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PARADOX DIMENSION : Chapter 1『Cycle No. 4597.』: Prologue『Bad, luCid Dream.』
「――卒業証書、狭昏恵視」
……ああ、また。
また、この悪夢だ。
推準学園。私の通った学校で、1週間前体育館で行われた卒業式。その記憶を、私の脳が夢に投影する。フィルムに焼き付けられたかの様に内容を一寸も違えず、この1週間ずっと上映中だ。
つまり、明晰夢であるのに、自分の思い通りに展開の舵を取れたことがない。
だから私は、校長先生と目を合わせぬよう床を必死に見つめている。
そうしていつまでも、卒業証書を授与する校長先生の次の言葉を待つ。「以下同文」という4文字を。しかしその時は、永劫にやって来ない。
瞬間、生温かい液体が飛んでくる。ぷよぷよした固形物も。それでも私は顔を上げない。背後で悲鳴が上がり、大勢の逃げ惑う足音を聞いても尚。
頭が爆散する校長先生の姿なんて、もう見たくないから。
その映像を思い出し、床に吐いた。涙と嗚咽を漏らす。胃液に溶けかけの昼食の臭いと流動感が口の中いっぱいに広がる。しかし現実は変わらない。
今頃数人の生徒の首が、血液を切り口から散布しつつ体育館の宙を舞っている筈だ。それを思い出しまたえずく。もう胃に吐くものは残っていない。
卒業式は、一瞬で恐怖と狂乱に染め上げられ、生徒と先生の情動が頂点に達した。
その時、満を持して体育館の扉が開かれる。
けど、そこに立つのは英雄ではない。悪役にしても悍ましい存在。
細長い肢体にスーツとシルクハット。肌は漆黒。顔は完全な球体で、にたりと笑う白い歯だけが見えるふざけた造形。
シルクハットを脱いで、その異形は恭しく礼をし、言い放った。
『初めまして、未来ある諸君。そして誠に遺憾ながら、此処で打ち切りだ』
絶望が、封切られた。
……映像はいつも、そこで終わる。
(続く)