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白き泥中に咲く
サンタクロース。
それは、子供の物的欲求を満たす為に作られた資本主義の産物――と俺は考えている。ロマンの無い答えだ、と嘗ての相棒に笑われたのを思い出した。
若い俺は当時、それを嘲笑と受け取りこう反駁した記憶がある。
『なら、悪い子にサンタが来ないのは何故だ? それは、余裕がなく切り捨てたからじゃないのか? サンタは子供にプレゼントを贈る。その為には金が要る――全世界の子供相手となれば莫大な資金が必要だ。いくらサンタでも、用意は難しいんじゃないのか?』
それに対して、相棒は何と答えたのだったか。
然しその答えがどうあれ、俺はあの質問の前提が間違っている事を認めねばならない。
サンタクロース。
そう。悪い子の目の前に、赤白衣装の男が白い袋を傍らに立っていた。12月の寒風が部屋に忍び込む――サンタは煙突からではなく、窓を一部切り抜き鍵を開け、侵入したのだろう。
サンタは袋に手を突っ込んだ。
出て来たのはプレゼントではなく、拳銃。
間髪入れず――轟音、弾丸。
俺はそれらを頭上でやり過ごした。引退し、身体的に衰退したとは言え、まだ若い者には負けはしない。
サンタは動きが一瞬固まる。顔も引き攣っていた。
その隙にサンタの睾丸目掛けて拳を叩き込む。
「うぐっ!?」
情けない声と共にサンタは銃を手から落として蹲った。
勝負あり。俺は拳銃を拾い、サンタの頭に突き付ける。
「答えろ。誰かの差し金か?」
「……っ」
サンタは呻くばかりで答えない。
とっとと殺しても良いが、生憎俺は今や一般人。この齢で、殺人罪を犯して豚箱で余生を過ごすのは真平御免だ。
だから殺さない。但し脅しには使わせて貰おう。
轟音。態と銃弾を外す。床に弾が減り込んだ。
「答えろ。誰かの差し金か?」
「……そ、うだ」
漸くサンタが口を開いた。一体誰がこんな馬鹿げた真似を。
「依頼者の名前を言え」
「……影蛇組」
鳥肌が立つのを感じた。
それは、嘗て俺が所属した組織の名前。
【続く】