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英雄の証明
警告灯で赤く染められた階段を駆け下り、地下3階へ。上階からの悲鳴と怒号がここまで響いてくる。T字路。地図はインプットされている。右へ。
人影。
病院着を着た長身の男が壁にもたれ掛かり、血まみれの右手を抑えながら呻いている。
「ルパン」
駆け寄ったターミネーターは自身の病院着を破り、彼の右手にきつく巻く。純白の布が瞬く間に深紅に染まる。
ルパンを背負い、歩き出す。脂汗の量が背中越しにわかった。
「よお、やられちまったぜ」
「誰もいないはずだ」
「それがいたのさ、とびっきりの隠し玉がな。それと」
ルパンが握りしめていた左手を開く。
「こいつは、忘れちゃいけないだろ?」
汗まみれの鍵束があった。
「それと引き換えに君の利き手がだめになった」
「いいじゃない。黄金の鷲の像がさえ手にはいりゃあ、この傷さえ、どうにでもなるのさ」
「コラテラルダメージだのなんだのと、強がるものじゃない。医務室へ急ぐぞ」
「院長室が先だ」
「駄目だ」
「違う、あれを狙ってるのはおれたち以外に、もうひとり」
目の前の壁が砕ける。中から飛び出したそいつは、ふたりめがけ突っ込んでくる。
突き出された腕をターミネーターはとっさに弾く。その手に血まみれの包丁。
殴り倒す。一瞬見えた顔、男の顔に似せた白いマスク。感情のない目玉。
走る。上階、医務室、1階へ。背中のルパンが呻く。
「あいつだ。気配もなんにもなく突然だ」
「しかしどこで包丁とマスクを」
「妄想さ。おれたちと同じ。だが、あいつはそれが馬鹿みたいに強えのさ」
1階。無数の混乱した患者たちでひしめき合っている。人混みに紛れて進む。背後から悲鳴が近づく。大きくなる。背中の息が荒くなる。悲鳴は2階へ向かった。院長室へ急げ。
医務室へ着く。死体ばかり。鍵を掛け、必要な薬を漁る。
「あったぞ、ルパン」
返事がない。
外に通じる窓が砕ける。
伏せる。
銃火が部屋を薙ぐ。
背中でいやな音。
(続く)