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鉛のあしゅら

 改造医の河豚は簡単に折れた。

 河豚が扉越しに声をかけると、ガラス戸がかっ開き、待たせていたリンドウが端末を握ったまま飛んできた。
「直りますか?」
「ええ、一週間後に手術です」
 河豚が言った。
 おれが頷くとリンドウは笑顔で礼を言うなり、おれが載せられた四駆台車の取手を押し始める。
 医院から出るとすっきりした表通りだ。気取ったスーツどもがビビって道を開けていく。だいぶ背の低くなったおれを見下ろしながら。
 リンドウの顔を見上げると、彼女は自慢気に見返した。
「あたしを手術した先生なんだから。保証してあげる」
 細い手が降りてきて、おれの頭を軽く叩いた。

 いつもの店で中華を食った。リンドウにスプーンで供給口まで運んでもらう。味が薄く感じた。旨いと端末に送ると、彼女は笑った。現金で奢ろうとしたが押し切られ、彼女がカードで支払った。
 店から出たところで通知が届いた。
 家までのボディーガード役に立候補する。
「文字通り手も足も出ないじゃないの」
 彼女は苦笑した。

 大きな玄関先でリンドウが振り返った。
「今日は楽しかったよ、ありがとう」
 おれは笑みを返した。
 彼女が鍵を開ける。
 隙間から突き出される腕。おれが買ってやったスタンガン。
 崩れ落ちてきた彼女の身体を、潰されそうになりながら受け止める。
「ったく、この身体になれるとは役得だな、おめえ。無事にすり替わったらヤらせてくれよ」
 扉を押し開けたエビスは、気絶したリンドウの体を担ぎ上げ、尻を撫でた。
 睨みつける。
「医者の娘も良かったぜ」
 笑いながら肩を軽く叩かれる。
 ガレージのバンには幾つか物品が積んであった。
「こいつら金持ちは買い直すさ」
 うそぶくエビスは後部座席にリンドウを寝かせ、助手席のおれは端末に次の場所を送信する。
「廃機置き場か。身体を組み直したところでおれは殺せんよ」
 そこの近くの研究所にリンドウの母親が勤めているのは、彼女から頼まれたときに聞かされている。

【続く】


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