マガジンのカバー画像

逆噴射2022ピックアップ

52
運営しているクリエイター

#短編小説

「不殺生共同戦線」

剃り上げられた丸い頭。橙色の衣。小脇には鈍色の鉢。 僧侶達が列を成して托鉢へ歩み出す、朝6時のバンコク──。 ある僧列に、スーツ姿の男が駆け寄った。 駆け出しから13年付き合った間柄だ。たとえ5年振りでも、剃髪姿であっても、チャイは相棒の姿をすぐに見付け出せた。 「ダオ!」 僧名に慣れた今では懐かしき愛称。嫌が応にも反応せざるを得なかった。仲間の僧に一言告げ、ダオは僧列から離れた。 「…何の用だ」 感情の乗らぬ声を、チャイの早口が上書きする。 「タレコミがあった。

『IN WHITCH』

 午前七時五十分。リビングでコーヒーを淹れていると、妻がやっと寝室から這い出してきた。相変わらずの凄まじい寝ぐせで、90度真横に傾いた首を本数の定かではない指先で支えながらヨロヨロと食卓にたどり着く。 「おはよう」 「ふゎあ~よう」  妻は朝に弱い。学生時代からそうだったというがキャンパスではそのようなそぶりを一度も見せたことのない「優等生」だった。凛とした立ち姿と知性的なブルーグリーンの黒髪に魅入られた俺の奮闘はライフログをあたってくれ。 「WITCH、バタートースト