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窓辺からの眺め#7

休み時間に入り、教室は賑やかな雑談で一杯になった。美月は自分の世界に浸りつつも、頭の片隅では大翔のことを思っていた。そんなとき、目の前に突如として転がってきたのは緑のサッカーボール。美月はびっくりしてボールを見つめ、それから自然と視線を上げると大翔がそこにいた。

「おっと、ごめん、美月。ちょっとボール、返してくれるか?」大翔は少し照れくさそうに微笑みながら言った。美月は心臓がバクバクと高鳴るのを感じながらも、頷いてボールを拾い上げた。

そうして彼女は立ち上がり、ボールを大翔に手渡すために少しだけ近づいた。その瞬間、何もかもがゆっくりと動いているように感じられた。彼女はボールを大翔に差し出すと、彼の手と自分の手が少しだけ触れることを恐れ、思わずボールを急に放してしまった。

一瞬、教室内が静まり返った。

「ありがとう、美月。」大翔は優しく笑みを浮かべた。その笑顔に、美月は何も言えずにただ頷いた。しかし、その微笑みは彼女の心に深く刻まれた。

教室は再び活気を取り戻し、美月は自分の席に戻ってきた。サッカーボールを手渡した瞬間のこと、大翔の笑顔、そのすべてが美月の頭の中を巡っていた。大翔の笑顔は温かく、彼女の心を少しだけ解放した。

「何だかんだで、大翔と話せたんだもんね。」と自分自身を褒めて、美月はそっと小説のページを開いた。しかし、その一部分は現実と小説の狭間で揺れ動く彼女の心情と重なっていた。

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