に照らされた部屋は明るく広い。今日は近所の子たちも静かだ。
蒼穹の秋晴れの昼下がり。
なんて平和なんだろう。
平日の時間や行動の制約はなく、真新しい新刊の頁を捲るひととき。
舌がキャラメルポップコーンの味を思い出した。
世間には、一秒を惜しんで生きるひと、働くひとがたくさんいるだろう。
時間は戻らない。惜しむべき時間の貴重さの実感などまるで考えなかった、あまりに自由だった若い学生の頃。目の前にある時間を無碍に無為に過ごしてもいいと、今よりものびのびと思えていた。上映前の静かな興奮と共に友人と会話し、小さくはしゃぎながら、大きなスクリーンの前に座り、少し値段が高めのポップコーンを食べる贅沢。
許された平和のひとときを、自由に送ることを許された、幼稚な贅沢さ。
空気を多分に含んだしわい、ほろ苦くも甘く甘い感触ごと思い出す。
でも今ここにゆるされた、あの頃よりも淡く短い自由な秋は、あの頃よりも有意義で、ずっとずっと、好きだ。
時間の貴重さを、あの頃よりも知っている分だけ。

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