バキラが首都にやってくる
「おーい少尉、しょーうい! デートに来たぞう!」
時速500km超で飛行する機動艦の尻に突き刺さった大型砲弾、それを内側から突き破ったのは筋骨凄まじい巨女であった。
銃撃で応えた三人の兵士を、数秒かけてそれぞれ蹴り、頭突き、こぶしの一撃で昏倒させると、顔面装甲にめり込んだ銃弾を指でほじくり返しながら鉄扉を前蹴りでこじ開ける。続く通路は機動艦の先端に向けて作られている。
「ガロフ少尉、あの女は何者なのです!……失礼」
制御室にいる副官は厚さ100ミリの封鎖扉に棚を被せる。自分でもバカなことをしていると気づき、思わず噴き出す。ガロフ少尉はそれを一瞥すると冷静にコンソールのスイッチを次々と操作していく。
「奴はバキラ。我が帝国で最も重い罪人だ」
「一体どんな犯罪を?」
「初代総統に恋をしたのさ」
「へぇー。なかなか揃ってるじゃん」
船内厨房の人員はバキラに抵抗せず逃げ出したので、食料を漁る彼女を止めるものは誰もいない。
調理台に腰掛けて齧り取ったボロニアソーセージを大瓶のウォッカで流し込んでいると、ドアごと吹き込んだ爆炎をまともに浴びる。倒れたところに大量の鉄片やコンクリートが躍りかかる。
「対象、転倒したようです」
「よくやった……つまりだ。今現在その座に君臨しているラー総統の秘密を我々が握っていると彼女は考えている……」
少尉が脊柱接続の痛みに耐える。
「あの人の周りは黒い噂ばかりですからね。そのために僕達は殺されかけるんですから、迷惑極まりない。全く、とんでもない人が総統になったものですよ」
「よくも邪魔しやがったな!」
体の上へ崩れ落ちた大量の壁の残骸を押しのけて、ようやく立ち上ったバキラは髪や装甲服の埃を叩いて払う。右腕だけ使っているのは左腕が直撃した残骸によって切断されたからで、断面を握り潰して止血したバキラは痛みに顔をしかめる。
その顔面に少尉の乗り込む機動歩兵の鉄拳が深々と突き刺さった。
【続く】
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